AIブームのおかげで、ハードウェア株は10年ぶりにソフトウェア株を上回っている。
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- ソフトウェア株は、長い間好調だったが、2024年は急落している。
- 一方、ハードウェア株はAIブームの恩恵を受け、利益が急増している。
- ベアードのテッド・モートンソンは、「自動車とエンジンを作っているが、ソフトウェアには乗客がいない」と話している。
急速に普及する生成AI(人工知能)の導入は、過去10年間、ウォール街で最も成功していたテクノロジー業界の一つを揺るがしている。
利益率の高さと資産規模の小さいビジネスモデルとして知られているソフトウェア株は、2014年以降、資産規模が大きく利益の小さいハードウェア株を常に上回って来た。
例えば、NYSE Arcaコンピュータ・ハードウェア・インデックス(NYSE Arca Computer Hardware Index)の過去10年間の上昇率は312%であるのに対し、ダウ・ジョーンズUSソフトウェア・インデックス(Dow Jones U.S. Software Index)の同期間の上昇率は576%だ。
だが、2024年に入ってから、エヌビディア(Nvidia)、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(Advanced Micro Devices:AMD)、スーパーマイクロコンピューター(Super Micro Computer)、ブロードコム(Broadcom)、デル(Dell)といったハードウェアメーカーが提供するAI対応GPUチップの争奪戦によって、こうした状況は一変している。
2024年はハードウェア関連株がソフトウェア関連株を30ポイントも上回っている。
YCharts/Business Insider
モンゴDB(MongoDB)、セールスフォース(Salesforce)、スノーフレーク(Snowflake)などのソフトウェア株は、AIによる利益が目前に迫っていることを投資家に納得させることができなかったため、2024年は酷評されている。
ソフトウェア企業としてAIを収益化するのは難しい
ベアード(Baird)のマネージングディレクターでテクノロジーストラテジストのテッド・モートンソン (Ted Mortonson)によると、こうした動きは、ハードウェア企業が好調なビジネスを享受している一方で、ソフトウェア企業がAIの収益化に苦労しているという事実を反映しているという。
「この生成AIのサイクルはインフラ、すべてのインフラだ」とモートンソンは今週Business Insiderに語った。
「クラウド大手企業の2024年の支出は、データセンター向けの支出に2000億ドル(約31兆4873億円)を費やしており、これは50%の増加だ。それが生成AIの馬力、つまりエンジンなのだ」
モートンソンによると、大規模な言語モデルを開発するために、高価なGPUに数千億ドル(数十兆円)が費やされている一方で、ソフトウェア企業やその顧客に大きな投資収益をもたらすアプリケーションはほとんどないという。
「フォーチュン500(Fortune 500)の30%の企業がクラウドに移行している。そのうち10%が生成AIに対応している。したがって、ソフトウェアと許容できる投資資本利益率の実現にはまだまだ長い道のりがかかる。ソフトウェアが顧みられないはそのためだ。 アプリケーションがないため、投資に見合うリターンがない。車とエンジンは作っているが、ソフトウェアには乗客がいないのだ」とモートンソンは言う。
モートンソンは、企業が生成AI技術をうまく活用するための重要な課題の一つは、生成AIが理解できる形式でデータを整理し、構造化する必要があると説明する。
このプロセスには最低でも15カ月かかるが、モートンソンが最近ソフトウエアに特化したテック企業の幹部らと話したところ、そのプロセスに着手している企業はほとんどなかったという。
「2025年後半から2026年までは無理だろう。そこには何もない。何の変哲もないただのハンバーガーだ」
IT予算は逼迫している
ソフトウェア企業もまた、顧客がソフトウェアからGPUハードウェアへと支出の優先順位を変えているために厳しいIT予算に対処している。
「大手企業は、AIが『正しくなければならない』命題であることを認識しており、その結果、現在は半導体とハードウェアへの支出に比重を置き、ソフトウェア支出を抑えている。この状況は当面続くだろう」とブルー・チップ・デイリー(Blue Chip Daily)のストラテジストであるラリー・テンタレリ(Larry Tentarelli)はBusiness Insiderに語った。
「現在、IT予算は非常に厳しい状況にあるため、どこもSaaS(Software as a Service)を注意深く調べているところだ」とモートンソンは言う。
モートンソンによると、この動きは、2025年までハードウェア株がソフトウェア株を上回り続けることを意味するという。
「我々は小さなハイプサイクルの中にいる。インフラが調整され、コストが削減され、アプリケーションがこの次世代アーキテクチャで動作するように設計されるまでは、これが最終的な結論だ。それが実現してデータが移行されるまで、企業向けのソフトウェア生成AIは実現しないだろう」とモートンソンは言う。
「生成AIソフトウェアに関しては本末転倒だ。アプリケーションがないのだ」
映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』の登場人物のモデルとして有名な実業家のスティーブ・アイズマン(Steve Eisman)もハードウェア株がソフトウェア株に比べて引き続き好調を維持すると予想していると2024年6月13日にCNBCの番組内で話している。
「すべてとは言わないが、一部のソフトウェア企業が事業の周囲に築いている塀はそれほど高くはならないだろう。ハードウェアの再評価は今後も続くだろうし、ソフトウェアの一部は頓挫するという議論も成り立つ」とアイスマンは語っている。