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    「アレクサ」はChatGPT超えるか-勝ち組アマゾンの挑戦、視界開けず

    • AI搭載のアレクサ、CEOが明確なビジョン示せずとの指摘も
    • 毎年9月にあったアレクサ関連の発表会、今年は行われず
    relates to 「アレクサ」はChatGPT超えるか-勝ち組アマゾンの挑戦、視界開けず
    Photographer: Illustration by 731

    アマゾン・ドット・コムのアンディ・ジャシー最高経営責任者(CEO)は、同社の音声アシスタント「アレクサ」にスポーツに関する質問を浴びせ続けた。2023年夏のことだった。

      その8カ月ほど前、米オープンAIが対話型人工知能(AI)「ChatGPT(チャットGPT)」を発表し、その会話能力で世界を驚かせていた。ジャシー氏はAIを搭載してアップグレードしたアレクサの試作品が、ChatGPTと競合できるほど優れているかどうかを確認したかったのだ。

      米プロフットボールNFLのニューヨーク・ジャイアンツの熱心なファンで、北米プロアイスホッケーNHLのシアトル・クラーケンの投資家でもあるジャシー氏は、米スポーツ専門局ESPNのリポーターがプレーオフの記者会見で質問するように、アレクサに各選手のパフォーマンスやリーグの順位、チームの歴史などについて詳しく尋ねた。  

    Key Speakers At The GeekWire Summit
    ジャシーCEO(2021年)
    Photographer: David Ryder/Bloomberg

      アレクサはジャシー氏のインタビューを何とか乗り切った。だが、その回答は完璧とは程遠いものだった。同氏が最近の試合結果を問いかけると、アレクサはスコアをでっち上げたのだ。

      それでも、アマゾンのエンジニアたちがホームデバイス「エコーショー」の新型向けにこれほど早くプロトタイプを完成させたことにジャシー氏は有頂天になっていた。プレゼンテーションに参加した1人は、同氏が「ありがとう」と30回ほど繰り返したことを覚えている。

      改良されたアレクサには、さらに多くの作業が必要だった。しかし、経営陣は24年の早い時期までにベータ版を完成させ、その後すぐに広くリリースできると確信していた。

      その後、スケジュールに遅れが出始めた。ブルームバーグが入手した社内文書によると、アマゾンは当初、10月17日にジャシー氏が登場する派手なイベントで完成品をお披露目する予定だった。

      だが、アマゾンはその計画を取りやめ、代わりに電子書籍リーダー「キンドル」の新しいバージョンを紹介する小規模な発表会を開いた。事情に詳しい関係者の1人は、アレクサAIチームに最近、目標期限が25年に変更されたと伝えられたと述べた。

      アマゾンは幹部へのインタビューを拒んだが、アレクサを世界最高のパーソナルアシスタントにするというビジョンは変わらず、生成AIはサービスを向上させる大きな機会だと説明。

      「すでに生成AIをアレクサのさまざまなコンポーネントに統合している。世界中の家庭に5億台以上あるアレクサ対応デバイスに大規模に導入し、より積極的かつパーソナルな信頼性の高いアシスタントを顧客に提供できるよう全力で取り組んでいる」と広報担当のクリスティ・シュミット氏は電子メールで送付した資料でコメントした。

    苦境

      ジャシー氏が試して以降、アレクサの会話能力は向上しているが、この取り組みに関わっているトップエンジニアや試験担当者は、AIで強化されたアレクサは依然として、無関係な情報や余計な情報を延々と話し続けたり、照明のオン・オフなど、以前は得意としていた平凡なタスクに苦労したりしていると明らかにした。

      アマゾンがこうした状況に陥っていることは、客観的に見て驚くべきことだ。

      音声によるリクエストに素早く反応できるスマートスピーカーやテレビ、タブレット端末、カメラ、カーアクセサリー、電子レンジといった新しいリスニングハードウエアのカテゴリーを10年前に定義したのはアレクサだ。  

    Alexa Everywhere

    Amazon put the voice assistant in everything from microwave ovens to clocks

    Source: Data compiled from product announcements and listings from Amazon and its brand subsidiaries. Photos: Amazon

      確かに、アレクサは多くの人々にとって、単なる機能が拡張されたキッチンタイマーに過ぎないかもしれない。アレクサはアマゾンが期待していたほどの収益をもたらしていない。

      しかし、アマゾンがそのリーチ力を生かし、顧客のごく一部にだけでもパワーアップしたアレクサに対し支払いをしながら使い続けるよう説得できれば、低迷する事業がようやく利益を上げ、確かな未来も見えてくるだろう。

      一方、アマゾンがこの挑戦でつまずけば、アレクサは家電製品の歴史における最大級の失敗作として、米マイクロソフトのスマートフォン事業と並んで語られることになる恐れもある。

      一部の従業員はアレクサの苦境について、ジャシー氏が根絶しようとしてきたアマゾン社内の官僚主義と経営陣の肥大化のせいだと非難している。9月16日の社内文書で、ジャシー氏は不必要な「意思決定会議のための事前会議のための事前会議」を批判した。

      アマゾンは、キンドルや「プライム」に加え、共同創業者のジェフ・ベゾス氏に代わりCEOに21年に就任する前のジャシー氏が18年間指揮を執り大きく成長したアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)などで業界をリードしてきた。他の内部関係者は、こうした初期のリードを維持することで勝ち組となってきたアマゾンの戦略に、より深い問題があると指摘している。

