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半導体受託生産最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県内に3つ目の工場を設け、最先端半導体の製造を検討していることが分かった。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。実現すれば、国内で自動車向けから人工知能(AI)向け半導体まで幅広く調達できるようになる。
検討中の第3工場では、量産段階として最先端の回路線幅が3ナノメートル(ナノは10億分の1)半導体の製造も視野に入っているという。非公開情報だとして複数の関係者が匿名を条件に語った。既に日本企業を含む製造パートナーや関係先に広く共有されているとしている。同関係者のうち3人は、第4工場の可能性も模索されているが、土地などの不足により北九州市など熊本県外になる可能性もあるとした。
TSMCは既に熊本県菊陽町に、主に12ナノ半導体などを製造する第1工場を建設中。第2工場を建設し5ナノ世代を製造する計画もある。菊陽町に複数の半導体製造棟を建設することは、付帯設備にかかる建設費用の観点からも同社が日本進出を決めた2年前から計画されていたという。
第3工場が稼働する頃には、3ナノの技術は1-2世代遅れている可能性は高いものの、様々な世代の半導体がそろう。国内での半導体サプライチェーン(供給網)の強化を目指し、TSMCなどに多額の補助金を出している日本政府にとっては大きな収穫になりそうだ。
TSMCの広報担当者は「顧客の需要、操業効率、政府からの補助や経済状況などを踏まえて、製造能力の拡大戦略を決めている。TSMCではより長期的に顧客の需要に応え、半導体業界の構造変化に対応するために投資を行っている。日本においては第2工場の建設について可能性を検討しているが、それ以上の情報で現在開示できるものはない」としている。
最先端半導体の用途は、今のところ米アップルのスマートフォン「iPhone」やスーパーコンピューター、データセンター用サーバーなどに限られる。ただ完全自動運転やAIが今後普及すれば、最先端半導体のニーズは増えるとみられる。半導体は米中の緊張関係の影響を大きく受けており、経済安全保障の観点からも最新鋭の半導体を国内調達できる方が望ましいと政府関係者は述べた。
マイクロンも先端品生産へ
足元で、国内の半導体の製造能力を高める動きが相次いでいる。米マイクロン・テクノロジーは半導体メモリーの一種であるDRAMの先端品の生産を広島県内の工場で予定する。台湾のパワーチップ・セミコンダクター・マニュファクチャリング・コーポレーション(PSMC)はSBIホールディングス(HD)と共同で宮城県に工場を新設し、車載向けのマイコンや電源管理IC向けの半導体を製造する計画だ。次世代半導体の量産を目指すラピダスも、北海道で工場建設に着手した。
各社の設備投資の判断は、国やサプライヤーの取り組みの成果の一端と言えそうだ。半導体製造企業の幹部らによると、かつてと比べて政府の対応が素早くなっている。また台北の調査会社トレンドフォースのアナリスト、喬安氏は日本企業が長年積み上げてきた半導体製造装置や部材・原料分野での重要な役割が、TSMCなどの半導体製造大手にとって「代えがたい魅力」になっているという。
一方で課題もある。工場建設予定地では水・電気の調達や人材の確保、交通渋滞などの課題が持ち上がっている。とはいえ長年停滞し続けてきた日本経済の再び成長の軌道に乗せるために、半導体業界に着眼した政府の判断は間違っていないと、SMBC日興証券の桂竜輔アナリストは語る。同氏はリポートで、九州の域内総生産は現在の50兆円から35年には75兆円へ拡大する可能性を秘めており、日本経済を再び上昇気流に乗せるドライバーになり得ると述べた。