トランスジェンダー選手が東京五輪代表に、五輪出場は史上初 「不公平」と物議も

Laurel Hubbard lifting weights

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画像説明, 女子重量挙げのハバード選手

ニュージーランドの重量挙げ選手で、トランスジェンダーのローレル・ハバード(43)が21日、東京五輪の女子87キロ超級の代表に選出された。トランスジェンダーの選手が五輪に出場するのは史上初。この決定に対し、ハバード選手には生物学的に有利で不公平だという声も上がっている。

ハバード選手は2013年に性別を移行する前は、男子の重量挙げ競技に出場していた。2017年世界選手権では銀メダルを獲得している。

国際オリンピック委員会(IOC)が2015年にトランスジェンダー選手の出場について、男性ホルモンのテストステロン値が12カ月間にわたり一定以下なら、女子として競技することを認めるとするガイドラインを策定して以降、ハバード選手にはトランスジェンダー選手としてオリンピックに出場する資格があった。

さらに、国際重量挙げ連盟(IWF)がパンデミック対策のため、出場資格の条件となる大会出場回数を6回から4回に減らしたことで、ハバード選手は東京五輪の出場権を獲得できた。

「恐縮する思い」

Laurel Hubbard

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画像説明, ハバード選手

代表選出をめぐっては、ハバード選手には不当な優位性があるとの指摘があがっている。一方で、包括性の観点から東京五輪では多様性を尊重し、より多くの人を受け入れるべきだという意見もある。

ニュージーランド・オリンピック委員会が21日に発表した声明の中で、ハバード選手は「多くのニュージーランド人が私に与えてくれた優しさと支援に感しており、恐縮する思い」だと述べた。

東京五輪では各階級に出場できる選手は1カ国1選手。このため、ハバード選手のライバル数人は同五輪には出場できなくなった。

ハバード選手は2017年世界選手権の90キロ超級で銀メダルを獲得した。現在の世界ランキングは17位。

物議を醸す決定

ハバード選手のテストステロン値はIOCの規定を下回っている。しかし、同選手の五輪出場はそれでも、女性として生まれた選手に不公平だという批判も出ている。

男性として第二次性徴期を過ごした人は、骨密度や筋肉量が女性より高くなるなど、生物学的に有利だという指摘もある。

ハバード選手と同じ階級のアンナ・ヴァンベリンゲン選手(ベルギー)は先月、もしハバード選手が東京五輪に出場することになれば、女性にとって不公平でまるで「悪い冗談のようなもの」だと発言した。

ヴァンベリンゲン選手はさらに、自分はトランスジェンダー・コミュニティを全面的に支援するものの、包括性の原則は「他人を犠牲にして」実現するべきものではないと述べていた。

また、「重量挙げを高いレベルでトレーニングしたことのある人なら誰でも、骨身にしみて分かっている。この特別な状況はスポーツとアスリートにとって不公平だと」とも述べた。「メダルや五輪出場権など、人生を変えるような機会を逃す選手もいるというのに、私たちは無力だ」。

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トランスジェンダー選手が女子の大会に出場することに反対している団体「Save Women's Sport Australasia」も、ハバード選手の東京五輪出場を批判している。

同団体は21日のニュージーランド代表選手の発表に先立ち、「女性を自認する43歳の生物学的に男性である人に、女性のカテゴリーで出場することを許可したIOCの方針には欠陥がある」との声明を出した。

「すべての人を受け入れ、尊重する」

一方でニュージーランド政府やニュージーランド・オリンピック委員会は、ハバード選手の出場を支持している。

同オリンピック委員会トップのケレイン・スミス氏は「ローレルは競技において世界トップレベルの選手であるだけでなく、トランスジェンダー選手に関するIOCコンセンサス・ステートメントのガイドラインに基づく基準を含め、IWFの資格基準を満たしている」と述べた。

そして、「スポーツにおける性自認は非常にセンシティブで複雑な問題であり、競技の場における人権と公平性のバランスが必要であることを我々は認識している」と付け加えた。

「ニュージーランドチームとして、我々はマナアキ(マオリ語で尊敬の意味)の力強い文化を持ち、すべての人を受け入れ、尊重している」

過去の大会でも物議

ハバード選手はトランスジェンダーだとカミングアウトする前は、ギャヴィン・ハバードとして生活していた。

同選手の競技参加をめぐっては、過去にも論争が巻き起こった。

2019年にサモアで開催されたパシフィックゲームズで、開催国の選手を破って金メダルを獲得した際には怒りの声が上がった。

サモアの重量挙げ協会トップは、ニュージーランドの五輪代表メンバー選出は、選手に「ドーピング」を許すようなものだとし、再び自国のメダルが奪われることを危惧した。

2018年には、オーストラリアの重量挙げ連盟は同年にゴールドコーストで開催されたコモンウェルス・ゲームズへのハバード選手の出場を禁止しようとした。

主催側はこうした対応を拒否したが、結局ハバード選手はけがを理由に大会を辞退した。

(英語記事 Transgender athlete picked for Olympics)