【実録】「自宅が床上140cm浸水」から日常を取り戻すまで。実感した4つのこと:防災の日

伊藤 有/Tamotsu Ito[編集部]

伊藤 有/Tamotsu Ito[編集部]

Sep 1, 2020, 7:30 AM

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床上140センチ浸水した自宅
避難先から、床上浸水140cmの自宅に帰った直後の写真。今見てもショッキングな光景だ。
撮影:伊藤有
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相次ぐ地震、「異常気象」と言ってよいほどの全国的な猛暑、そして豪雨災害。コロナの流行に加え、日本に暮らすかぎり、年中、災害は免れないと言っても過言ではない。

2019年10月12日、台風19号で、僕の自宅は140cmの浸水被害に遭った。その体験記は、公開当時に多くの人から反響をいただいた。

あれから11カ月。日常生活はなんとか取り戻した。

いま、防災の日(9月1日)を機会に、少し視点を変えて、「被災から日常生活を取り戻すまでに何が起こるのか」「有効な支援や対策」「水害における都市の住宅の“盲点”」などをまとめてみたい。

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1. 大事なお金の話。「保険」の損害認定は、交渉次第で大きく変わる

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被災した翌週にやってきた損保会社の担当者による調査の様子。床上浸水が140cmだったことを測っているところ。
撮影:伊藤有

台風19号での被害復旧にあたっては、さまざまな公的支援や、自身の保険を使うことになった。

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日常を取り戻すための自宅の復旧改修で、一番大きな資金源になったのは「保険」だった。しかし、落とし穴があったのもここだ。

僕の居住エリアは、地域一体が水没か、それに近い被害を受けていた。加入していた火災保険では、被害状況(浸水の深さなど)に応じた「支払い費用換算テーブル」に沿って、査定をする仕組みをとっていた。

災害ゴミ
台風19号の被害にあってから1週間ほどあとの街の様子。こうした災害ゴミがあちこちに積み上げられていた。
撮影:伊藤有

この方式は、細かな調査を省くことで支払い査定が素早い反面、被害規模や内容によっては「復旧には不十分な支払い金額」になってしまうケースもありうる。

たとえば、水没したフロアが地下で、長期間水がたまった上に浴室やトイレなどの設備も被害を受けているウチのようなケースだと、設備復旧だけでかなりの金額になる。

実際、当初の査定金額は、元通りの復旧はとても望めない水準でしかなく、途方に暮れた。

「見積もり額が実際の修理額に満たない場合は、見積もりで差額を提示していただいて、再検討させてほしい」(保険会社の担当者)

問い合わせた保険会社の担当者はそう答えた。

2019年10月12日の被災から10日ほど後の10月下旬、知り合いの工務店2件に連絡をとった。相見積もりの形で書面を作ってもらい、11月上旬に保険会社に送付した。

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保険会社と損害額を交渉した顛末

ところが、再査定はなぜかなかなか進まなかった。

見積もり送付から約1カ月半、保険会社から最終的な確定連絡のあと、台風19号の損害保険金がやっと支払われたときには12月が終わろうとしていた。

生々しい話だが、改めて損保会社が伝えてきた損害金額は、当初提示のほぼ2倍だった。これが多いのか、一般的なのか。

その妥当性については、少し前だが、2015年に水災による全壊・大規模半壊世帯の損害保険金の支給額を調査したこんなデータがある。

出典:水害時の避難・応急対策検討ワーキンググループの調査「水害保険について」より
出典:水害時の避難・応急対策検討ワーキンググループの調査「水害保険について」より

支払額のトップが「1000万円以上〜2000万円未満」に驚くが、全壊・大規模半壊判定された場合の損害が、この規模になることはさほど珍しくないという。これをみると、水災における損害保険の役割の大きさは、実体験とも一致する。

なお、肝心の保険料だが、20年分前払い一括の火災保険でも、数十万円というレベルだ(家の規模や査定額によって変わる)。支払い額からすると、いざというときの安心感はとても大きい。

ポイント:

  • 保険はちゃんと権利を行使すれば、大きな安心感と助けになる
  • 何事も交渉次第。多少自分の時間を使ってでも、正当に抗議するのは効果がある

2. 水没した家の復旧は、被災からざっくり8〜10カ月かかる

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Business Insider Japan

被災直後に書いた記事では「復旧に半年〜1年かかる」と予想していたが、その実際の期間も報告しておく。

自分自身と、たまたま近所に住んでいて同じく被災した友人の実例をみると、復旧期間は「8〜10カ月」というのが答えになる。

ポイントは、「損害金額の確定(保険支払いの確定)」がキーファクターになっていることだ。修理予算が固まらないことには、補修工事に取りかかれない(損害金額の確定までかかった時間分、復旧完了が遅れる)。

