ロシア政府、雇い兵組織「ワグネル」が武装蜂起呼びかけと ワグネル部隊の動きに注目集まる

Wagner leader Yevgeny Prigozhin

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ウクライナへの軍事侵攻をめぐり、ロシア国防省と、ロシア軍に協力していた雇い兵組織ワグネルとの確執が高まる中、ロシア当局は23日夜、ワグネル創設者エフゲニー・プリゴジン氏を武装蜂起呼びかけの疑いで捜査していると明らかにした。これに先駆けプリゴジン氏は、ロシア軍がワグネル部隊をミサイル攻撃したと非難。指導部にいる「悪」を阻止しなくてはならないとして、「正義のために行進する」と表明していた。プリゴジン氏がロシア南西部ロストフ・ナ・ドヌで、ロシア軍の南部軍管区司令部に入った様子とされる動画が拡散している。

民間軍事組織ワグネルは、正規のロシア軍と共にウクライナとで戦ってきたが、創設者プリゴジン氏は数カ月前からロシア軍幹部への名指しの非難を激化させていた。

プリゴジン氏は、ロシア軍がワグネルをミサイル攻撃したため、ワグネル兵が犠牲になったと主張。ロシア政府はその内容を否定し、「違法の行動」を中止するよう求めている。

ワグネル、ロシア南西部ロストフ・ナ・ドヌへ

ウクライナ国境から約100キロ東にあるロシア南西部の地方都市ロストフ・ナ・ドヌで24日午前、プリゴジン氏がロシア軍の南部軍管区司令部に入った様子とされる動画が、ソーシャルメディアで拡散している。

動画の中でプリゴジン氏は、ワグネル部隊がロストフを封鎖し、セルゲイ・ショイグ国防相とヴァレリー・ゲラシモフ総司令官がここまで会いに来ない限り、このまま首都モスクワへ進軍すると述べている。

ソーシャルメディアで拡散しているこの映像を、BBCは検証できていない。

ロストフ・ナ・ドヌは、ロシア南西部の主要都市。ここにあるロシア軍の南部軍管区司令部は、ウクライナ侵略において中心的な役割を担ってきた。

ロストフ・ナ・ドヌでは24日早朝、ワグネル部隊が政府庁舎を包囲していると思われる様子が撮影された。市内の政府庁舎の周辺を、武装した男たちが歩き回っているほか、大砲を庁舎に向けた戦車2両が映っている。

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ロストフ州の北にあるリペツク州のイーゴリ・アルタモノフ州知事は24日朝、リペツク州とヴォロネジ州の境でロシア連邦道路M4を封鎖したと明らかにした。M4は、ロストフ・ナ・ドヌとモスクワを結ぶ高速道路。アルタモノフ知事はこれに先立ち、ロシア軍の車列が高速道路上にいると話していた。

プリゴジン氏は24日未明、ワグネルの部隊がそれまで戦っていたウクライナ東部から国境を越えてロシアに入ったと主張した。裏付けとなる証拠は示していない。同氏はさらに、ワグネルが「民間車列」を攻撃したロシア軍ヘリを撃墜したとメッセージアプリ「テレグラム」に投稿したが、詳細は明らかにしていない。

これに先立ちロシア軍はロストフ・ナ・ドヌに、軍用車両を配備した。またモスクワの市内の警備も強化されている。ロシアメディアによると、「要塞(ようさい)作戦」と呼ばれる即応警備態勢がロストフ・ナ・ドンとモスクワで開始された。

ウラジーミル・プーチン大統領の報道官によると、大統領は情勢について報告を受け、必要な対応をとっているという。

ウクライナ東部に隣接するロストフ州のヴァシリー・ゴルベフ州知事は「テレグラム」で、住民に外出を控えるよう呼びかけた。

「現状では全当局が秩序維持に集中しなくてはならない」として、「地域住民の安全確保のため、捜査当局は全力を尽くしている。みな落ち着いて、不要不急の外出を控えるようお願いする」と、州知事は書いた。知事はさらにその後、ロストフの中心部を避けるよう求めた。

ロシアの国営テレビは、通常の番組を中断。「緊急ニュース速報」として、それまでの政府の公式見解を繰り返し、プリゴジン氏が明らかにしたロシアによるミサイル攻撃の映像は偽物、ロシア軍はワグネルを攻撃などしていないと主張した。

「緊急速報」はさらに、プリゴジン氏が「武装蜂起」を呼びかけ、ロシア国内で内戦を開始しようとしたとして、ロシア連邦保安庁(FSB)が刑事捜査に着手したと報道。FSBはワグネル兵に、プリゴジン氏の命令に従わず、拘束に協力するよう呼び掛けているという。

An armoured personnel carrier (APC) is seen on a street of the southern city of Rostov-on-Don, Russia June 24, 2023. REUTERS/Stringer

