個人向け新型PC「VAIO SX14-R」が11月8日に発売される。直販サイトは最小構成で25万9800円(税込)。
撮影:小林優多郎
2014年7月にソニーから独立して10年。PC専業メーカーの「VAIO」は、ソニー時代とは大きな変貌を遂げている。
VAIOのノートPCは今、法人市場で出荷台数を大きく伸ばしている。2023年度の法人向けモデルの出荷実績は、2年前の2021年度比で201%にもなる。
売上高では、2024年5月期が421億2800万円。法人向けモデルが牽引し、2年前の2022年5月期の224億2900万円に比べ、2倍近くになっている(いずれも官報より)。
また、10月31日には最新ノートPC「VAIO Pro PK-R」(個人向けモデル名は「VAIO SX14-R」)が発表された。なぜ今、法人市場でVAIOが勢いを増しているのか。2021年6月から同社を率いる、VAIOの山野正樹社長に聞いた。
(2024年11月11日 14:15追記)VAIOは11月11日、家電量販店を営むノジマ傘下に入ることを発表した。VAIOブランドの独立性や経営方針等は変わらないとしている。
ソニーから独立し「法人特化」「海外撤退」を決断
VAIOの山野正樹社長。
撮影:小林優多郎
── 法人事業が売上げの9割を占めていると伺いました。その背景を教えてください。
山野正樹社長(以下、山野氏):10年前にソニーから独立する際、2つの決断をしました。1つは海外事業からの撤退、もう1つが法人市場に舵を切ることです。
個人向けだと、新しい製品を次々に出さないといけない。ビジネスの継続のために、顕著な需要が見込める法人に舵を切ろうと決めたんです。
ただ、法人市場での実績はなかったので、当初は非常に苦労しました。
3年半前に社長に就任して思ったのは、VAIOの製品は法人に必要とされる堅牢性や品質面でも申し分ないが、それをアピールできていないということです。
そこでまず、大企業への「ハイタッチ営業」(代理店等を挟まず直接顧客とやりとりする営業手法)をやりました。
そこで実績を作ると同時に、ディストリビューターである特約店、販売店との関係づくりに取り組んで、それがようやく花開いてきたという感覚です。
我々が直接売るだけではレバレッジが効きませんが、ディストリビューターからもVAIOの良さが広がった結果、販売数が右肩上がりで増えてきました。
VAIO社内にも掲げられている「商品理念。」
撮影:小林優多郎
── 企業には、VAIOのどういったところが評価されているのでしょうか?
山野氏:商品理念である「カッコイイ、カシコイ、ホンモノ」に尽きると思います。
カッコイイは、VAIOがVAIOたる所以。今回のVAIO Pro PK-Rでもディープエメラルドという新しいカラーに挑戦しています。
法人向けと言えば「黒」か「シルバー」が定番ですが、VAIOでは以前から展開している「ブロンズ」が今では人気色になっています。
とはいえそれだけでは、法人向けには売れません。当然ながらヘビーな使用にも耐えられる堅牢性や高い品質が求められます。
そこには自信を持っていますが、今回の新製品では従来よりも検証のステップを一段階増やして、さらなる堅牢性の向上に取り組んでいます。
11月発売新製品が新型チップを載せないワケ
VAIO SX14-Rは、天板、底面に新開発の熱可塑性カーボンプレートを採用し、約948gという軽さと堅牢性を両立している。
撮影:小林優多郎
── 新製品の「VAIO Pro PK-R」ですが、チップセットが9月発表の「インテル Core Ultra シリーズ2」ではなく、シリーズ1を採用しています。
山野氏:日本の国内法人市場では、今でも第13世代インテルCore プロセッサー(2023年登場)が主力です。Core Ultra シリーズ1でもまだ新しいという感覚です。
もちろん、我々もその気になればCore Ultraシリーズ搭載製品をもっと早く出せると思います。
ただ、法人向けの販売だと「1社に1万台」などの規模のビジネスがあります。もし、その中で不具合が2、3%でも出てしまうと大きな問題になります。
やはり、品質の検証をしっかり時間を取ってやる必要があったので、そこの熟成をしっかりさせたというのが今回の新製品の位置づけですね。
オンライン会議関連機能はソフトウェアで細かい調整ができる。
撮影:小林優多郎
時間がかかった分、使い勝手の向上にも力を入れています。
例えば、Back to Office(いわゆるコロナ禍後の「オフィス回帰」)になっても、リモート会議の利用は続いています。
そこで、ノイズキャンセリング用のマイクを3つにして、後方や隣人の声を拾わないようにするとか、外で仕事をするときのために覗き見防止のアラートつけるなど、ユニークな機能を搭載しています。
成熟化したPC市場での生き残り戦略
撮影:小林優多郎
── 法人向けはコスト優先になりがちです。VAIOが「カッコイイ」にこだわる理由は何ですか?
