トランプ前米大統領、核関連など機密を自宅のシャワーや広間に保管=米司法省 罪状37件で起訴

Boxes of papers are stacked in a bathroom with a chandelier and a toilet visible, at Mar-a-Lago

画像提供, US Department of Justice

画像説明, 米司法省が公開した起訴状には、トランプ邸のシャワー室や広間に積み上げられた機密書類の箱の写真が掲載されていた

米フロリダ州の連邦地裁は9日、ドナルド・トランプ前米大統領が核兵器情報を含む数百点の機密文書を権限なく自宅に保管していた罪で司法省に起訴されたことを受け、起訴状を開示した。

起訴状によると、罪状は37件。前大統領が退任後、フロリダ州の自宅兼リゾート施設「マール・ア・ラーゴ」の大広間やシャワーなどに、機密文書の入った箱を積み上げていたという。さらに、捜査員にうその証言をしたほか、機密文書に関する連邦捜査局(FBI)の捜査を妨害しようとしたという。

アメリカの大統領経験者が、連邦法違反で起訴されるのは史上初めて。前大統領はすでに今年3月末、2016年大統領選直前に元ポルノ女優に支払った性的関係の口止め料をめぐり、ニューヨーク州の大陪審によって34件の事業記録改ざん罪で起訴され、4月に逮捕され、初出廷していた。大統領経験者が起訴されるのは、この時が初めて。

2024年大統領選に出馬する方針の前大統領は、自分は無罪だと主張している。

連邦大陪審は、ホワイトハウスでも大統領従者だった前大統領の付き人についても、機密書類をFBIから隠すために移動させた罪で起訴している。

49ページにわたる起訴状によると、前大統領が私邸内で書類箱に入れて保持していた機密には、次の内容のものが含まれていた。

  • アメリカの核計画
  • アメリカや諸外国の防衛・兵器能力
  • アメリカや同盟国の軍事的弱点
  • 外国からの攻撃に対する反撃計画
Presentational white space

起訴状によると、前大統領は退任後に約300点の機密文書を「マール・ア・ラーゴ」へ持ち込んだ。「マール・ア・ラーゴ」では数万人の招待客や会員を招いて、多数のイベントが開かれていた。機密文書の箱が積み上げられていた大広間も、そうしたイベントに使われていた。

大陪審は、前大統領が機密文書を「隠すか破棄」、もしくはそのような書類は持っていないとFBIに回答するよう顧問弁護士に提案したとして、トランプ前大統領がFBIの捜査を妨害しようとしたとしている。

起訴状によると前大統領は、「ここには何もないんだって、(FBIに)ただそれだけ言って済ます方が良くないか」と顧問弁護士の1人に話している。

この事件についてトランプ前大統領は13日午後、マイアミの連邦地裁に初出廷する。前大統領はその翌日、77歳になる。

Files shown stored in a ballroom at Mar-a-Lago in Donald Trump indictment

画像提供, US Department of Justice

画像説明, 「マール・ア・ラーゴ」の大広間に積み上げられた機密文書の箱

前大統領の私邸で、リゾート施設でもある「マール・ア・ラーゴ」は、機密文書の保管やその内容について話し合われるべき「正式に認められた場所」ではなかったと、起訴状は指摘している。

機密文書は、さまざまなイベントが開かれる大広間の檀上に積み上げられ、その後はバスルームやシャワー、執務室、前大統領の寝室などに移動されていたという。

Boxes were allegedly full of classified documents, according to the indictment

画像提供, US Department of Justice

画像説明, 起訴状によると、機密書類は大広間からバスルームへ、そして倉庫へと移されたという
A photo of a box of spilled documents

画像提供, US Department of Justice

画像説明, 箱の中身が床にこぼれ出ている写真も、起訴状に含まれていた
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トランプ前大統領は2021年に2度にわたり、機密文書の内容を閲覧権限のない人物(文筆家とスタッフ2人)に見せている。

ニュージャージー州ベドミンスターに所有するゴルフ場では、国防総省が「自分のため」に策定したものだとして、前大統領は他国に対するアメリカ政府の「攻撃計画」を複数の人物に示したとされる。このゴルフ場も、そのような機密の開示が「認められている場所」ではなかった。

「大統領としてはこれの機密指定を解除できたんだ。今はもうできないけど、でもこれはまだ秘密なんだ」。司法省が入手した音声の録音で、トランプ前大統領はこう発言しているという。

起訴状によると、前大統領は2021年8月あるいは9月にも、ベドミンスター・ゴルフクラブで機密書類を周囲に見せびらかしたという。前大統領は自分を支援する「政治活動委員会(PAC)の代表に、機密指定されている地図を見せた。この人物は機密閲覧権限を得ていなかった」と起訴状は書いている。

この地図は「軍事作戦に関連」するもので、前大統領はこのPAC代表に、「本当は見せちゃいけないんだ」、「だからあまり近づかないで」と言ったという。

トランプ前大統領に関する司法省の捜査を指揮するジャック・スミス特別検察官は9日にワシントンで記者発表し、国防関連の機密情報を守る連邦法はきわめて重要で、徹底して順守されなくてはならないと強調した。

「この国の法体系はひとつで、それは全員に適用される」と、スミス特別検察官は述べた。

動画説明, 「この国を危険にさらす違法行為」 トランプ前大統領起訴について特別検察官
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メリック・ガーランド司法長官は昨年11月に、トランプ前大統領に対する刑事捜査について、スミス検事を特別検察官に任命した。スミス氏は当時、コソヴォ紛争での戦争犯罪を裁くオランダ・ハーグ特別法廷の首席検察官だった。かつてはニューヨークの米連邦検事として汚職やテロ、金融犯罪などの捜査にあたった。特別検察官は、トランプ氏による機密文書の取り扱いや、2021年1月の連邦議会襲撃にどのような役割を果たしたのかを捜査している。

特別検察官の発表を受けて、トランプ前大統領は自分が運営するソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で、スミス氏を「頭のおかしい狂人」だと中傷した。

「あいつはトランプを憎んでるんだ。『正義』に関する一切の事件にかかわっちゃいけない、頭のおかしい『サイコ』だ」と、前大統領は書いた。

前大統領はさらに、ジョー・バイデン大統領の元オフィスやデラウェア州の自宅からも機密書類が見つかっていると指摘した。

これについてホワイトハウスはこれまでに、バイデン大統領の関係者は書類が見つかるとただちに当局に連絡し、対応に協力したと説明。FBIの捜査を妨害しようとしたとされるトランプ前大統領の対応とは対照的だと指摘している。

バイデン大統領による機密文書の取り扱いについては、ロバート・ハー特別検察官の捜査が続いている。

連邦地裁が起訴状を開示する直前、トランプ氏の顧問弁護士2人が突如、辞任した。詳しい理由は説明していないが、辞任するには今が「論理的なタイミング」だとしている。