スタートアップを中心に活用例が増えつつある「Notion」。その人気のワケは?
撮影:小林優多郎
多機能ノートツールの「Notion」が、じわじわと人気を集めている。全世界1000万人以上のユーザーがおり、すでに日本法人も始動している。
Notionを一言でいうなら「何でもできるドキュメントツール」だろう。メモやドキュメント、データベース、Wiki、タスク、プロジェクト管理からファイル管理まで。複数のクラウドツールに分散しがちな仕事に必要なあれこれを集約し、管理、共有できる。さらに、ドキュメントの一部をそのままWebページとして公開することも可能だ。
オンラインツールに感度の高い一部のスタートアップでは、すでにNotionを業務に取り入れて使い始めている。
ネットスーパーの垂直立ち上げサービスを提供する10X(テンエックス)社の事例から、「業務で使うNotion」の実例を見ていこう。
「社内情報のハブとしてNotionを活用」10X社に聞く
通常のテキストメモからカンバン表示まで、1つの場所に情報をまとめられるNotion。
画像:筆者によるスクリーンショット/Notion
ネットスーパーの垂直立ち上げサービスを提供する10X(テンエックス)では、社内の情報共有をほぼすべてNotionに統一している。
10X PR&HR担当の中澤理香さんはBusiness Insider Japanの取材に対し、Notionを業務に使う理由をこう説明する。
「IT系のスタートアップには、後から加わる人のために書いて残す、ドキュメンテーション文化があります。
特に10Xでは、必要な情報は自分で取りに行って、自分で仕事を進めていくスタイル。これを実現するには、情報がオープンになっていて、かつ欲しいと思ったときにいつでもカンタンに探せることが重要で、情報を一元化できるNotionはこうしたニーズに合致しています」(中澤さん)
以前は別のクラウドドキュメントツールを使用していたが、チームでより使いやすいツールを求めて検討した結果、行き着いたのがNotionだった。
「ほかのドキュメントツールと比較して階層構造がとにかく使いやすく、カテゴリーを細かく分岐できるなど情報を整理して管理しやすい。会社の成長にあわせて人数が増え、やることが増えてくると、階層もどんどんが複雑になっていきますが、どこに何があるのか辿りやすく、検索機能も優れているので必要な情報を素早く探し出せます」(中澤さん)
集約されている情報には、経営方針や事業戦略からファイナンス、業務に関わる各種ガイドやマニュアル、制度や手続きの案内、プロダクトの仕様書やプロジェクトごとのタスクや進行表、会議の議事録から、日報、個人のメモに至るまで、10Xに関わるありとあらゆるものが含まれる。
実際に10Xで使われているNotionのドキュメントの例。
出典:10X
ありとあらゆるものを記録するとはどういう意味なのか。
例えば、Notionが導入されたのは中澤さんの入社以前だが、当時どんなツールを比較検討してどのように意思決定したのか、すべて記録されているので簡単に情報を引き出せたという。
情報の一元化は徹底されていて「Slackでやり取りする以上の長文を書くときは、全部Notionに書く」のが定番になっているとのこと。
こうした社内コミュニケーションを補助するような使い方にも応えられる「ドキュメントの表現力の幅」も、Notionの大きな魅力だ。
ページの中に表を組み込んでデータベース化したり、タスクリストやプロジェクト管理をするガントチャート、カレンダーにカンバン方式のレイアウト(付せんのように情報を整理できる方式のこと)まで、用途にあわせた幅広いレイアウト、機能を持たせられる。しかも、テンプレートが豊富なので作成が簡単。複数の人が同時進行で編集を加えても、動作が軽快でストレスが少ないのも快適だという。
取引先との共有や採用ページにも使える柔軟性も
10Xで使われているNotionのプロジェクトボード。
出典:10X
小売・流通業者とのプロジェクトを多く抱える10Xだが、こうしたパートナー企業にも「NotionのURLを書き出すだけで情報を共有できる」と中澤さん。
10Xが利用しているNotionの Enterprise Planは他のウェブサービスのID/パスワードのサインインで使える“シングルサインオン機能”などのセキュリティー機能が充実しているほか、ドキュメントごとの権限も細かく設定でき、パートナーとのやり取りを集約する場としても優れているという。
「通常だとこちらとパートナー企業のそれぞれに窓口になる人がいて、そこから開発チームや法務というように分岐していきますが、Notionに集約・共有すれば窓口を介さなくても、それぞれがNotion上でやりとりしながら、どんどん作業が進んでいく。スピードが断然速いです」(中澤さん)
Notionでは前述のように、ドキュメントをそのままWebページ化することもできる。
10Xではこれを人材採用ページに活用し、担当者がエンジニアの手を借りることなく、直接更新できる仕組みをつくっている。
「以前は(採用ページを)その都度HTMLを書き直してポストしていましたが、採用ページは更新頻度が高くその対応が大変だった。そこでNotionで試してみたら、ノーコードで作れるし、見た目も悪くないということで切り替えました」(中澤さん)
採用ページのほか、ヘルプページでも、顧客対応チームのメンバーが直接作業できるようにNotionを活用している。同社に限らず、最近は他のスタートアップのコーポレートサイトやオウンドメディアでも、Notionが使用されている例を目にする機会が多くなっている。
日本語対応は2021年内にもありえる?
カレンダーでタスクの管理なども可能。
画像:筆者によるスクリーンショット/Notion
ここまで読むと、Notionが万能ツールのように見えるが、中澤さんは何でもできるわけではないとも話す。
「例えば、表計算ならスプレッドシートの方がいいし、スライドはやっぱりキーノートやパワーポイントでつくった方がきれい。
記事や契約書は提案モードで書けるGoogle ドキュメントが便利など、10Xでもやはり個々のツールは各自使いやすいものを使っています。
ただ、その全部を集約するハブになっているのはNotionです」(中澤さん)
情報を一元化して共有することが、素早い判断、仕事につながるため「スピードが重視されるスタートアップにとっては特にメリットが大きい」と話す。Notionがスタートアップに「神アプリ」などと評される理由は、ここにあるようだ。
Notion Labsで日本向け営業責任者(Head of Sales Japan)を務める西勝清氏によれば、Notionはこれまではバラバラだったツールが高いフレキシビリティをもちつつ「All-in-one」で利用できることに、高い評価を得ているという。
特にエンジニア、プロダクトマネージャー、デザイナーといった職種のユーザーの評価が高く、日本でも10XのようにスタートアップではNotionを全社的に導入している事例も増えている。
便利なNotionだが、システム表示言語はまだ英語と韓国語のみのサポートになる。
画像:筆者によるスクリーンショット/Notion
現在は英語と韓国語のみサポートされている。ただ、実は創業者であるIvan Zhao氏とSimon Last氏が、現在のNotionのベースとなる開発をしていたのは、一時移住していた京都。そうした経緯もあって、創業者の日本への思い入れは強いと言う。
「2021年はNotionを海外のツールではなく、日本のツールだと認識してもらえるようにしていきたい」と西氏は話す。
「例えば、使い方がわからないときに日本語でチュートリアルが読めたり、日本のユーザーコミュニティーに参加できる。あるいはサポートなどすべての面で、Notionを日本のツールだと思ってもらえるように取り組んでいく」(西氏)
日本語化については正確な時期は未定ながらも、Notionがより使いやすくなりそうだ。
太田百合子:フリーライター。パソコン、タブレット、スマートフォンからウェアラブルデバイスやスマートホームを実現するIoT機器まで、身近なデジタルガジェット、およびそれらを使って利用できるサービスを中心に取材・執筆活動を続けている。