山野氏:(コスト削減をして)他社と同じ製品になってしまったら、VAIOの価値がなくなってしまうからです。
デル、HP、レノボといった、我々より生産数量が二桁違うようなところに対抗できるかというと、できません。だから「カッコイイ、カシコイ、ホンモノ」にこだわります。
ただどんなに良い製品でもすごく高ければ買ってもらえない。商品理念を実現しつつ、価格競争力をつけていくことも大事です。
10月17日に発表されたムーミンモデル第2弾の「VAIO F16・F14」。
撮影:小林優多郎
例えば、スタンダード価格帯の「Fモデル」は、VAIOにとって大きなチャレンジでした。「いいもの」しかやらないというところから、スタンダードな価格帯で勝負できるものを社内で議論を重ねて出したのがFモデルです。
ただ、まだ実力不足で、想定していたほどのコストダウンは実現できていません。シリーズの次の世代では、さらに価格面で挑戦していきます。
── 就任後に始められた取り組みとして、再生品の販売にも着手されています。
山野氏:リファービッシュ品(整備済み再生品)は、今まさに本格的な事業展開に向けて準備しているところです。
個人から買い戻すとスペックも機種もバラバラですから、基本的には法人から買い戻して法人へ販売することを考えています。
バッテリーやキーボード、パームレストを新品にします。CPUは3年落ち、4年落ちになりますが、メーカー保証もつきますし、十分に価値を訴求できるような製品に仕立てられる。
価格面で新しいお客様にアプローチできると思います。例えば、3年使ったらVAIOに戻していただき、弊社で整備した上で、また同じ会社で使っていただくということもあるでしょう。
次の10年へ、VAIOブランドの行方
ビジネスPCとしては「攻めた色」のVAIO。
撮影:小林優多郎
── 法人に特化していくと、従来のVAIOファン離れや、新しいファンの創生が難しくならないでしょうか。これからの10年の成長戦略について聞かせてください。
山野氏:法人中心とはいっても、個人向けにももちろん力を入れています。
最近ではムーミンとコラボレーションしたモデルが好評ですし、そういったところからVAIOを感じていただく層を増やしていきたいし、広げていきたいと思っています。
法人ユーザーもひとりひとりは個人ですから、仕事でVAIOを使っていて良ければ、子どもが大学に入るときに選ぶということもあります。
全体のVAIOユーザーが増えてくれば、ソニー時代を知らない若い世代も含めて、自然にコンシューマーへの認知度も高まるだろうと考えています。
撮影:小林優多郎
法人向けもまだまだ開拓できると思っています。
社内調査で企業の情報システム関係の人に「ビジネスPCを3つあげてください」と言うと、VAIOが入る確率は4%ほどでまだまだ認知度は低い。主要なPCメーカー10社の中でも一番下です。
一方で、NPS(ネットプロモータースコア:自分の使っているものを、ほかの人にどの程度勧めたいかの指標)では、10社のうちアップルに次ぐ2位なんです。
つまり、満足度は高いということ。だから認知度が上がれば、もっと使っていただけるし、成長の余地がある。
一方で、海外にも「Made in Japan」の価値は伝えられると思っているので、アメリカとか中国とかアジア中心に広げていきたい。
「VAIO SX14-R」に「VAIO Vision+」を接続しているところ。ディスプレイサイズは全く同じ。
撮影:小林優多郎
7月に世界最軽量のモバイルディスプレイとして「VAIO Vision+」を発売しましたが、PCの周辺領域にも製品、サービスを展開して、全体のパイを広げていきたいと考えています。
具体的な数値目標などは定めていませんが、やることはたくさんある。一歩一歩進んで10年経ったときに振り返ると、随分遠くに来たし、高いところに来た。そういう状態を(この先の10年でも)作るのが今の目標です。