「副大統領、私が話しているんです」 繰り返される割り込み……ジェンダーが関係?

ヘリエ・チュン、BBCニュース

Mike Pence and Kamala Harris

画像提供, Getty Images

画像説明, 米副大統領候補討論会で論戦を交わしたペンス副大統領(左)とハリス上院議員

7日夜の副大統領候補討論会は、もっぱら礼儀を守りつつ、これといって印象に残るものではなかったというのが、大方の意見だった。

けれどもその中でひとつ、多くの視聴者が強く反応したやりとりがあった。特に女性の反応は顕著だった。野党・民主党の副大統領候補、カマラ・ハリス上院議員の発言を、与党・共和党のマイク・ペンス副大統領がさえぎり、割って入った時のことだ。

「副大統領、私が話しているんです」と、ハリス議員はほほ笑みながらたしなめた。「よろしければこのまま続けさせてください。そうすれば、会話ができます」。

この日の討論会でハリス氏は実に3回、「私が話しているんです」と繰り返した。

多くの視聴者が、これに反応した。女性が放送中になかなか発言できない、あるいは仕事の場で男性に発言を遮られるなど、自ら体験したり見聞きしてきたことを連想して。

ペンシルヴェニア州チャザム大学のジェニー・スイート・クシュマン准教授は、「職場で発言したら、誰かが割って入ってきてかき消されてしまう。そういう経験をした全ての女性が、カマラ・ハリスと一緒だ」とツイートした。

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著作家、マーク・ハリス氏は、「有色人種の女性が、たえずにこやかにほほ笑みながら、白人男性に向かってどれだけ『私が話しているです』と繰り返しても、それでもまだ与えられた発言時間は男より少なかった。それが今晩の討論会の発見だ。本当に気分が悪い」と書いた。

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米ジョージタウン大学のデボラ・タネン教授(言語学)は、ハリス議員はあらかじめこうやって発言を遮られるだろうと「明らかに準備してあった」と話す。

性差と言語使用の違いに詳しいタネン教授によると、「私が話しているんです」という言い方は、「私の話を遮るのはやめてください」と言うよりは、相手を非難する要素が少ない。そのためはハリス議員の反応の仕方は、「相手に敬意を示している」ように見えたという。

「明らかに今回の討論会で(ハリス議員にとっての)課題は、いかに攻撃的な印象を与えないようにするかだった」と、タネン教授はBBCに話した。

「女性にとってそれは、あちらを立てればこちらが立たず的な、ダブルバインドだ。力強い候補だという印象を与えようとすると、女性らしくないと言われてしまうので。彼女はその綱渡りを実に上手にこなしていたと思う」

お互いに何回遮ったのか ジェンダーの影響は

Mike Pence and Kamala Harris

画像提供, EPA/Reuters

画像説明, Mr Pence spoke for 38 minutes compared to Ms Harris who had 35 minutes, according to CBS News

米CBSニュースが数えたところ、ペンス氏はハリス氏を10回にわたり遮った。一方、ハリス氏がペンス氏を遮ったのは5回だった。

米NBCニュースによると、ハリス氏は9回、ペンス氏は16回、相手の発言に割って入った。

しかしこの数字は、9月末のドナルド・トランプ氏とジョー・バイデン氏の大統領候補討論会とは比べ物にならない。米紙ワシントン・ポストの集計によると、あのときトランプ氏は71回、相手の発言に割って入った。対するバイデン氏は、22回だったという。

動画説明, 【米大統領選2020】 トランプ氏、初討論会で質問遮り 司会者「質問させて」

あの大統領候補討論会が与野党双方の支持者から批判されたことを思えば、2人の副大統領候補が穏やかなやり取りに終始しようとしたことは、まったく意外ではない。

それでもCBSによると、ペンス氏の発言時間は38分、ハリス氏は35分と差が出た。

今回の司会は、米紙USAトゥデイのスーザン・ペイジ・ワシントン支局長だった。どちらの候補の不規則発言も制止できなかったと、批判されている。特にペンス氏は、ハリス氏を遮っただけでなく、ペイジ氏の度重なる制止にもかかわらず、与えられた発言時間をオーバーして話し続けた。

なかなか発言できずにいたハリス氏が司会者に、「こちらに遮られたので、自分の分を最後まで言いたいのですが」と呼びかける場面もあった。

相手の話にどれだけ頻繁に割って入るか。これにはジェンダーが関係することもあると示す研究もある。その行為の多くは、無意識なのだという。

2014年の研究によると、相手が男性の時より相手が女性の方が、他人の発言に割って入る人は多いという。2017年の研究は、この傾向はたとえば米連邦最高裁でもみられると指摘している。最高裁の男性判事が女性判事の発言を遮る頻度は、その逆の3倍だったという。

自分の言い分を届けようと女性ががんばればがんばるほど、「女性らしさ」のダブルバインドによって不利になり得る。他人を遮って発言する男性より、そうする女性の方が厳しく批判されがちで、実力のある女性が周りより多く発言すると反発されかねないという研究結果もあるのだ。

「女性が男性と同じくらい話すと、男性より多くしゃべったと受け止められる」というのは、よくある現象なのだとタネン教授は言う。これはそもそも、女性は発言を控え目にするものだという思い込みがあるからだという。

