マスク氏が進めるラスベガス地下トンネル、安全基準違反が常態化

ラスベガスの目抜き通り、ストリップ北端のトンネルにたまった泥は、場所によっては少なくとも２フィート（約60センチメートル）の深さがあった。トンネルは２つのホテルと、巨大なラスベガス・コンベンション・センターを結ぶもので、最終的にはおよそ半マイル（約800メートル）になる予定だ。掘削作業をしていた労働者たちは、毎日泥をかき分けなければならなかったと回想しているが、泥の中には促進剤として知られる化学物質がたくさん含まれていた。

　　促進剤はコンクリート支柱の穴や隙間に注入するグラウト材を硬化させ、ひび割れなどの劣化を防ぐが、露出した人間の皮膚に深刻なやけどを負わせる。掘削現場では、このようなやけどはほとんど日常茶飯事だったと、作業員はネバダ州の労働安全衛生局（ＯＳＨＡ）に語っている。ブルームバーグ・ビジネスウィーク誌が情報公開請求によって入手した同州ＯＳＨＡの調査結果には、作業員が腕や足に永久的な傷を負ったと記されている。

　　実業家イーロン・マスク氏のトンネル掘削ベンチャー、ボーリングは過去10年近く、同氏が「ハイパーループ」と呼ぶ地下大量輸送システムの構築を大々的に打ち出してきた。マスク氏はかつてこの技術を、大都市間を音速で移動できる未来のシステムだと説明。実現すれば、ニューヨークとワシントン間、あるいはサンフランシスコとロサンゼルス間を約30分で通勤できるようになると話していた。

　　その後、マスク氏はボーリングについてほとんど語ってこなかったが、それはおそらく約束と実行の間に大きな隔たりがあるからだろう。創業から７年以上が経過した現在、同社の唯一の商業プロジェクトは、ラスベガスのコンベンション・センター向けの大幅に縮小されたシャトルバスシステムに過ぎない。このシステムはコンベンション期間中のみ運行され、参加者は時速40マイル（約64キロメートル）に制限されたテスラ車に乗る。

　　2017年、マスク氏はニューヨークとワシントンを結ぶ超高速輸送システム向けトンネルの建設で政府の「口頭承認」を得たとツイートしたが、その後に事実でないことが判明。その後数年、同じような事例が続いた。マスク氏はボルティモアからワシントンへのループ、ロサンゼルスのドジャースタジアムに乗り入れる「ダッグアウト・ループ」、シカゴのオヘア空港とダウンタウンを結ぶ高速鉄道などを発表したが、いずれも実現しなかった。シカゴのプロジェクトはエマニュエル市長退任後の2019年に中止され、後任のライトフット市長はマスク氏の資金調達計画を「空想」と評した。メリーランドとロサンゼルスのプロジェクトは計画段階で立ち消えとなった。

イーロン・マスク氏、世界最長トンネル建設に意欲－「口頭承認得た」

　　ラスベガス・ループは、マスク氏が約束した市内全域の交通システムには程遠い。ボーリングは最近、ループをヴァージン・ホテルとネバダ大学ラスベガス校に拡張するための準備作業を開始したが、どちらのプロジェクトも予定表を明らかにしていない。元従業員によると、同社はカジノ・グループのシーザーズやＭＧＭを含め、数多くのホテルや他の敷地にトンネルを提案しているが、関連する契約は発表していない。

（原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載）

原題：Musk’s Las Vegas Tunnel Project Is Racking Up Safety Violations (2)（抜粋）