米ドミニオン社、FOXニュースに16億ドル賠償請求 米大統領選報道めぐり

Fox News headquarters in New York

画像提供, Reuters

画像説明, 米ニューヨーク市にあるFOXニュース本社

昨年の米大統領選で一部の州に投票機など投開票システムを提供した米ドミニオン・ヴォーティング・システムズは26日、米FOXニュースが根拠のないまま「ドミニオンが選挙不正に加担した」と報道し続けたとして、FOXニュースを名誉毀損で訴え、損害賠償として16億ドル(約1750億円)を請求した。FOXニュースは「根拠のない訴訟を法廷で争う」とコメントしている。

ドミニオン社は拠点とするデラウェア州の地裁に示した訴えの中で、FOXニュースがドミニオン社に対する陰謀論を主張するゲストを番組に呼び続けたことで、FOXニュースは「無謀にも真実を軽視」したと主張。これは、「FOXのビジネスにとって、うそは好都合だったからだ」としている。

ドミニオン社は訴状で、「アメリカで最も有力なメディア企業のひとつのFOXは、不正選挙について作り上げたあらすじに命を吹き込み、当時ほとんど知られていなかったドミニオンという投票機の会社を、悪者に仕立てた」と訴え、「FOXは、ドミニオンについて検証可能ながら強烈な悪影響をもたらすうそを、支持し、繰り返し、放送した」、「FOXは無謀に真実を無視した」、「FOXはドミニオンに関するこうした発言はうそだと承知していた」などと主張している。

これに対してFOXニュースは、「FOXニュースメディアはわが社の2020年大統領選報道を誇りに思っている。米ジャーナリズムの最高峰の伝統にのっとるものだった。我々はこの根拠のない訴訟を法廷で争う」とコメントした。

ドミニオン社はアメリカで使われる投票機の製造大手。昨年11月の選挙では少なくとも28州が、同社の機械を使用した。

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ドナルド・トランプ前大統領とその側近、顧問弁護団、保守派論客などは、ドミニオン社が投票を操作したせいで、「選挙が盗まれた」などと主張を繰り返していた。この「選挙が盗まれた」という主張をよりどころに今年1月6日にはトランプ派が首都ワシントンに大勢集まり、ジョー・バイデン氏の勝利認定を妨害しようと連邦議会を襲撃した。議会襲撃では警官1人を含む5人が死亡。暴徒はマイク・ペンス副大統領(当時)やナンシー・ペロシ下院議長など議会幹部に肉薄した。

昨年の大統領選で大規模な不正投票があったという証拠は示されていない。トランプ陣営やトランプ派はアメリカ各地で不正選挙を訴えて訴訟を起こしたが、そのほとんどが裁判所に棄却されている。トランプ氏自身が指名した裁判官たちも、不正投票を認定せず、トランプ政権の司法長官としてトランプ氏の擁護を繰り返したウィリアム・バー氏も昨年12月、大規模な不正の証拠は得られていないと発言した。

ドミニオン社と不正選挙について根拠のない主張を繰り返していた中には、トランプ氏の顧問弁護士ルディ・ジュリアーニ氏や、トランプ陣営に協力していたシドニー・パウエル弁護士などがいた。パウエル弁護士は昨年11月、ドミニオン社による不正選挙には「グローバリストや独裁者や企業や、ありとあらゆる巨大利権が絡んでいて、トランプ大統領以外の全員が私たちに敵対している」など、根拠を示さず記者会見で発言していた。

両弁護士は、2002年に設立されたドミニオン社が、2013年に死去したヴェネズエラのウーゴ・チャヴェス大統領と協力し、「自分が絶対に選挙に負けないように保証する」機械を作り上げたのだとも主張していた。

不正投票があったと繰り返したFOXニュースの大統領選報道についてはすでに、別の投票技術企業スマートマティックが今年1月、同様の主張で、FOXコーポレーションと複数の番組司会者を訴えている。

ドミニオン社はすでにパウエル弁護士に対する名誉毀損訴訟を首都ワシントンの連邦地裁に起こしており、その弁護団は今月22日、選挙後のパウエル氏の発言は政治的状況における、明らかに誇張されたものだったため、名誉毀損には当たらないとする答弁書を提出した。

それによると弁護団は、「民主党は選挙を盗もうとして、投票内容を電子的に変更するコンピューターシステムを開発した」などと繰り返したパウエル氏の発言について、「この発言が実際に事実を述べたものだなど、分別のある合理的な人間ならば、そのような結論に至ったりしない」と主張している。

(英語記事 Dominion Voting sues Fox News for $1.6bn over election fraud claims)