      同社はまた、マーケットプレイスでは米イーベイ、ストリーミングビデオでは米ネットフリックスに挑むなど素早い反撃を仕掛けることでも知られる。何より、米アップルの音声アシスタント「Siri」を乗り越えることで勝利を収めたのがアレクサだ。

      アマゾンの現役および元社員の話によると、今回がこれまでと異なるのは、ジャシー氏がAI搭載のアレクサについて、説得力のあるビジョンをまだ提示していないことだという。

      これらの人々の多くは、このプロジェクトにはまだ山ほどの修正が必要であり、その結果として生み出される製品が、すでに市場に出回っている多数のAIアプリと比較して優れているとは楽観視していないと話す。

    危機感

      アレクサが闘ってきたゲームをひっくり返したのは、22年11月30日に登場したChatGPTだ。

      ChatGPTは書籍や記事、オンラインコメントなど膨大な量のデータを扱うシステムである大規模言語モデル(LLM)を用い、ユーザーの問い合わせに対する最善の回答を生成する。

      この新しいアーキテクチャーは、アレクサのものと根本的に異なり、驚くべき会話能力と独創的な問題解決能力を備えていた。

      自然な対話を処理でき、あらかじめ用意された回答なしに人生の意味について哲学的な考察を展開することもできた。アマゾンは突然、AIアシスタントに関して何年も後れを取ったと感じた。

    Advanced Generative AI Tools as Major Tech Companies Urge Lawmakers to Avoid Heavy-handed Regulation
    ChatGPTは急速に普及し、数カ月でアクティブユーザー数が1億人に達した
    Photographer: Andrey Rudakov/Bloomberg

      ChatGPTは急速に認知され、数カ月でアクティブユーザー数が1億人に達した。また、オープンAIは23年2月、月額20ドル(約3000円)の定額プレミアムプランを発表。アマゾンにとっては、アレクサの大幅なアップグレードが急務となった。

      対話シミュレーターの開発を試みたのは初めてではなかったアマゾンだが、ChatGPTに匹敵するLLMの開発に乗り出すと、アレクサの頭脳をこのフレームワークに移行するやり方を決めることは頭痛の種となった。アレクサはAIというよりも自動電話システムと共通点が多いと皮肉る社員もいた。

      事前学習のAIモデルに移行することで、アレクサは複雑な質問を自力で無限に処理できるようになる一方で、キッチンタイマーの設定や、接続されたデータベースから一度限りの回答を引き出すといった基本的なタスクの信頼性が低下するリスクがあった。

      例えば、23年の夏にジャシー氏がアレクサAIの試作品をテストした際、リアルタイムのスポーツ情報ではなく一般的な言語モデルにアクセスしていたため、その場で正確なフットボールの試合結果を得ることはできなかった。

    様子見

      ChatGPTに追い付くための最大のチャンスである消費者向けに普及したアレクサ搭載デバイスは、ある意味で最大の弱みでもある。

      ChatGPTのユーザーは、ChatGPTが間違いを犯すと想定している。アレクサが応えてくれるエコーシリーズを利用しているのは子どもや家族が極めて多い。

      アマゾンがLLMの頭脳をオンにし、アレクサが挑発的な回答をし始めた場合、ジャシー氏にとって大きな災難が降りかかる可能性もある。

      LLMの開発を進めるアマゾンだが、元AIエンジニアの1人によれば、アレクサのチームは最近、フランスのミストラルAIとサンフランシスコを本拠とするスタートアップ、アンソロピックのモデルに傾倒している。

      アンソロピックに40億ドルを投資したアマゾンによると、あらゆる使用に最適な単一のモデルは存在せず、AWSを通じて利用可能な複数のLLMを活用している。ジャシー氏はアマゾンのエンジニアらに生成AIをより多くの製品に速やかに導入するよう促しているが、同氏は社内でも社外でもこの技術はまだ初期段階にあると述べている。

    Inside An Amazon Fresh Store As Amazon Expands Grocery Delivery
    アレクサのキオスク(シアトル)
    Photographer: David Ryder/Bloomberg

      競争の構図はまだ固まっていない。アマゾンの経営陣が目にしてきたのは、「Humane Ai Pin」や「Rabbit R1」などに見られるLLM搭載アシスタントとパーソナルデバイスを組み合わせたスタートアップが経験した失敗だ。

      アマゾンと同様に消費者向けAIのリーダーとは見なされていないアップルは、最近になってようやく「iPhone」向け基本ソフト(OS)にAIを取り入れ始めた。 

      AIでアップデートされたSiriが登場するのは来年だろうが、今年のホリデーシーズンに新型iPhoneの販売が伸び悩んだとしても、iPhone自体が来年までにすたれることは恐らくない。

      しかし、アマゾンに近い3人の関係者によれば、同社の経営陣はより優れた製品が登場すれば、消費者がエコーシリーズからあっという間に離れてしまう可能性を理解しており、アレクサを世界に再び強くアピールできる機会は恐らく一度きりだと認識している。

      そのため、経営陣は様子をうかがっているのだ。毎年9月には通常、アレクサに関する新たな発表があるが、今年は大きな告知のないまま終わった。こうしたことは17年以来だ。

    原題:Alexa’s New AI Brain Is Stuck in the Lab Until It Gets Smarter(抜粋)

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