2020年2月27日
外国為替市場では、各国の通貨のなかでも取扱高が多い「ドル円相場」がわずか数分で急激に動く「フラッシュ・クラッシュ」が発生する頻度が高まっている。この現象はなぜ、どのような時に起こるのだろうか ?
2019年1月3日早朝にドル円相場のフラッシュ・クラッシュが発生、わずか5分程度で4円程度の急落を見せた。日本は正月休みのため市場参加者が少なく、薄商いのシドニー為替市場で起こった。
主因は「アップル・ショック」という見方がある。米アップルのティム・クックCEOが米国時間1月2日に、中国でのiPhone落ち込みが厳しく、2018年10~12月期の売上予想を従来見通しの890億ドル~930億ドルから840億ドルに下方修正することを発表した。
アップルの売上動向や設備投資動向はその影響力から世界景気を左右する指標になっており、世界景気の低迷を懸念してリスクオフの円高になったというのが一般的な見方である。フラッシュ・クラッシュ後にドル円はすぐに107円台まで戻したが、翌3日のアップル株は約10%安と急落、NYダウも660ドル (2.8%) 安とフラッシュ・クラッシュは株式市場をも直撃した。
主因はアップル・ショックだが、急激な動きを助長したのは「アルゴリズム取引」と「高頻度取引 (HFT) 」だったとの見方が強い。
現在の為替取引には、ヘッジファンドを中心にコンピュータが自動的に売買を判断するプログラムを取り入れているファンドが多い。なかでもAI (人工知能) を活用し、大手メディアや情報ベンダーの報道、重要人物のSNSなどをテキストリーディングすることで瞬時に売買の材料を判断するアルゴリズムトレードが増えている。
米連邦公開市場委員会 (FOMC) や米雇用統計などといった重要な経済イベントの発表直後にドル円相場が急変することが多いのはAIが自動的に材料を判断しアルゴリズムが注文を執行しているためだ。
アップルの事例も、下方修正を景気のネガティブ材料と判断したアルゴリズムがドル売りの自動注文を出したが、年初で薄商いだったために、108円の節目前後にあった大量のストップロスオーダー (逆指し値注文) を執行させてしまった。相場の流れが変わったことで高速売買を順張りで行いながら、サヤ取りを繰り返すHFTがさらにドル円の変動を加速させたものと推察される。
その他、有名なものとしては2016年10月7日に発生した英ポンドのフラッシュ・クラッシュがある。ブレグジットが国民投票で決まった後の不安定な相場ではあったが、やはり日本時間の早朝にポンドドルが1.26ドル台から1.14ドル台に急落した。わずか数十秒で約9%の急落だった。
最初のきっかけは、仏大統領がブレグジットに厳しい姿勢で臨むとの報道に反応してポンドが売られたことだ。さらに投資銀行のミスによる誤発注が相場を大きく動かし、ロスカットオーダー (一定の損失が発生したときにそれ以上の損失拡大を防ぐための取引終了) を執行させている。そこからHFTがサヤ取りの回転商いによりフラッシュ・クラッシュを加速させたことが、その後の国際決済銀行の検証報告書で報告されている。ポンド急落は他通貨には波及せず相場は短時間で回復しており、実体経済への影響は限定的だった。
為替市場の電子化・自動化が進み、こうした相場の急変が増えてきている。フラッシュ・クラッシュは、電子取引が市場のブレを加速させているだけに、落ち着けば「往って来い (相場がある水準まで上下したときに、もとの水準まで戻ること) 」になる場合も多い。FXではなく外貨預金のように中長期で保有するのであれば過度に不安になる必要はないが、大型連休や早朝などの流動性の低いときは大きなポジションをとらないような注意が必要だろう。
(提供:株式会社ZUU)