
- メルセデス・ベンツは、2023年にアメリカでレベル3の自動運転を導入すると発表した。
- 同社が開発した「ドライブ・パイロット」のシステムによって、ドライバーは特定の条件下で道路に注意を払わなくてもよくなる。
- この発表は、運転支援技術に注力してきたテスラが経営的な困難に直面している最中に行われた。
イーロン・マスク(Elon Musk)は何年も前から、ドライバーのいらないテスラ(Tesla)の登場はもうすぐだと述べていた。また、いずれはテスラのオーナーが自分のテスラ車を自動運転のロボットタクシーとして働かせることで受動的収入を得られるようになるとし、テスラが自動運転技術を確立できなければその価値は「基本的にゼロ」だとさえ主張してきた。
しかし、自動運転の世界における重要なマイルストーンを最初に打ち立てたのは、テスラではなくメルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)だった。同社は2023年1月、アメリカ初となる「レベル3(条件付き自動運転)」の認可をネバダ州から受けたことを発表したのだ。
テスラが競争の激化と需要の低迷に苦しむ中での発表だった。
メルセデスが開発した自動運転システム「ドライブ・パイロット」は「極めて重要なものだ」と、サウスカロライナ大学の法学部教授で自動運転車を専門とするブライアント・ウォーカー・スミス(Bryant Walker-Smith)はInsiderに語っている。テスラをはじめ他の自動車メーカーの最先端の自動運転ソフトは、業界標準の「レベル2」にとどまっており、ドライバーに対して走行中は十分な注意を払うことを求めている。
メルセデスの「レベル3」のシステムでは初めて、車が自動走行している間、ドライバーは道路から目をそらす余裕が持てることになる。
「これまで行われてきたことや、現在市販されている車でできることはすべて、常に人間が注意を払う必要があった。メルセデスのシステムによってそれを長時間する必要がなくなる」とスミスは言う。
「これは1世紀以上にわたる自動車開発の歴史を覆すことだと言える」

テスラ、フォード(Ford)、その他ほとんどの自動車メーカーは、何らかの形でレベル2の自動運転ソフトウェアを提供している。これらのシステムは(主に高速道路で)自動的にハンドル、ブレーキ、アクセルの操作を行うが、あくまでもドライバーをサポートするものであり、操作を完全にコントロールし、道路に注意を払うのはドライバーだ。
しかし、メルセデスのドライブパイロットはその一歩上を行くもので、一定の条件下ではドライバーの注意を他のタスクに向けることができる。このシステムは地図、カメラ、LiDAR、レーダー、マイク(緊急車両を探知)、路面状態センサーを駆使して、車線を維持し、他の車両との安全距離を保ち、必要に応じて衝突回避行動を取る、とメルセデスは説明している。ただし「レベル5」のような完全自動運転ではなく、ドライバーは必要に応じてハンドルを握る必要がある。
いくつか注意点もある。ドライブ・パイロットを搭載した車は2023年後半から販売されるが、レベル3の運転はネバダ州の特定の高速道路で、時速64km以下でのみ認可される。つまり、基本的には渋滞の中での運転となる。メルセデスはこのシステムを近々カリフォルニア州でも展開する予定だ。
ウェイモ(Waymo)やクルーズ(Cruise)などの企業は、一部の都市で無人タクシーを走らせているが、その種の技術は一般の自動車購入者が利用できるものではない。
自動運転を研究するカーネギーメロン大学のフィリップ・クープマン(Philip Koopman)は「テストドライバーとして訓練を受けていない人たちが、道路を見ずに運転しても大丈夫と言われるのだから、これはアメリカにおける自動運転の新たな章を開くものだ」とInsiderに述べている。今回の発表によって、このシステムを搭載した車が事故に巻き込まれた場合、メルセデスがいつ責任を負うのかという難しい問題も突きつけられたと彼は指摘する。
従来の自動車でも自動運転車でも、製品の欠陥によって引き起こされた事故に対しては、メルセデスが責任を負う可能性があると同社の広報担当者は述べている。
テスラが経営的な困難に直面している間に、同社が注力している分野で、メルセデスが先にマイルストーンが達成した。
2022年、マスクによるツイッター(Twitter)の買収や、かつて旺盛だった需要の低迷が懸念される中、テスラの株価は約70%急落した。同社は最近、最も人気のある車種の価格を引き下げ、販売増に努めている。同社のいわゆるフルセルフドライビング(FSD)システムは、数年にわたるアップデートを経てもまだ自動運転にはなっていない。また、FSDとテスラのより基本的な運転支援機能であるオートパイロットの両方が、政府の厳しい監視下に置かれている。
しかしドライブ・パイロットは、まだ人々の運転方法(あるいは運転しない方法)に革命を起こしているわけではない。クープマンもスミスも、これがニッチな機能から広く利用されるものになるのかどうかを見守っている。