『あらしのよるに』の作者きむらゆういちが、『からっぽのにくまん』のまつながもえとコンビを組んだ絵本『ふしぎなみけねこびん』の創作秘話

インタビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

ふしぎな みけねこびん

『ふしぎな みけねこびん』

著者
きむら ゆういち [著]/まつなが もえ [イラスト]
出版社
株式会社 世界文化社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784418248063
発売日
2024/04/18
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『あらしのよるに』の作者きむらゆういちが、『からっぽのにくまん』のまつながもえとコンビを組んだ絵本『ふしぎなみけねこびん』の創作秘話

[文] 世界文化社

 絵本『ふしぎなみけねこびん』が2024年4月に世界文化社から刊行いたしました。

 この絵本は、絵本作家として数々の著書を刊行されているきむらゆういちさんに文を書いていただき、きむらゆういちさんが顧問をつとめる、ゆうゆう絵本講座ご出身で、絵本作家としてご活躍のまつながもえさんに絵を描いていただきました。

 絵本講座でご縁のあるお二人に、この絵本を創作、刊行するまでのお話をおききしました。


絵の松永もえさん(左)と、文のきむらゆういちさん(右)。

──『ふしぎなみけねこびん』は、編集部からお祝いの日に贈る絵本のアイデアが何かないですかと、きむらゆういちさんにご相談をしたところから始まりました。お誕生日に宅配便が届くというお話の構想のきっかけをおうかがいできますか?

●きむらゆういち氏(以下、きむら)
絵本の設定として、誕生日プレゼントをもらう相手を決めて書いてしまうと、読者自身とは齟齬が出てきてします。例えば「お姉ちゃんより」と書いてあると「うちにはお姉ちゃんなんていないよ」となる。それで、誰でもあてはまるようなものがいいと思い、宅配便で謎のものが届くという設定がいいかなぁと考えました。
宅配便っていうのは、けっこう動物の名前がつくものが多いでしょ。

●まつながもえ氏(以下、まつなが)
あ~。(同意)

●きむら
だから「みけねこびん」もありかなって。家にいる猫に「おまえもなんかくれない?」っていうのをきっかけに始まっていく流れをつくりました。


絵本のいちばんはじめのアイディアについてお話されるきむらさん。

──最初におはなしのアイデアをいただいたときは、猫と決まっていなくて、「猫にしようか? たぬきにしようか?」という話をしましたね。

●きむら
不思議な宅配便が届くのだから、はじめはたぬきと考えた。けど、たぬきより猫のほうがいいと編集部からありまして。このお話では「みけねこびん」に決定しました。猫は身近な存在ですからね。

──『ふしぎなみけねこびん』では、きむらゆういちさんの文に、まつながもえさんに絵をお願いできればと、編集部からまつながさんへお声がけさせていただきました。まつながさんはきむらさんと初めてお仕事をご一緒にされることになりましたが、原稿を読んで思われたこと、ご一緒に仕事なさることについての思いをおうかがいしたいと思います。

●まつなが
私は今まで絵と文、両方自分で書く絵本を作っていたので、絵だけ描く仕事は初めてでした。それがさらに、きむら先生の文章ということで、初チャレンジの初チャレンジでした。

●きむら
いつも作・絵なんだね。

●まつなが
そうなんです。文章をかいている人のアタマのなかを見ることはできないから、最初はきむら先生がどういうことを思ってこの文章をかいたんだろうと考えて、絵を創造するようにしていたのですが、そうすると、どうしてもきむら先生の描かれる絵が頭の中に浮かんでしまって……。なかなか画面を思い描けなかったので、いったんそれは置いておいて、自分の想像で絵をかこう、と割り切ったらスイスイ絵が描けるようになりました。


絵本作家として大先輩にあたるきむらさんのお話を熱心に聞かれるまつながさん。

──まつながさんは、きむら先生の「ゆうゆう絵本講座」に通われていたのですよね?

●まつなが
はい。でも、私はきむら先生からは直接指導を受けていなくて、夜、みんなでごはんを食べているときに、先生がいらっしゃってお会いしたりとかしていました。

──きむら先生はまつながさんのことを講座生としてご存じでしたか?

●きむら
はい。知っていましたよ。『はにわくん』(絵本塾出版)、『からっぽのにくまん』(白泉社)とか、描いているよね。『からっぽのにくまん』は、賞をとったんだよね。

●まつなが
はい。『はにわくん』は、絵本コンペから出版までいたった作品です。どちらも「ゆうゆう絵本講座」で他の先生方から見ていただいていました。絵本講座に通っていたおかげです。

●きむら
今回は、今までの作品よりすごく絵が細かいよね。大変だったかなって思うけどどう?

●まつなが
今回はお誕生日の絵本ということだったので、何度も読んでもらえる絵本になるといいなと思って細かく描きこみました。お誕生日の絵本は、自分自身もそうだったけど、何回も読み返す絵本になると思います。だから探し絵みたいに、読むたびに何かに気づいてもらえるような絵本になったらと、描き込んでいきました。

●きむら
最初に「うみのいきもの」の絵本が出てくるけど(主人公が手に持っている絵)これは意味があるの?

●まつなが
これは最後に主人公が海にいくシーンで、主人公はもともと海の生き物に興味がある子どもでという設定にしたかったからです。

──絵本の表紙のジンベエザメがジェットコースターのジンベエザメになっていますよね。

●まつなが
そうです。こうだったらいいなを描くのがすごく楽しかったです。

──今回のお話は、色々な国に主人公が行きますが、いろいろな場所にいくところに夢がありますよね。

●きむら
誕生日のプレゼントを物にしてしまうとそれで終わってしまう。だけど、子どもの好きな世界に行けるということをプレゼントにすると、ジェットコースターでいろいろなところへ行けちゃうし、現実の世界を飛び出し、体験をプレゼントできる。誰が読んでも楽しめるというのをストーリーにするのが一番大変なところ。だから、宅配便がくるというオールマイティーなところをストーリーのはじめに組み込みたかったんです。

──まつながさんは普段、車を描くことがないとうかがいましたが、絵の難しかったところとかありますか?

