今年2月にスタートした新興ネットメディア「旅ラボ(TABI LABO)」が、海外メディアの記事を無断で翻訳し、あたかも自ら執筆したかのような形で記事を掲載していたと指摘され、話題になっている。
TABI LABOは8月28日、プレスリリースを発表。「記事の一部に、参照元の表記漏れがあった」と認めたうえで、「不適切なものは削除し、参照元が正しく挿入されていない記事に関してはすべて修正対応する」と表明した。
そのうえで、「記事内の各発言の著作権は参照元の写真・動画の発言者に属します。何か問題が発生した場合、著作権の権利者様ご自身からご連絡をいただきましたら、すぐに削除または適切な形で修正いたします」と述べている。
しかし、この記述だと、「著作権侵害については、権利者から指摘があれば、削除や修正などの対応をする」と言っているだけのような気もする。ネットメディアは著作権侵害をしても、あとで削除や修正すれば、法的に「許される」ものなのだろうか。著作権にくわしい唐津真美弁護士に聞いた。
●「プロバイダ制限責任法」を意識している?
「発表されたコメントを見る限り、TABI LABOは、いわゆる『プロバイダ責任制限法』を意識していると思われます」
唐津弁護士はこう切り出した。それはどういう法律だろうか?
「基本的な考えとして、サイトの運営者は、自らのサイトに掲載した記事等のコンテンツが他人の著作権を侵害したら、著作権を侵害したことの責任を負う可能性があります。
しかし、YouTubeや投稿掲示板などのように、『ユーザーがコンテンツを作りだす』サイトの場合、ユーザーが勝手にアップロードしたコンテンツ全てについて、運営側に責任を負わせると、サービスそのものが成り立たない場合があります。
プロバイダ責任制限法は、そうしたサービスの『運営事業者側が責任を負う場合』を明確に定義して、事業者による適切な対応を促進すると共に、事業者に多大な負担を負わせないようにしている法律です」
●ユーザーが勝手にアップした場合のルール
どういう場合に、事業者が責任を負うのだろうか?
「たとえば、『わたし』が管理している掲示板に、ユーザーの誰かが著作権侵害のコンテンツをアップしたとしましょう。
もし、それが明らかに他人の著作物のコピーと分かるもので、しかも著作権者から適切な削除要請があったにもかかわらず、書き込みを放置したような場合、掲示板の管理者である『わたし』は不法行為責任を負うことになります。
一方で、『わたし』が当初は著作権侵害を認識しておらず、権利者から指摘をうけて速やかに削除や修正などの対応をすれば、『わたし』は不法行為による損害賠償責任を負いません」
どうして、そんなルールになっているのだろうか。
「『ユーザーが制作したコンテンツを常時監視する義務』を事業者に負わせることは、過度に重い負担となり、情報の流通を阻害するおそれがあるからです。
そこで、権利者からの要請など、事業者が権利侵害の存在を知ることができたと認められる相当の理由があった場合にのみ、事業者の損害賠償責任を認めることとしたのです。
TABI LABOのコメントは、このあたりを意識しているのでしょうね」
●「ユーザーが勝手にアップしたコンテンツ」なのか?
そうすると、TABI LABOの対応でOK、ということだろうか?
「そういうわけではありません。
このルールはあくまで、サイト運営者が管理できないところで、ユーザーが勝手に著作権侵害のコンテンツを制作してアップした場合に、サイト運営者の責任を限定するというものです。
本件で問題となっているコンテンツは、ユーザーが勝手にアップするコンテンツとは、性格が異なるように思われます。
コンテンツ自体は個人個人のライターが制作しているとしても、サイトの運営主体である事業者がライターにコンテンツ制作を委託しているのであれば、ライターと事業者が共同で著作権侵害を行ったと認定される可能性があると思われます。
もし、こうしたケースが訴訟になって、サイトの運営者が『これはライターが勝手にアップした記事だから削除すればOKだ』と主張したとすれば、コンテンツに対して運営者がどれだけ関与していたか、その内容・程度を考慮して、運営者の責任が判断されることになるでしょう」
唐津弁護士はこのように指摘していた。