また、現状復旧といっても、壁の材質や再設計する設備の選び直しなど、決めるものは多い。損害金額の確定から「仕様決定(図面決定)」、その後の着工日の調整など、実際の工期以外の時間もかなりかかる。

では自己資金だけでやると、どれくらい早く済むのか。これもデータがあって、身の回りで知る限り一番早かった家で、2月中の復旧だった。

つまり、最短に近いスケジュールで動いたとしても、やはり被災から4カ月強はかかってしまうということになる。

ポイント:

  • 水没からの復旧の早さは、予算確定(損害金額の確定)に大きく左右される
  • 床上140cm浸水規模だと、どんなに急いでも被災から復旧まで4〜5カ月はかかる
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3. 1年近く経っても完全復旧に至らないマンションも。それには理由がある

写真はイメージです。実際の建物とは異なります。
写真はイメージです。実際の建物とは異なります。
Shutterstock

自身が被災して、地域住民向けの行政の説明会にも参加するなどして見えてきた「想像もしなかった被害」というものもあった。

その代表的なものは「マンション共有部の被害」だ。

1階部分が台風19号で水没したあるマンションでは、共有部として、「エレベーター」「立体駐車場」といった設備や機械室が大きな被害を受けた。

このマンションのエレベーターの復旧に、どれくらい時間がかかったか予想できる人はあまりいないと思う。

実情として、エレベーターが使えるようになったのは、夏に入る直前の時期(つまり、つい先日)。さらに、立体駐車場については、実はいまだ動いていない。

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共有部分の補修には、マンション住民の一定数の賛成がないと実行できない(写真はイメージです)。
Shutterstock

なぜ、首都圏のマンションでこんなことが起こるのか?

よく知られるように、共有部分の補修には、マンション住民の一定数の賛成がないと実行できない。

関係者によると、特に立体駐車場については、「全戸がマイカーを所有しているわけではない」ため、条件調整が難航して、現時点でも復旧できていないという。

このマンションだけが、特別な例ではない。2019年末に開かれた住民説明会の中では、同様の例として「共有部分と、占有部分とを合わせると、億単位の被害が出ている」と訴える別のマンション住人もいた。

住民説明会に立った区の職員も、「今回の浸水被害を重く受け止めている。地下に機械室があるマンションで甚大な被害が出ていることは重々承知している」とコメントしていた。

このような地下や1階の機械室問題は、利便性や環境の良さを優先して、ハザードマップ地域に済む場合に考えておくべき「水災の盲点」といえるべきことの1つだ。

ポイント:

  • ハザードマップ地域に住む場合、重要設備が水没しない場所にあるかどうか。普段から対策を話し合っておいたほうがいい
  • 集合住宅で高価な設備が破損した場合、復旧には想像以上に難航する場合がある

4. 台風19号から約1年経って見直したもの

この1年で、僕の自宅も含めて大半の建物は直すか、古い家は取り壊されるかしてしまったため、街は何事もなかったかのような日常を取り戻している。

台風19号を経て、見直したものもいくつかある。

まず、隣近所の話で言えば、うちとほぼ同じ構造をしていて、下水の逆流で地下が浸水したと思われる住宅は、下水管に弁をつけ、物理的に閉じられるようにした。

うちも同様に、次に同じ規模の水災が来ても対応できるよう、逆流防止の対策をとった。これが見直しの1つ目。

もう1つは、何より「保険」だ。

冒頭で説明したように、保険の査定の速さと、しっかりした金額が出ることは、「いざそのとき」が来たら、非常に重要なアドバンテージになることが肌身にしみた。

「補償の条件を加入時によく読んでおくこと」も大事だ。

特に加入時期が古い保険の場合は注意だ。補償範囲に制限が多かったり、金額の上限が低かったりする(台風19号で被災した友人が、まさにこのパターンだった)

ここではあえて保険会社の名前は出さないが、興味深いことに、友人や周囲の支払い評価を総合すると、「入金が早く、金額も申し分なかった損保会社」は、とある国内大手損保1社にほぼ集約されていた。

僕が新たな保険をその損保会社に乗り換えたのは言うまでもない。

ポイント:

  • 何か見直すものは、と聞かれたらまず「保険」
【実録】台風19号で自宅が床上浸水140センチ。多摩川近くハザードマップ境界地域で何が起きたか

【実録】台風19号で自宅が床上浸水140センチ。多摩川近くハザードマップ境界地域で何が起きたか

災害には遭わないことが一番。アプリや備蓄をはじめとした防災の備えも、もちろん必要。

その上で、「被災しても生活が壊れない」ための備えは、実は日常生活の見直しの中からも、少しずつ取り組むことはできる。特に低地や河川の近くに住んでいる人は、今日この記事を読んだすぐあとにでも「洪水ハザードマップ」を検索して見てみてほしい。

(文・伊藤有

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