欧州委、イタリアに予算案修正を要求 史上初

イタリアのジュゼッペ・コンテ首相(左)と2人の副首相、ルイジ・ディ・マイオ氏(中央)とマッテオ・サルビーニ氏(右)は、予算案の修正を要求された

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画像説明, イタリアのジュゼッペ・コンテ首相(左)と2人の副首相、ルイジ・ディ・マイオ氏(中央)とマッテオ・サルビーニ氏(右)は、予算案の修正を要求された

欧州連合(EU)の欧州委員会は23日、イタリアの2019年予算案についてイタリア政府に修正を求めた。EU加盟国の国家予算案を欧州委員会が拒否したのは初めて。

イタリアはユーロ圏で3番目に大きい経済規模を持つが、ただでさえ公的債務の膨らむイタリアの支出増を欧州委員会は懸念している。

政権与党のポピュリスト政党「同盟」と「五つ星運動」は、失業者への最低収入保証など支出増を伴う選挙公約の実現を約束している。

欧州委員会はイタリアに求める新たな予算案の提出期限を3週間とした。

イタリアの予算原案は、欧州委員会の勧告に順守していない部分があり、それが「特に深刻」だと委員会は懸念を示している。

欧州委員会のユーロ問題担当副委員長、バルディス・ドムブロフスキス氏は、委員会の懸念に対するイタリアの回答は、懸念緩和に「不十分」だったと指摘。ユーロの規則は全加盟国に平等だと述べた。

イタリアのルイジ・ディ・マイオ副首相はフェイスブックに、「イタリア予算案が初めて、EUに嫌われた。特に驚かない。EUではなく、イタリア政府が作った初のイタリア予算だからだ!」と書いた。

もう1人の副首相マッテオ・サルビーニ氏は、EUに予算を拒否されても「だからといって何も変わらない」と付け加えた。

サルビーニ副首相は「欧州委員会は政府ではなく、国民を攻撃している。イタリア国民をさらに怒らせるだろう」と述べた。

イタリアがより多くの支出を望む理由

今年発足したイタリア新政権は、失業者への最低収入保証などによる「貧困の終結」を約束している。

他の貧困対策には、減税や定年引き上げ撤廃など、3月の選挙で重要公約を実現するための施策が含まれている。

EUに反発するジュゼッペ・コンテ首相はすでに、財政赤字が国内総生産(GDP)の2.4%より大きくなることはないと主張していた。ただ、財政赤字目標は前政権が提示した予算案の3倍となっている。

イタリアの公的債務残高は対GDP比131パーセントとなっており、EU加盟国では金融支援を受けたギリシャに次ぐ2番目。この債務を無理に返済すれば、10年前の金融危機からいまだ回復できていないイタリア国民を苦しめると政府は主張している。

イタリア経済は依然として金融危機前の2008年の水準まで回復していない。同盟と五つ星運動は、支出増が経済成長に弾みをつけるとしている。

劣悪なイタリアの債務状況

ユーロ離脱について中立を保つイタリアのジョバンニ・トリア財務相と、海外アナリストは、イタリアの財政赤字が対GDP比2%以下を維持し、場合によっては1.6%の低水準にまで下がってほしいと期待していた。

EUはユーロ圏の規則として、財政赤字をGDPの3%以下とするよう求めている。GDPの2.4%というイタリアの財政赤字状況はこの制限値に近づいており、同国の債務状況は警戒が必要な水準になっている。

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表:EU各国の公的債務残高(2017年の対GDP比、単位はパーセント。出典:EU統計局)

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ドムブロフスキス副委員長は、「欧州委員会がユーロ圏内の国に予算案草案の修正を求めざるを得なくなったのは今回が初めてだが、イタリア政府にそう要求する以外の代替案はないと判断した」と述べた。

イタリアの納税者が、教育費と同じくらいの額を公的債務返済にあてなくてはならない事態になっていると、ドムブロフスキス氏は指摘した。

同氏は「ルール違反は、最初は魅力的に見えるかもしれない。自由になるという幻想を提供してくれるので」と述べた。

「借金を借金で返そうとするのは、魅力的かなこともしれない。しかしいずれ、債務負担が限界を超えてしまえば(中略) 最終的には一切の自由を失ってしまう」

イタリアが予算案を9月に発表すると、市場の混乱は数週間続いた。

欧州委員会が23日にイタリア予算案を拒否すると発表するまで、欧州市場の株価は過去2年近くで最低水準まで下落した。

委員会の発表後、市場におけるイタリアの地位の相対基準として使われるイタリア・ドイツ10年債利回り格差は、過去最大となる314ベーシスポイントまで広がった。

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<解説>イタリアは譲らない――ケビン・コノリー、BBC欧州特派員

4週間前、予算の承認を受け、「我々はやったぞ!」の叫び声がイタリアにこだました

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画像説明, 4週間前には政府の予算承認を受けて「我々はやったぞ!」の叫び声がイタリアにこだました

イタリアはEUと衝突する道に突進しており、論争はユーロ圏を未知の領域に導いている。

EU当局は予算案を拒否し、修正案を要求する権利を持つ。要求が無視されれば、罰金を科すこともできる。

EUがこの段階まで進むのは初めてだ。EUの政治的エネルギーは現在、英国のEU離脱交渉に吸い取られている。その最中だというのに、EUはさらに、最大級の加盟国との対立を長引かせることと、他のユーロ圏各国にルール違反をさせないよう強硬策でにらみを利かせることの是非を、比較検討しなくてはならない。

イタリア政府は、自分たちが決めた対策は成長回復に必要なものなので、譲歩するつもりはないと主張している。

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(英語記事 Italy budget: European Commission demands changes)