小麦価格が上昇、ロシアがウクライナ産穀物輸送船を軍事標的にすると脅し

Firefighters tackle fire in Odesa

画像提供, DSNS Ukraine

画像説明, ウクライナ南部オデーサで消火活動に当たる消防隊員

ウクライナの港へ向かう船舶を軍事標的と見なす可能性があるとロシアが表明して以降、世界市場で小麦の価格が上昇している。

ウクライナ産の穀物を黒海経由で輸出する国際協定「黒海穀物イニシアチブ」は18日、ロシアがこれを延長しないと通知したため、失効した。ウラジーミル・プーチン大統領は、西側がロシアの要求に応じれば協定に復帰するとしている。要求には、ロシアの農業銀行を世界の決済システムに再接続させることなどが含まれている。

欧州の株式市場では19日、小麦が前日比8.2%値上がりし、1トンあたり253.75ユーロ(約4万円)となった。トウモロコシの価格も5.4%上昇した。

アメリカの小麦先物価格はこの日8.5%急騰し、ロシアのウクライナ侵攻開始以降で最も高い伸び率を示した。

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Presentational white space

ロシアの国防省は、20日以降に黒海でウクライナの港へ向かう船舶は、この紛争に関係した軍事物資の運搬船とみなされる可能性があると発表。「そのような船舶が籍を置く国は、キエフ(キーウのロシア語読み)の政権側につき、ウクライナ紛争に関与しているとみなされる」としている。

米ホワイトハウスのアダム・ホッジ報道官は、ロシアが民間船を攻撃し、その責任をウクライナに押し付けるつもりだと非難した。

また、そのための作業の一環として、ロシアがウクライナの港への航路に機雷を追加敷設していると述べた。

ロシア政府はこの疑惑についてコメントしていない。

ロシアの警告を受けてウクライナ側も、ロシアや、ロシアが制圧する黒海沿岸の港へ向かう船舶は、軍事貨物を運んでいるとみなす可能性があると警告した。

Black Sea

港湾部への攻撃続く

ロシアは18日未明、穀物取引の協定離脱から数時間後、ウクライナの港を標的にした攻撃を開始。攻撃は3日間におよんでいる。

南部オデーサ港や港湾都市ミコライウではミサイル攻撃が続き、合わせて20人が負傷している。

ミコライウ州のヴィタリ・キム知事は、子ども5人を含む19人が病院で手当てを受けたと説明。集合住宅が狙われたと話した。

オデーサでも数人が負傷したほか、4階建ての建物が破壊された。

Odesa was targeted for the third night running

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画像説明, ウクライナ南部オデーサでは、ロシアによる攻撃が3晩続いている

一方、ロシア占領下のクリミア半島も攻撃されたと、ロシアが任命した現地指導者セルゲイ・アクショノフ氏が語った。ドローンが半島北西部の行政機関の建物4棟を攻撃し、10代の少女が死亡したという。

ウクライナのミコラ・ソルスキー農業相によると、空爆によって穀物6万トンのほか、穀物輸出インフラの大部分が被害を受けたという。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアがわざと穀物輸出インフラを狙い、脆弱(せいじゃく)な国々を危険にさらしていると非難した。

ウクライナのオレクシイ・ゴンチャレンコ議員はイギリス、アメリカ、フランス、トルコ各国に、軍艦で穀物輸送船を護衛し、オデーサを砲撃から守るよう呼びかけた。

これに先立ちプーチン大統領は19日、西側諸国が穀物取引を「政治的恐喝」に利用していると非難した。

ロシア政府はまた、ウクライナが黒海の穀物回廊を「戦闘目的」で利用していると批判。ロシアはオデーサへの当初の攻撃を、ロシア占領下のクリミアとロシアを結ぶケルチ橋への攻撃に対する「大規模報復攻撃」だとしている。

The Turkey flagged TQ Samsunhe, the last grain ship that left a Ukrainian port since Russia exit the Grain Corridor Agreement one day earlier, is seen in the Marmara Sea, in Istanbul, Turkey, 18 July 2023

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画像説明, A grain ship that left a Ukrainian port earlier this week

マレックス・キャピタルのアナリスト、チャーリー・サーナティンガー氏は、ロシアが武力行使のエスカレーションを脅すことで、ロシア産とウクライナ産両方の、「黒海を経由する水上穀物輸送がすべて断たれることになり、ロシアのウクライナ侵攻当初と同じ状況につながると述べた。

ウクライナは世界有数のヒマワリ、トウモロコシ、小麦、大麦の輸出国。ロシアによる昨年2月の侵攻開始前まで、レバノンは国内で消費する穀物の75%近くをウクライナから輸入していた。ほかにもパキスタン、リビア、エチオピアなどがウクライナの農産品に大きく依存していた。

黒海からの海上輸送に代わる手段としては、ドナウ川の水路からルーマニアを経由する方法が可能だが、運べる量は限られる。

陸路の場合、輸送量が限られるほか、東欧の欧州連合(EU)加盟国は自国の農家を守るためにウクライナの穀物の入国を阻止している。

2022年2月の侵攻開始と共にロシアは黒海沿いのウクライナの港を封鎖したため、2000万トンの穀物がウクライナ国内に滞留した。ロシアの海上封鎖の影響で、世界的な食料価格は急騰。ウクライナの穀物に大きく依存する中東やアフリカの一部諸国への供給が滞った。

ロシアとウクライナが個別に合意した「黒海穀物イニシアチブ」を通じて、国連食糧計画(WFP)はウクライナの小麦72万5000トンをエチオピア、イエメン、アフガニスタンなど、飢餓が深刻化する国々へ提供することができた。

一方、国連データによると「黒海穀物イニシアチブ」によってウクライナから輸出された穀物の半分以上はトウモロコシで、約3300万トンのうち800万トンは中国へ、続いて600万トンがスペイン、320万トンがトルコへそれぞれ運ばれた。トルコはWFPの事業でトウモロコシを製粉している。トウモロコシは人間の食用のほか、バイオ燃料や飼料としてもつかわれる。

(英語記事 Wheat prices soar after Russia threatens ships)