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画像説明, ロシア南西部ロストフ・ナ・ドヌの市内に、ロシア軍の装甲車の姿があった(24日、ロストフ・ナ・ドヌ)
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ロシアのインタファクス通信によると、クレムリン(ロシア大統領府)は「必要な措置を講じている」と述べている。

ウクライナ国防省は23日深夜のツイートで、「We are watching(注視している)」とだけ英語で書いた。

AFP通信によると、プーチン大統領の政敵で亡命中のミハイル・ホドルコフスキー氏は、プリゴジン氏を支持するようロシア国民に呼びかけた。

ホドルコフスキー氏は、「私たちは今こそ助ける必要がある。必要とあれば、この戦いにも参加する」と述べた。また、プリゴジン氏がロシア政府を打倒すると決めたなら、彼がたとえ「悪魔でも」支持することが重要だと発言。「そして、それは始まったばかりだ」と語った。

ホドルコフスキー氏はかつて、ロシアでも最も裕福な富豪(オリガルヒ)だったが、プーチン氏と断絶後、10年にわたり服役。現在は亡命し、プーチン氏への厳しい制裁を呼びかけている。

「軍事クーデターではない」とプリゴジン氏

プリゴジン氏は23日夜、ロシア軍がワグネル宿営地を攻撃し、「大人数」のワグネル兵が死亡したと、音声を「テレグラム」に投稿していた。

プリゴジン氏は証拠を提示しないまま、「我々の仲間と、(ウクライナでの戦争で)何万人ものロシア兵の命を奪った連中に、罰を与える」と主張。

「抵抗しないようお願いする。抵抗する者は誰だろうと脅威とみなし、破壊する。我々の前に立ちはだかるすべての検問所や航空も同様だ」

「大統領権限、政府、警察、ロシア国家親衛隊も、通常通りに機能する」

「これは軍事クーデターではなく、正義の行進だ。我々の行動は(ロシア軍の)部隊をいっさい妨げない」とも、プリゴジン氏は主張した。

ウクライナ侵攻におけるロシア軍の副司令官、セルゲイ・スロヴィキン将軍は、プリゴジン氏に対して「車列を止めて基地に戻る」よう呼びかけた。プリゴジン氏は過去にスロヴィキン将軍を称賛していた。

「我々には同じ血が流れる。我々は戦士だ」とスロヴィキン将軍はビデオで述べ、「我が国が大変な思いをしているこの時に、敵の有利になるようなまねをしてはならない」と呼びかけた。

Russian defence minister Sergei Shoigu

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画像説明, プリゴジン氏はかねて、ロシアのショイグ国防相を公然と罵倒してきた
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ロシア国防省は声明で、ロシアがワグネルを攻撃したと「プリゴジンがソーシャルメディアで広めている」話はいずれも「事実ではなく、情報による挑発だ」と述べた。

プリゴジン氏は今年5月に、ワグネル兵の遺体が多数横たわる中を歩く自らの動画をソーシャルメディアに投稿し、ロシア国防省を激しく非難。「数万人」がバフムートで死傷したとして、「ショイグ! ゲラシモフ! 弾薬はどこだ! この連中は志願兵として来てお前たちのために死んでいった。お前らが豪華なマホガニーのオフィスでぶくぶく太っていけるように」など、激しい表現を交えながらショイグ国防相とゲラシモフ総司令官を罵倒していた。

23日には、ウクライナでの戦争は「ショイグが元帥になれるよう」開始されたのだと非難。「国防省は国民をだまし、大統領をだまし、いかれたウクライナが我々を攻撃しようとして、NATO(北大西洋条約機構)と一緒になって我々を攻撃しようとしているだとか、そんなでたらめをまきちらしていた」のだと攻撃していた。

ロシア政府は今月10日、「志願部隊」に国防省と直接契約を結ぶよう要請するつもりだと述べた。このあいまいな表現は、ワグネルを指すと受け止められていた。これについてプリゴジン氏は11日、ワグネルは契約をボイコットすると強く反発していた。

「たとえクーデターが失敗しても」=米専門家

かつて米国防次官補代理で中央情報局(CIA)捜査員だったミック・マルロイ氏はBBCに対して、プリゴジン氏はプーチン大統領にとって深刻な課題を突き付けていると指摘した。

「ロシアのウクライナ侵攻は戦略的に壊滅的で、それをなんとかしようとするのにロシアが私兵組織に頼らなくてはならなかったということ自体、相当なこと。しかし今やプリゴジン氏は、そもそもロシアへの挑発など何もなく、ロシア国民は最初からうそをつかれていたのだと公然と認めている。これはかなりのことだ」と、マルロイ氏は話した。

ワグネルが今後仮にプーチン政権を脅かすようなことになれば、「ロシアは自己保存に向けて軍事力を再編成し、ウクライナの反転攻勢に対する防戦から手を引かなくてはならなくなるかもしれない」とも、マルロイ氏は述べた。

「たとえこのクーデター未遂が失敗したとしても、(ウクライナでの)戦争に最も近い人たちが、戦争はとんでもない間違いだったと承知していることを、強烈に強調している」