ほかにも、他人に割って入られると「男性よりも女性の方があっさり発言権を譲りがち」だと、教授は言う。

しかし、影響する要因はジェンダーだけではない。バイデン氏との討論会で、トランプ氏は70回以上、割って入った。2016年大統領選の最初の討論会で、ヒラリー・クリントン氏に割って入ったのは51回だった。

また、同年の副大統領候補討論会では、民主党候補のティム・ケイン上院議員がペンス氏を70回遮った。ペンス氏がケイン氏を遮ったのは40回だった。

人種の影響は

ハリス氏の父親はジャマイカ出身、母親はインド出身だ。黒人で南アジア系の初の副大統領候補として、マイノリティーの女性に対するステレオタイプを意識しながら、ペンス氏の割り込みに反応していたはずだと、大勢が受け止めている。

「『黒人女性は怒りっぽい』という決めつけがあり、それを避けなくてはならないと彼女は承知している」と、メンロ大学のメリッサ・ミケルソン教授はカリフォルニア州の地方紙マーキュリー・ニュースに話した。

ジャーナリストのジェシカ・イエリン氏はハリス議員の対応を評価し、「女性にとっての課題、そして有色人種の女性として初めて主要政党の副大統領候補になった彼女にとっての課題は、マスコミや浮動票の有権者に、『つきあいにくい』とか『こわもて』とか『攻撃的』と言わせないようにしながら、自分の持ち時間を取り戻すことだった。答え。自信をもって、にっこりほほ笑みながら、目をキラリとさせて」と書いた。

当然ながら、討論会でのハリス議員の論陣の張り方や、ペンス副大統領とのやりとりに感心しない人はもちろんいた。

まだ誰に投票するか決めていないという複数の有権者に、両候補を一言で表現するよう求めた調査がある。それによると、ペンス氏については「落ち着いた」「退屈」「大統領らしい」「ゆったり」「典型的な政治家」という形容が出たのに対し、ハリス氏については「はっきりしない」「批判的」「皮肉」「練習しすぎ」「大統領らしくない」という形容があった。

この調査をとりまとめたフランク・ランツ氏は米フォックス・ニュースに対して、ペンス氏が繰り返し与えられた時間を超過して話し続けたことに有権者はいらだったものの、「ほほ笑んだり、笑ったり、顔をしかめたりしていたハリスの反応」の方が有権者を「怒らせて」いたと放した。

過去に共和党関係者のコンサルタントを務めることが多かったランツ氏は、「今夜の対決の勝者は明らかにマイク・ペンスだった」と、フォックス・ニュースに述べた。ランツ氏は今回の選挙では特定の政党の顧問はしていない。

対照的に、米CNNによる有権者へのインスタント調査では、59%がハリス氏が勝ったと答え、ペンス氏と答えた人は38%だった。

ジェンダーや人種は有権者に影響するのか

動画説明, 【米大統領選2020】 副大統領候補の討論会、どちらも質問に直接答えず

なかなか答えは出ないが、CNNの同じ調査では明らかに男性よりも女性の方が、ハリス議員を好感していた。

討論会の終了後、ハリス議員に好意的な印象を持った男性は56%、女性は70%だった。一方で、ペンス氏に好意的な印象を抱いた男性は50%、女性は32%だったという。

ジェンダーや人種が有権者の見方に影響したかは分からないが、ハリス氏に関するほ報道には明らかに影響したようだ。

ハリス氏が副大統領候補になって以降の報道には、「性差別的で人種差別的な偏向があった」という最近の研究もある。

女性の労働環境改善に注目する慈善団体だという「タイムズアップ・ナウ」によると、ハリス氏が副大統領候補になったことについての報道の3分の2近くが、ハリス氏の人種や性別に言及していたものの、共に白人男性のペンス氏とケイン氏が2016年に副大統領候補になった時にはそれは5%に過ぎなかった。

ハリス氏の人種や性別の言及した記事の多くは、その歴史的な意味合いを説明したものだった。ハリス氏は、主要政党の副大統領候補となる初の黒人、そして初のアジア系なので。加えて、女性の副大統領候補もわずかしかいない。

それでも、ハリス議員に関する報道の約25%は、「人種差別的で性差別的な決め付けや決まり文句」を使っていたと、タイムズアップ・ナウは言う。中には、「怒る黒人女性」というステレオタイプ、あるいはカリフォルニア州生まれのハリス議員について「アメリカ人ではないので大統領になる資格がない」という無根拠な陰謀論にも言及していたという。」

「つまり、白人男性が公職に立候補するとき、その属性こそがこの国のリーダーにとっての『デフォルト(初期設定)』だと思われているわけだ」と、タイムズアップ・ナウの研究は指摘する。

では……自分の発言が遮られたらどうすれば?

タネン教授は政治討論会において「この問題を解決するのは候補者ではなく、司会者や主催者の責任だ」と言う。

たとえば、制限時間を超えて話す候補のマイクを切るとか、「片方が持ち時間を超過して話したら、その分の時間を直ちに相手に与えるなど」だ。

一方で、職場においてベストなのは、「話を遮られた女性を擁護する人が、男女を問わず、その場で声を上げることだ」と教授は助言する。

遮られた当人が「最後まで話させて」と言うよりも、別の誰かが「彼女の言うことを聞きたい」と擁護する方が、対策としては簡単だからだという。

(英語記事 VP debate: Did gender play a role in the interruptions?)