
- 箱に入ったソフトウェアからクラウドベースのサブスクリプションへの移行は、グレート・リセッションの際に進行した。
- サブスクリプション型の課金モデルは今でも広く採用されているが、従量課金モデルも急速に人気を集めている。
- 再び不況が訪れようとする中、専門家は従量課金モデルが標準になると考えている。
2008年のグレート・リセッションは、ハイテク業界にとって、新しいビジネスモデルを推進する絶好の機会となった。セールスフォース(Salesforce)、ネットスイート(NetSuite)、そしてグーグル(Google)などの企業は、顧客がパッケージソフトに一度だけ支払いをするのではなく、月額または年額での支払いに慣れてもらうようにしたのだ。
それから10年以上が経ち、サブスクリプションモデルはクラウドコンピューティング時代を象徴するものになっている。マイクロソフト(Microsoft)やアドビ(Adobe)といった既存企業も、ズーム(Zoom)のような新興企業もすべてこの流れに乗り、サブスクリプションは多くの企業やユーザーがソフトウェアを利用する際のデフォルトになった。
だが、世界的な不況が再び訪れようとしている今、ソフトウェアのビジネスモデルに新たな変化が起こりつつあると業界関係者が述べている。新興のテック系企業は、ソフトウェアの代金を1回だけ請求したり、サブスクリプションとして毎月の利用料を請求したりする代わりに、いわゆる使用量に基づく従量課金モデルを推進しているのだ。
「優れた企業は『さまざまな顧客に対応できるように、さまざまなモデルを用意したい』と考えている。顧客によって求めるものが違うのだから」と、サブスクリプション課金管理会社ズオラ(Zuora)のティエン・ツォ(Tien Tzuo)CEOは語る。
従量課金モデルは、名称通り顧客が使用した量に応じて金額を請求するというものだ。アマゾンウェブサービス(AWS)などのクラウドプラットフォームは、ホスティングサーバーの使用料を分単位で請求している。またスノーフレイク(Snowflake)など新世代のデータ会社は、プラットフォーム上に保存されたデータ量に対して使用料を請求している。
資金をできる限り有効に使いたい顧客は、このような課金モデルの柔軟性にどうしても引き付けられるようになると専門家は予測している。そうなると、大企業も中小企業も、このモデルについて、少なくとも検討を始めるようになるだろう。
「ビジネスモデルの進化を考えてみると、顧客にとってより親しみやすい存在であることが、常にトレンドとなってきた」とRBCキャピタルマーケッツ(RBC Capital Markets)のソフトウェアアナリスト、リシ・ジャルリア(Rishi Jaluria)はInsiderに語っている。
「従量課金モデル、あるいはその要素を取り入れた企業が増える可能性が非常に高いと私は考えている」
従量課金モデルには欠点があるものの、最終的には利益を生む
従量課金モデルの欠点は、予測がしにくいことだ。
サブスクリプション制を取り入れている企業は、有料会員数を基に翌月の売上を予測できる。しかし、従量課金制では、ある月にサービスをたくさん利用した顧客が、次の月にはまったく利用しなくなる可能性もある。そのため、従量課金制を取り入れている企業は、不況の影響を受けやすくなる。不況下では顧客がサービスの利用を控えがちになるからだ。
一方、顧客はこのような柔軟性を好むため、その企業に対するロイヤリティや全体的な利用率を高める可能性もあると、専門家は考えている。
言い換えると、この従量課金モデルによって、企業は「毎月、顧客を獲得」しなくてはいけなくなると、ベンチャーキャピタルOpenViewのパートナーであるサンジブ・カレバー(Sanjiv Kalevar)は指摘する。このモデルは、毎週、毎月、あるいは毎年、顧客に請求書を送るという「自然な流れの延長線上」にあり、「(サブスクリプションのように)毎月請求するのではなく、毎週、毎日、あるいは稼働ごとに請求してもいいのではないか」と彼は述べた。
また、従量課金モデルの柔軟性によって、顧客は支払った分を使い切ることができたと感じることができる。
ガートナー(Gartner)のアナリスト、ジョン・サントロ(John Santoro)は「顧客に選択肢を提供することは重要だと思う」と言う。
「そうすれば、顧客が価格を気にするようになったときに、製品の利用を完全にやめる以外の方法を取ることができる」
ハイブリッド型課金モデルが業界全体の標準に
多くのアナリストは、従量課金モデルがすべての状況に当てはまるわけではないことに同意しているが、現在の状況ではセールスフォースなどサブスクリプションのパイオニアがこれまでのアプローチを見直す必要があるかもしれないと考えるアナリストもいる。セールスフォースの主力ソフトウェアに従量課金モデルが採用されることはないかもしれないが、これまでとは違う新たなサービスやツールに対して、このモデルを採用することに将来性が見出されるかもしれない。
ジャルリアは「これについてセールスフォースが検討するようになると思う」と言う。
「従量課金モデルは今のところアプリケーションレイヤーよりもインフラストラクチャレイヤーに適している傾向がある。そのため時間はかかると思うが、いずれセールスフォースは自社のソフトウェアに何らかの従量課金的要素を取り入れ、顧客側もそれを求めるようになるだろう」
最終的には、従量課金モデルとサブスクリプションモデルという2つのアプローチのハイブリッドが増えるだろうとカレバーは予測している。主力製品は固定価格で販売し、それ以外は従量課金ベースで販売するという企業もあるだろう。そうすれば、収入の予測性を確保しつつ、顧客にはより柔軟なサービスが提供でき、理想的には両者の良いところを取り入れることができる。
「多くの企業が、従量課金とサブスクの中間を選択している」とカレバーは述べていた。