「面接官ガチャ」を防ぐには? 「キャンプ」に「サウナ」…企業で広がるユニークな選考方法

2024/05/11

■特集:令和のキャリア教育・シューカツ事情

就活の採用面接は、オフィスの一室で面接担当者と向き合い、緊張と闘いながら質問に答えるもの……とは、今は限らないようです。相性が悪い面接担当者に当たってしまい、自分の良さを出せなかったと嘆く「面接官ガチャ」という言葉も生まれています。面接で、学生がありのままの姿を出せるように、従来の常識にとらわれない、ユニークな手法で応募者の選考を行っている企業に話を聞きました。(写真=Getty Images)

本音で語る面接

人事、採用のコンサルティング事業などを行うNOVEL(ノーベル)は、2023年度新卒採用の最終面接をキャンプの形で実施しました。「いっしょにキャンプ面接」と名付けられたこの選考は、面接担当者や就活生という立場を意識せず過ごせる場で本音を語り合い、お互いの価値観や性格を理解することを目的としています。

また、Z世代を対象にした企画やマーケティング事業などを手がける企業「僕と私と」は、21年から希望者を対象に「サウナ採用」を始めました。プライベートサウナ施設での「サウナワーケーション」(サウナや食事を楽しみながら仕事も行う活動)に応募者を招き、面談を行う採用方法です。

サウナ採用を発案したのは、20年に同社を設立した今瀧健登・代表取締役社長です。

「応募者と私が一対一で話す時間もありますが、いわゆる採用面接というよりは、カジュアルな面談ですね。弊社に興味があって、しかもサウナが好きな人ならば、まずは会って話をしてみようよ、というイメージです」(今瀧社長)

「僕と私と」の今瀧健登社長(写真=僕と私と提供)

応募者の「素」を知りたい

同社は決まったオフィスを持たず、ほぼすべての業務をフルリモートで行っています。社内ミーティングや採用面接は基本的にすべてオンラインという同社が、サウナというオフライン、かつ、密な空間を採用活動の場に選んだ理由は、「サウナは取りつくろわず、リラックスした状態で応募者の人となりに触れられる場所だから」です。

「応募者の『素』を見られるのが、サウナ面談のいいところです。一般的な採用面接では、ある程度は質問のパターンが決まっていますが、サウナでの面談では『普段はどこのサウナに行っていますか』などと雑談から始めて、仕事に対する価値観や将来の希望なども聞くことができますし、サウナに入る前の準備や出た後の身支度などの細かい部分からも、その人の性格や個性はわかります。もっとも会話や行動を逐一チェックしているわけではありませんが」(今瀧社長)

自分に合う採用方法を選ぶ

同社は、ほかにもユニークな採用をいくつか行っています。そのうちの一つが、会社主催の花見で応募者と交流する「お花見採用」です。サウナ採用とお花見採用に共通するのは、採用選考に応募する意思がはっきり決まっていない段階でも気軽に参加できることと、今瀧社長をはじめとする同社のメンバーと直接話し、会社の雰囲気を肌で感じられることです。

「僕と私と」では、3つのユニーク採用を実施している(図=僕と私と提供)

応募者の発想力やチャレンジ精神をみる「エイプリル採用」は、今瀧社長が尊敬する面白法人カヤックのアイデアを参考に導入。昨年は人気漫画『ドラゴンボール』のキャラクター・ピッコロ大魔王から応募があり、採用に至ったという事例があります。

「ユニークな採用方法は、どの会社にもあっていいのではないかと僕は思います。入社後はそれぞれの強みを生かして違う業務を担当してもらうのですから、採用方法も全員一緒でなくてもいい。弊社でも通常の応募フォームを使った採用も行っているので、自分に合う方法を選んでもらえばいいんです」(今瀧社長)

就活生が面接担当者を指名

インターネットを使った企業のマーケティング支援や自動車産業のDX事業を展開するナイルは、25年卒の新卒採用から、就活生が採用面接の面接担当者を選択する「選べる面接官」制度を導入しました。この制度は、面接担当者紹介ページに掲載された約20人の社員の中から、応募者が話したいと思う5人ほどを選択し、そのうちの1人が1次面接の面接担当者を務めるというものです。面接担当者の紹介ページには、顔写真とプロフィルのほか、仕事のやりがい、学生時代に取り組んだことなど、それぞれの性格や価値観がわかる内容が書かれています。面接担当者選びを会社に任せることも可能ですが、約9割の応募者は「選べる面接官」制度を利用しているそうです。

ナイルの面接担当者紹介ページ(写真=ナイル提供)

きっかけは「面接官ガチャ」

この制度について宮野衆(しゅう)執行役員は、「SNSで見かけた、ある就活生の投稿が導入のきっかけでした」と話します。

「就活生がどのようなことを考えているのか知っておこうとX(旧Twitter)を見ていたら、『第1志望、面接官ガチャで終わった』という言葉が目に留まったんです。環境を選べない状況を表す『親ガチャ』とか『配属ガチャ』は知っていましたが、『面接官ガチャ』もあるのかと気づかされました。たまたま面接担当者との相性が悪くて第1志望の面接がうまくいかないのは気の毒だし、就活生にとって納得感のある形にしたいと思いました」

ナイルの宮野衆・執行役員(写真=ナイル提供)

面接担当者は就活生の履歴書などに目を通し、情報を押さえたうえで就活生と対面しますが、就活生は面接担当者については何も知らないまま面接に臨みます。「このような両者の関係自体がフェアではない」と宮野執行役員は指摘します。

「面接ガチャと言っても、今の時代、あからさまな圧迫面接はほとんどありません。ただ、面接担当者とは初対面。情報がないため不安になったり、話してみたい属性とは違う社員が来たことで、何となく話しづらさを感じたりすることはあると思いますし、実際、女子学生からは『面接担当者が男性だと、ライフステージの変化と仕事の両立のことなどは聞きにくい』という意見も聞きました。面接をする以上は、できるだけ公平な環境をつくって話をしたほうが有意義な時間を過ごせるし、納得のいく結果が得られるでしょう。趣味が似ている面接担当者や、興味のある部署の面接担当者を就活生自身が選べたら、話しやすいだろうと考えました」

企業にもメリット

就活生が自然体で話せるようになれば、会社側も一人ひとりの個性や能力を見極めやすくなり、「面接担当者と相性が悪かったために本領を発揮できず、本来は採用すべきだった応募者が選考から漏れる」というリスクを減らすことができます。事前に面接担当者の情報を共有すれば、就活生はその社員のプロフィルや自己紹介文から会社の業務に関する基礎知識を得られるため、面接ではより深い話ができるというメリットもあります。

「学生の人柄を知るために、私が面接でよく聞くのが『今の“推し”は何ですか』という質問です。ゲームでもアイドルでも、何かの作品づくりでも、だれにも熱くなれる話題はあるし、なぜそれに夢中になっているのか、どんなふうに情熱を傾けているのかといった話からは、その人のキャラクターや価値観が見えます。そういう意味でも、大学時代に自分の興味を深め、いろいろなことに挑戦することは大切だと思います」(宮野執行役員)

各大学がアドミッションポリシー(入学者受け入れ方針)に合う学生の獲得を目指し、多様な入試方法を実施しているように、企業も自社に合う人材を確保するために、さまざまな採用手法を取り入れています。一見、突飛に思えるユニーク採用にも、それぞれの企業の経営理念や価値観、社風が反映されるものです。自分に合った企業を探す際には、「採用方法」という切り口から企業を比較してみるのもいいでしょう。

>>特集「令和のキャリア教育・シューカツ事情」

(文=木下昌子)

 

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