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Matthew Burgess-
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オーストラリア・シドニーを拠点とする民間非営利団体(NPO)で活動するキャロリン・キット氏は、何年もかけてインド北部のヒマラヤ山麓を歩き、世界的ブランド向けに茶葉を摘み取る人たちの労働状況を調べてきた。
膝まで下水に漬かりながら労働者らが住む掘っ立て小屋を訪ねることもあった。現代の奴隷制の兆候、つまり強制労働や児童労働、年季奉公、派遣業者への違法な手数料の支払いが行われていないかを探るためだ。
「奴隷制のような状況があるかどうかではなく、そういう事態になっているといつ気付くかが重要だ」。NPO「Be Slavery Free(ビー・スレイバリー・フリー)」のディレクターであるキット氏はこう指摘し、「奴隷制はそれほどまでにまん延し、ほとんど全ての企業がサプライチェーンにおいてリスクを抱えている」と話す。
豪州で始まった画期的な政策によって、キット氏のような活動家は、政府や投資家と共に、奴隷のような状況で働く人々の労働環境を追跡しやすくなっている。世界中で過酷な労働状況に苦しむ約4000万人のうち、ほとんどはアジアにいるとされる。
2019年に施行された法律により、売上高が1億豪ドル(約83億円)を超える企業や投資会社は、サプライチェーンにおける奴隷制のリスクをどう管理しているか詳述し、誰でもアクセス可能なデータベースに報告書をアップロードすることが義務付けられている。企業は問題解決のために取った手順の概要を示す必要もある。これは英国やフランスの法律よりも踏み込んだもので、米国などは今後自国で取り得るアクションのひな型として研究している。
企業の持続可能性を推進する国連グローバル・コンパクトの豪州部門で常務理事を務めるカイリー・ポーター氏は、「われわれは世界中のどの司法当局よりも、はるかに多くの対策を講じている」と言う。強化の過程にある英国の法律では、企業にサプライチェーンの奴隷制リスクを特定し分析することを義務付けており、ドイツでは新たな法律が23年に施行予定だ。
サプライチェーンの細部を追跡することの困難さや、順守しない場合でもペナルティーが科されないことを考えると、豪州の政策は現代の奴隷制をなくすための万能薬ではないとポーター氏らは語る。それでも、同国のプログラムは、アップルやマイクロソフト、ユニリーバといった世界的企業が抱える労働問題を浮き彫りにし、対策を講じる際の企業側の姿勢の変化も明らかにしつつある。
労働問題
マイクロソフトは、サプライヤーから労働者の派遣業者への手数料支払いを含む、奴隷制に関連する46の「主要な」問題を報告。アップルは、同社の調達要件を満たしていない金属製錬・精製の7業者を明示した。ユニリーバでは同社の方針に従っていないサプライヤーが82件見つかり、その8割はアジアを拠点にしているという。
ユニリーバは声明で、「われわれはサプライチェーンにおける人権侵害を容認しない。ユニリーバと取引するには、サプライヤーはわれわれの責任ある調達方針の要件を満たす必要がある」と明記し、豪州政府への報告で引用した全ての不適合事案に対処したと説明した。
マイクロソフトは責任ある倫理的な調達に取り組んでおり、サプライヤーの行動規範におけるあらゆる形態の強制労働を明確に禁止していると、広報担当者が声明でコメント。「われわれはこの責任を非常に真剣に受け止めており、人権、労働、健康と安全、環境保護、およびビジネス倫理を支える当社の方針と行動規範を厳守するため重要な措置を講じる」とした。
会社 | 見つかった問題 | 対処 |
---|---|---|
マイクロソフト | ・274のデバイス工場における第三者監査の結果、労働者から雇用主や採用業者への金銭支払いや、移動を含む基本的な自由の制限など、46の主要な事案が見つかった | ・5653人の労働者に採用手数料の返還および賃金不足分として総額76万6897ドルを支払うよう求めた |
アップル |
・金属製錬・精製の7業者が、スズや金など紛争鉱物のサプライヤーを対象とした第三者監査に加わることを拒否
| ・問題のあった製錬所と精製所をサプライチェーンから除外 |
