ポーランド政界に漂う「ウクライナ疲れ」の影 支援の論調はなぜ変わったのか

サラ・レインズフォード、BBC東欧担当特派員(ワルシャワ)

Poland's President Andrzej Duda speaks during an United Nations Security Council meeting

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画像説明, ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領はウクライナを、救助者を引っ張って巻き添えにする恐れのある溺れた人間になぞらえた。画像は国連安全保障理事会で演説する同大統領

ウクライナをめぐるポーランド政府の論調の変化には驚かされる。

ロシアのウクライナに対する全面侵攻が始まった当初から、ポーランド政府はウクライナ政府の強固な支持者だった。

軍事援助や装備を率先して送ることも多かった。ロシアの侵略からポーランド自体を守るには、こうした支援が不可欠だと、熱弁を振るってきた。

しかしいま、突如として、ウクライナ政府に政治のナイフを突きつけているように感じる。

ウクライナはポーランドの支援に「感謝」すべきだという話が聞こえてくる。ポーランドのマテウシュ・モラヴィエツキ首相は20日、ウクライナへの武器供与を停止するという警告を発した。与党内には、このメッセージが与える影響を慌てて和らげようとする者もいた。

だが、ポーランド大統領の言葉には誤解の余地がなかった。アンジェイ・ドゥダ大統領はウクライナを、救助者を引っ張って巻き添えにする恐れのある溺れた人間になぞらえたのだ。

ロシア政府は、このコメントを喜々として受け止めた。

総選挙を念頭に

この隣国間関係の急激な悪化は、いまだ解決されていないウクライナ産穀物の輸入をめぐる論争から始まった。

ウクライナは収穫した農産物を輸出する必要がある。ロシアは黒海とドナウ川の両方の港を意図的に攻撃しており、現在は陸路の輸出ルートが非常に重要になっている。しかしポーランドは、自国の農家を守るために、安価なウクライナ産穀物が国内市場に出回ることを許可していない。唯一認めているのは、欧州連合(EU)のほかの国に運ぶ目的でウクライナ産穀物が自国を通過することだ。

Ukraine's President Volodymyr Zelenskiy and Polish Prime Minister Mateusz Morawiecki hug

画像提供, Reuters

画像説明, ウクライナがロシアの侵攻を受ける中、ポーランドはウクライナの最も強力な同盟国のひとつとなってきた。画像はハグをするウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領(手前)とポーランドのマテウシュ・モラヴィエツキ首相

ポーランドの与党・法と正義(PiS)にとっては、簡単な方程式だ。ポーランドの農家はウクライナ産穀物との競争を望んでいない。そして、PiSは10月の総選挙で農家から票を集めたい。そういうことだ。

ウクライナ政府はこれに激怒しているが、ポーランド国内の放送メディアやソーシャルメディアは、選挙に絡んだ話題であふれかえっている。その論調は時に、衝撃的なほど悪意に満ちている。

世論調査ではPiSが優勢ではあるものの、僅差の戦いになっている。大半のコメンテーターは「あまりに接戦で勝敗の予測がつかない」としている。

PiSは票の争奪戦において、自らをポーランドの利益を守る最強の擁護者と位置づけている。つまり、ウクライナをどのように支援するかを再定義することは、移民政策といった一般大衆に向けた大義名分と並ぶ手段のひとつに過ぎない。

ポーランドのポリティカ・インサイト分析グループのピョートル・ルカシェヴィチさんは、「穀物や武器が問題なのではない。重要なのは保守的な有権者の心情だ。これはPiSにとって大きな問題であり、この心情の波に乗らなければならない」と述べた。

「ウクライナは(ポーランドの支援に対して)十分な感謝を示しておらず、ウクライナ人は社会サービスや財政面であまりに多くのことを得すぎている、という見解から生まれた流れだ」と、ルカシェヴィチさんは説明した。

PiSは極右政党「コンフェデラツィア」を支持する有権者を獲得しようとしている。コンフェデラツィアの現在の支持率は約10%。

コンフェデラツィアのメンバーは今週、ポーランドの首都ワルシャワにあるウクライナ大使館でピケを張り、ポーランドの支援に対する偽の請求書を掲げた。同党は、ウクライナ政府支援には総額1000億ズウォティ(約3兆4200億円)超がかかっていると主張。紙には「支払い:ゼロ。感謝:なし」と書かれていた。

野党の政治家たちは、政府の行動を危険なナショナリズムだと非難している。

しかし、ポーランドでのこうした論調の変化は、単独で起きているわけではない。

「ウクライナ疲れ」の影は、選挙キャンペーンが展開されているスロヴァキアからアメリカまでにおいて漂っている。ロシア軍と戦い、欧米諸国からの継続的かつ強固な支持を必要としているウクライナ政府にとっては非常に深刻な状況といえる。

ポーランド東部ルツェツォフは、戦車から銃弾まであらゆるものが集まる重要な拠点となっている。ポーランド政府は、ルツェツォフを経由して、ウクライナの前線にはこれからも国際援助が届き続けると強調している。こうした中、ウクライナとポーランドの間では、穀物をめぐる協議が続けられている。

「言葉が重要」

舌戦が本格的な危機へとエスカレートするのを防ごうとする努力は、ウクライナとポーランド双方にあるように見える。

PiSが地方の保守票を追い求める中、ここワルシャワでは依然、ウクライナ支持が根強い。

「援助を制限するのは明らかによくない。ロシアがやっていることは容認できない。私たちは私たち自身を守り、ウクライナが自分たちの自由を守るのを助けるべきだ」と、ヴィクトリアさんは私に話した。この街ではいまも、連帯を示すためにアパートの窓からウクライナ国旗がたくさん掲げられている。そして、ウクライナからの難民も大勢暮らしている。

「政府が選挙に勝つために使う手段なんだと思う。政府はあらゆる感情を利用して、選挙前に汚い演説を行う」と、ラファさんは示唆した。

「口先だけであることを願っている。誰が選挙で勝つかによる。1カ月後にははっきりするだろう」

一方、ポーランドへの損害がすでに出ていると見ている人もいる。

「言葉が重要だ」と、前出のルカシェヴィチさんは主張する。「(言葉は)結果をもたらすだろう。ポーランドにとって悪い結果を。私はそう思う」。

(英語記事 What has happened between Poland and Ukraine?)