新庄耕さん
■人は心の深層で騙されたがる
地面師とは、不動産所有者になりすまして土地を売却し、巨額の代金を騙(だま)し取る詐欺師のこと。新庄耕さん原作の『地面師たち』はNetflixで映像化され、大きな話題を呼んだ。続編となる本作はさらにスケールアップ。シンガポールのカジノで幕を開け、北海道・釧路へとなだれ込む。なぜ人は騙し、騙されるのか。なぜ人は地面師にかくも惹(ひ)きつけられるのか。(砂田明子)
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──副題の「ファイナル・ベッツ」はカジノ用語で「最後の賭けをしてください」の意。冒頭から、手に汗握るギャンブルが展開します。なぜカジノでシンガポールだったのでしょう
「前作のラストで、地面師のボス・ハリソン山中がシンガポールに逃げたので、続編をやるならシンガポールからだなと。そもそもは前作で力を出し切っていて、続きを書くつもりはなかったんです。が、映像化が決まり、やるしかないという空気に包まれていきまして…。何のアイデアもないので、とりあえずシンガポールに取材に行くかと。ベタにマリーナベイ・サンズに行ってアジア最大級のカジノを見ると、これを出さない手はないと思いました」
──バカラで全財産を失った稲田はハリソン山中に出会い、地面師にスカウトされます。Jリーグを解雇された問題児・稲田のキャラクターをどう作っていきましたか
「前作で稲田に当たるのが辻本拓海なのですが、彼は陰惨な事件によって闇堕(お)ちした人間です。だから重たいものを背負っている。その反対のキャラクターにしようと考えました。明るくて、おバカさんで、おちゃめにと。その結果に、ハラハラする場面を引き起こすいいキャラになりました。前作から離れる、というのは、あらゆる点において今作の前提にしました。前作はベテランの男性刑事を出したので、今作は若い女性刑事にするなどですね」
──一方、前作から共通して出てくるのが大物地面師のハリソン山中です。ドラマで豊川悦司さんが好演&怪演されている、底知れないこの男のイメージは
「拓海に救われてほしいと思っていたので、彼が騙されたとしても、この人ならいいだろうと思えるような格のあるボスを作らなければいけない。それが前作で考えていた出発点でした。書く前はあれこれ考えて、例えば『羊たちの沈黙』のレクター博士や、ある殺人事件の犯人をイメージしたりもしたのですが、書いているうちに頭で描いた像はすべて消えていって、気づいたら“ハリソン山中がそこにいた”という感じです」
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- 地面師たち ファイナル・ベッツ
- 価格:1,980円(税込)
──地面師軍団が今回狙うのが釧路の土地。その額、なんと200億円
「土地を探すのにものすごく苦労しました…。前作が100億円だったから、今回は倍の200億円にしようと。でもそんな土地がどこにあるんだよって。ちょうどIR(統合型リゾート)が話題になっていた時期だったので、IRの候補地の一つ、北海道に目を付けると同時に『北極海航路』を思い出したんです。調べたら、地球温暖化によって北極海の氷がもっと解けて北極海航路が盛り上がれば、寄港地となる釧路は開発が進んでシンガポールのようになると書いている学者の先生がいたんですよ。これだ!と。将来的な可能性はないともいえないようだし、怪しいぶん、ロマンがありますよね」
──釧路の土地を売りつけるターゲットとなるのが、シンガポールの御曹司・ケビンです。〈人間は自分の都合のいいように情報を解釈する〉。騙す側の理屈も、騙される側の心理も両方味わえるのが本作の魅力です
「追い込まれれば追い込まれるほど、人は見たいものしか見なくなっていくんですよね。でも、人はなぜ騙されるかといえば…実は心の深いところで、騙されたがっているのかもしれません。いい夢を見たいから。ただ夢は実現しないものですが(笑)」
──世にあるさまざまな詐欺の中でも「地面」を扱う特殊性や面白さ、そして怖さを堪能しました
「僕は『狭小邸宅』でデビューしたこともあり、不動産界隈(かいわい)の人と付き合いがあるんですが、彼らは本当に不動産ラブなんです。お金も好きですが、土地と建物を含めて大好き。金や株式にはない、実体がもつ魔力があるんだろうと思います。地面師は僕にとってもワクワクする題材でした。これからも自分の中のワクワク感に素直に従って小説を書いていきたいと思っています」
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【プロフィル】新庄耕
しんじょう・こう 昭和58年生まれ。慶応義塾大環境情報学部卒業。リクルートに勤務後、いくつかの仕事を経て平成24年に「狭小邸宅」で第36回すばる文学賞を受賞しデビュー。著書に『ニューカルマ』『カトク 過重労働撲滅特別対策班』『サーラレーオ』『地面師たち』『夏が破れる』など。
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