ニュークレスト・マイニング | ・パプアニューギニアの金鉱で派遣業者がバス運転手に対する賃金支払いの遅延を繰り返していた
| ・当該業者との契約は終了し、影響を受けた労働者を雇用することに同意した別の会社と新たに契約 |
ユニリーバ | ・サプライチェーンの監査で強制労働の事例が82件見つかった
| ・全ての問題を「効果的に修正」した |
「誰も搾取されたり、利用されたりすべきでない。われわれのような企業にとって現代の奴隷制を巡る問題を調査することは、人々が公正かつ適切に扱われるようにするための基本的な方法だ」。豪資源会社ニュークレスト・マイニングは声明でこうコメントしている。
政府や活動家は人権を尊重する上で、企業や資産の運用者が負う義務をより重視するようになっている。ますます複雑化し、労働力の搾取が起こりかねない世界のサプライチェーンから利益を得る当事者だからだ。世界の奴隷労働者のうち、4人に1人は子供とされ、国際労働機関(ILO)によると、子供たちが生産に関わる製品からは年間約1500億米ドル(約17兆円)の利益が生み出されている。
奴隷制根絶に向けた動きは世界中に広がっている。米スターバックスはカリフォルニア州で、カカオの倫理的調達に関する同社の説明は虚偽だとの申し立てを受け訴訟に直面。同社は訴訟についてコメントしないとしている。スイスのネスレは、サプライヤーが強制労働に関わっていた事実を知っていたはずだとしてコートジボワールの元児童労働者から訴えられ、係争中だ。ネスレについては米連邦最高裁判所が今年、米国との強い関連性を欠くとして原告の訴えを退けた。
豪州の法律は、鉄鉱石王として知られる富豪のアンドルー・フォレスト氏と同氏が率いる財団からの圧力で生まれた側面がある。強制労働や債務労働を強いられている人々の3分の2はアジア太平洋地域におり、豪州の企業や投資家にとって特別なリスク要因となっている。
国連グローバル・コンパクトのポーター氏らは、豪州の政策ではどの業界が最も危険にさらされているかを明確にすることはできても、奴隷制を根絶するのに役立っているかまでは評価できないと話す。豪モナッシュ大学の調査によると、S&P/ASX300株価指数を構成する企業の3分の1余りが、現代の奴隷制についての情報開示に関して「不合格」の烙印(らくいん)を押された。
売上高の基準を踏まえると、今のところ奴隷制のような事例について自社のサプライチェーンを調べる必要があるのは推定240万社ある豪企業の1%未満にとどまり、報告基準を満たさなくても金銭的なペナルティーはない。
NPOのキット氏は、企業に情報開示を求める現時点の法律は「企業がサプライチェーンについて理解しており、リスクの所在を認識していることを想定したものだ」と述べる。 しかも「企業は正直であるとの前提に立っている」と言う。
キット氏らがこうした課題の例に挙げるのがカナダの衣料品メーカー、ルルレモン・アスレティカだ。英シェフィールド・ハラム大学のリポートによれば、同社の原材料サプライヤーの少なくとも一部は、少数民族のウイグル族弾圧が指摘される中国の新疆ウイグル自治区から綿を調達しているとみられている。ルルレモンはウェブサイトで、新疆ウイグル自治区の原材料業者からは製品を調達していないと説明。豪州政府への提出資料では中国関連のリスクについて明記しなかった。
豪労働組合評議会と人権非政府組織(NGO)「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、来年に豪州の政策を見直す際に、不十分な開示に対する罰金を追加するよう求めている。ドイツでも23年以降、新たな法律に従わない大企業に対して売上高の最大2%の罰金が科される見通しだ。
米保険会社ニューヨーク・ライフ・インシュアランスの豪資産運用部門でESG(環境・社会・企業統治)リサーチを率いるマンス・カールソン氏は、政策には限界があり、企業が違法行為に対処することの難しさが明らかになったと話す。通常、こうした行為は企業にとって直接の管理外にあるためだ。
カールソン氏は「たとえ企業が正しい意図を持っていたとしても、戦略を間違えればサプライチェーンで奴隷制のような労働状況が発生してしまう恐れがある」と指摘。「収益の持続可能性にとって本物のリスクだ」と述べた。
原題:
Microsoft, Apple Reveal Anti-Slavery Measures in Australia Law(抜粋)