●まつなが
難しかったです。子どものころ、車のおもちゃで遊んだりとか、ゲームで遊んだりということもあまりせず……。犬は飼っていたのですが、猫は飼ったことがなく……。あまり身近にいなかったのでまずはそれを知ることから始めました。車を好きな子にもちゃんと見てもらえる絵にしないとなというプレッシャーがありましたね。

──だから車もかわいい感じになったんですね。ねこロボットというきむら先生のアイデアが、こんなにファンシーなねこロボットになってきたところは、まつながさんらしさですね。


まつながさんが描いたファンシーなねこロボット(中央下)。

●きむら
ロボットっていうより、ぬいぐるみみたいな感じはあるね。
でもぬいぐるみでも良いよね。読む子は男の子とも限らないならね。車がプレゼント、案内するのはぬいぐるみ、でも良かったなとも思うね。

●まつなが
ねこロボットはねじまき式なんです。

●きむら
ほんとだ! ぜんまい式なんだね。

──こういったところが、お話の広がりを感じさせていただけるところですね。ところで、このみけねこびんの“みけねこ”は、何だと思われますか? 不思議な存在なのか、はたまた顔があるので誰かなのか? というところは気になるところかと思うのですが……。

●きむら
書いたときの設定として、飼い猫のみけが姿をかえたと思って書きました。

●まつなが
そうですね。わたしはお母さんかなと思ったんですよ。「ぼくの大好きなケーキ」のところで、これはお母さんが作ったケーキだと思ったので、ロボット自身はお母さんとミケのイリュージョンかなぁと……。

──ミケだと思って読む人もいれば、もしかして違うのかも? と思って読む人もいる。お話から想像がふくらみますね。

●きむら
読者がどうとらえるかは違うってことだね。それもいいね。

──まつながさんにおうかがいします。今回、絵本の絵だけを描かれたというところで面白かったところはありますか?

●まつなが
作と絵の両方だと自分の好きなものばかりになるので、今回のように作と絵が異なると、新しい世界に連れていってもらえるというのがあります。この絵本では、自分の世界が広がった感じがあります。

●きむら
そうですね。絶対に自分では描かない絵を描くことになるもんね。

──文と絵で違う方が描かれる絵本では、作絵を一人の方が描かれる絵本とは、また違った魅力が出てきますね。そんなお二人に、絵本づくりにあたっての心がけ、こだわりのポイントなどを教えていただけたらと思います。

●きむら
日常と非日常、いかにもありそうな日常から始めて、それから非日常につなげていくこと。無理なく飛躍していくこと。いきなり宅急便がきて連れていくのではなく、全部ありそうでありながら、違う世界にいくところにこだわっています。
一番問題なのは、話を広げてどう終わらせるかなのだけど、今回はいちばん簡単な「電池切れです」にしました。そこまで、いかに自然に非日常へもっていくか。そこを考えておはなし作りをしています。

●まつなが
私は、絵本は一度読んでおしまいではなく、何回も読んでもらえるようなものになってほしいと思って作っています。なので、読者には伝わらないかもしれないけれど裏設定を作っています。今回なら、みけねこカーは動物たちには見えているけれど、人間には見えていないという裏設定を作ってあります。町のシーンで、人間は気づかないけれど、猫や犬は気がついているように描いています。何度も読み返す子なら気がつくかもしれないけれど、気がつかない子がいてもいい。でもそういう裏設定を作ると、なにか理由があって描いてあるという思いが込められるかなと思っています。

●きむら
なるほど、みけねこカーが動物たちには見えているということに、ぼくも初めて気がつきました。

●まつなが
この町のシーンは犬がいっぱい。みんな犬を連れているんです。

●きむら
ほんとだ。すごい。
このシーン以外にもおもちゃやお菓子もよく考えているよね。普通そんなにいろいろ思い浮かばない。おもちゃも世の中はキャラクターものが多いから、キャラクターを入れず描いていてすごいよね。

●まつなが
お菓子は、子供向けのお菓子が作れるおもちゃなどを参考にして考えました。
顔があるものが好きなんですよね。だからおもちゃにも顔があります。

●きむら
よく見るといろんなところにこだわりがある。裏設定もある。

──お話は短めなのですっきりしているんですけれど、絵本の中を見ればみるほど「あれ」っていうところが感じられますね。きむら先生のお話の原稿から、より広がった世界をまつながさんが描いてくださっている。それが詰め込まれていると感じます。

●きむら
そうですね。海の中を見てもそうだよね。
ストーリーにない絵のストーリーっていうのも面白いよね。

──最後に、読者の方へのメッセージをいただけますか。

●きむら
絵本って想像する部分がいっぱいある。Q&Aみたいに答えが一個ではなくて、そこからイメージが浮かんでいく自由があります。この絵本でも想像する面白さを楽しんでもらえるといいなと思います。

●まつなが
絵本って自分とは違う誰かになれたり、行きたい場所に連れて行ってくれたりするようなもの。自由にそういう世界を楽しんでもらいたいなと思います。

──『ふしぎなみけねこびん』の世界も、そうやって読者の方々に楽しんでいただけたらうれしいですね。今日はありがとうございました。

文/世界文化社 写真/伏見早織(世界文化ホールディングス)

世界文化社
2024年4月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

世界文化社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク