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「沖縄は基地で食っている」はデマ 翁長知事「むしろ経済発展の最大の阻害要因」

繰り返されるフェイクニュースやヘイトと戦うため、自ら発信を始めた。

基地問題を議論する上で必ず出てくるのが「沖縄は基地で食っている」という言葉だ。米軍基地が沖縄の経済を支えているではないか、と沖縄に基地があることを正当化する論理だ。翁長雄志知事はこれを否定する。

BuzzFeed Newsのインタビューに翁長知事は、基地が沖縄に経済的利益をもたらしていた時期は確かにあったと言いつつ、「今では米軍基地は沖縄の経済発展の最大の阻害要因です」と強調した。

どういう意味なのか。

「沖縄には基地問題に対する相当な誤解があり、フェイクニュースもたくさん生まれている」

12月中旬、東京都内でBuzzFeed Newsの単独取材に応じた翁長知事は、そう口を開いた。

全国にある米軍基地のうち、70.6%(面積比)が集中している沖縄。なかでも県内人口の9割が集まる本島は、約15%が米軍基地で占められている。

基地の返還は少しずつ進んでいる。しかし、普天間基地の県内移設工事をめぐっては住民の反対もあり、国と沖縄県の間で軋轢が広がっている。

「いまの日本の安全保障では、多くの米軍基地を担っている沖縄が大きな役割を果たしていると言えます。しかし、僕らがそれについて文句を言うと、『お前ら中国のスパイか』などの言葉を投げられる。バッシングや、冷たい言葉も」

翁長知事は、そうした言葉に傷つく沖縄の人たちについて、こんな例をあげた。

「本土からゴルフをしにきた観光客の人は、『沖縄の人は基地に反対しているのでしょ』と言う。そうするとキャディーさんは『反対する人はいませんよ。経済もありますし。一部の人が騒いでいるんですよ』と答える」

「なぜか。県民からすれば、本土の人たちと論争が始まってややこしいことになることを避けるためなのです。バッシングが来るから、心の声を出せなくなっている。言いたいことを、言えなくなっている」

だが、本土から来た人は、沖縄で反基地の人はごく一部なのだと勘違いする。沖縄の人がそう言っていた、と。

根深い「基地依存」という指摘

翁長知事がなかでも「根深い」と感じている「デマ」は、「沖縄経済が基地に依存している」という言説だ。

「『沖縄は基地で食べているんでしょう、だから置いておけば良い」という上から目線の物言いをどう払拭するかは課題でした」

この言説をベースに「基地をもらっておいた方が良い」「我慢してほしい」などと考える人が多いという。

沖縄の経済が基地に依存していた時期は、たしかにある。終戦直後のことだ。翁長知事が「生産手段がゼロになったから」と指摘するように、沖縄戦で島中が焼け野原となり、他に日々の糧がなかったゆえの依存だった。

生産手段の回復とともに、依存度は劇的に下がる。統計で見てみる。

アメリカ統治下の1965年で30.4%。1972年の本土復帰時に15.5%。その後も下がり続け、1990年代以降は5%代だ。「米軍基地が沖縄経済を支えている」とはとても言えない。

この件に関しては、産経新聞は1月4日、沖縄県が観光収入を過大発表 基地の恩恵少なく見せ、反米に利用かとの記事を配信した。

記事では、沖縄県が県民経済計算の「参考資料」で、観光収入に経費などの「中間投入額」を計上したまま算定しており、これが「基準と異なっている」と指摘している。

県がその数字を基地収入と比較したうえで、「沖縄経済が基地に依存しているというのは誤り」と主張している、と批判した。

ただ、これはミスリードだ。

そもそも、上記のグラフの元になっているのは「県民総所得」で、産経新聞が指摘するデータとは違うものだ。県統計課によると、これは国の算定基準に基づき、経費などの「中間投入額」も控除されている数字だという。

つまり、産経新聞の指摘は、県民総所得に占める基地関連収入は5%しかないという統計的事実とは全く関係がないものだ。

また、「参考資料」は「あくまで県外から沖縄に入ってくるお金を例示しているもの」(統計課担当者)であり、基地収入と観光収入を比較する目的はないという。この件については、今後、改めて記事にする。

ネットではこの産経の記事を元に、「沖縄経済は基地なしでは崩壊する」「沖縄県は嘘をついている」などという批判の書き込みが並んだ。まさに、翁長知事が言う「沖縄バッシング」の事例だ。

米軍が返還した地域が急速に発展

逆に「米軍基地が沖縄の経済発展を阻害している」と言えるデータもある。

米軍が返還された地域が、跡地利用で急速に発展している。代表例が、那覇市中心部「新都心地区」だ。

かつて米軍関係者の住宅街だったこの土地は、30年前に返還された。区画整理を経て企業や大型ショッピング施設が立ち並び、沖縄の経済拠点となった。

沖縄県の2015年の試算では、跡地利用の「直接経済効果」が年間1634億円(返還前52億円)と32倍に、雇用も1万5560人(同168人)と93倍に拡大。他の返還地でも、同様の結果が出ているという。

基地が返還された方が経済的にもプラスだという結論から、翁長知事が使い始めたのが「米軍基地は経済発展の最大の阻害要因」というフレーズだった。

「『基地で食べている』ということに反論するために使ったのがこの言葉です。数年を経て、ようやく一般の人たちにも広がってきたと感じています」

「こういう言葉を聞いた人が、経済的依存について、『どっちが嘘なの?』と考えてもらうことにこそ、意味がある。たった1行の言葉だけで、沖縄が変わっていくことになる。だから、どんどんと使っているのです」

人権問題としてだけではなく、経済的な側面からも基地問題を訴えれば、若い世代にも意識が浸透するのではないか、という狙いもあるという。

自らが発信することの大切さ

フレーズを生み出すことに止まらない。県としても、さまざまな「誤解」を紐解くための情報発信を続けている。

県は2016年に「沖縄から伝えたい。米軍基地の話 Q&A Book」という冊子を発行。ネット上にもPDFを公開した。先ほどの統計もその一部だ。

「沖縄の米軍基地 ホント?うそ!?」と銘打ったこの冊子は21の疑問に答える形で、ネット上で語られるデマを否定している。

「基地の周りに人々が住み始めた」という言説についても、普天間基地の敷地内に戦前に住んでいた人は1万4千人いたことを指摘。こう文書で補強している。

当時の宜野湾村の中心は字宜野湾という場所で、現在の普天間飛行場の中にありました。そこは、もともと役場や国民学校、郵便局、病院、旅館、雑貨店がならび、いくつもの集落が点在する地域でした。

翁長知事は、こうした地道な取り組みの成果を感じているという。

「沖縄の現状を理解する方々も出てきている。ただ、そうでもない人たちの無関心や上から目線はいまだに多くある。それを払拭しないといけない」

「どのようにさらなる理解を得ていくのか。沖縄が自らが、頑張って発信していくしかない。理想論かもしれませんが、5年、10年経てば、この状況は落ち着くのではないかと考えているんです」


BuzzFeed Newsでは、翁長知事への単独インタビューを4回にわたって掲載します。

1月6日午前11時には【ピエロになってでも、基地問題を変えていきたい。翁長知事が若い世代に伝えたいこと】を配信予定です。これまでの記事はこちら。