金正恩氏に賠償請求、帰還事業で「だまされた」 東京地裁で口頭弁論

Kim Jong-un on Japan TV screen

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画像説明, 原告5人はそれぞれ、金正恩総書記に対し1億円の損害賠償を求めている。ただ、支払われることはないだろうとしている

日本から北朝鮮への帰還事業で、1959~1984年に9万人以上が北朝鮮に渡った。その中の5人が、同国の金正恩(キム・ジョンウン)総書記を相手に、損害賠償を求めて訴訟を起こした。14日、第1回口頭弁論が東京地裁で開かれた。

帰還事業は後年、一部から「国家による誘拐」だとして非難された。

原告の5人は北朝鮮に渡った後、脱北した。それぞれ1億円の損害賠償を求めている。

原告らは、金氏の出廷や賠償金の支払いは期待していないという。だが、勝訴することで、将来の交渉が有利になることを望んでいる。

「楽園」と信じ込む

日本が植民地にしていた朝鮮半島からは、1910~1945年に何千人もの朝鮮人が来日した。多くは自らの意思に反してだった。

戦後、帰還事業に参加した大多数は在日朝鮮人だった。「祖国」は「楽園」だと信じ込んでいた。一部の日本人配偶者も共に北朝鮮に渡った。

当時は北朝鮮と日本の双方が、帰還事業を後押ししていた。

北朝鮮は、第2次世界大戦と朝鮮戦争による荒廃から国を再建させる必要があった。

一方、日本は朝鮮人を「よそ者」とみなし、移住を歓迎した。

日本での差別と、北朝鮮によるプロパガンダが相まって、帰還はとても魅力的なものと受け止められた。北朝鮮は、帰還すれば無料で医療が受けられ、教育や仕事も充実している理想的な生活が得られると約束した。

象徴的な性格

しかし現実には、多くの人は農場や鉱山、工場などで肉体労働を強いられた。人権が侵害されたが、去ることはできなかった。

今回の訴訟は、象徴的な性格が強い。原告5人もそれを認めている。

US artillery in the Korean War 1952

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画像説明, 北朝鮮は朝鮮戦争で荒廃し、労働力を必要としていた。写真は1952年撮影の朝鮮戦争

原告のうち4人は在日朝鮮人で、1人は帰還事業に参加した日本国籍の妻。全員、脱北して日本に戻った。

原告側弁護士の福田健治弁護士はこれまで、「北朝鮮政府が判決を受け入れ、賠償を支払うとは考えていない」と述べている。

しかし勝訴すれば、「日本政府が北朝鮮と交渉できるようになると期待している」としている。

日本と北朝鮮に正式な国交はない。また、金正恩氏は現在の北朝鮮の指導者であることから、被告となっている。

「地獄に連れて行かれた」

原告側は、北朝鮮による誤った宣伝によってだまされたと主張している。また、北朝鮮で人権を享受することは全般的に不可能だったと訴えている。

原告の1人で在日朝鮮人の川崎栄子さん(79)は、どんな生活が待ち受けているか知っていれば誰も北朝鮮には行かなかっただろうと、AP通信に話した。川崎さんは2003年に、成人の子どもたちを残して脱北した。

別の原告、李泰庆さんは8歳だった1960年に海路で北朝鮮に渡った。李さんは米紙ニューヨーク・タイムズに、「私たちは『地上の楽園』に行くと言われていた。しかし実際は地獄に連れて行かれ、最も基本的な人権である移動の自由も奪われた」と語った。

李さんは北朝鮮に渡ってから46年後、脱北した。