信号機も、名前もない小さな交差点で、交通事故が多発している場所が全国にある。身近な道路で事故にあわないために、私たちはどんな注意をすればいいのか。警察庁が公開した人身事故データを独自に分析した結果、浮かび上がった事故の姿とは。データは、警察庁公開の2019年、20年の「交通事故統計情報のオープンデータ」から
人身事故の41.8%を占める交差点内での事故には、どのような特徴があるのか。その一つが、信号機がない交差点での事故の多さだ。交差点内での死傷事故のうち、59.6%が信号機がない交差点で起きた。件数でみると、2019年、20年の2年間で死亡事故は計1047件、負傷事故は計約16万8千件あった。
交差点内での人身事故に関与したのは、普通乗用車が33.6%で最多。軽自動車(20.7%)、自転車(16.7%)がそれに続いた。死亡事故に限ると、人身事故全体では4番目に多かった歩行者が20.8%でトップだった。
歩行者や自転車は、どのような交差点で事故にあっているのか。歩行者や自転車が事故にあった交差点の車道の幅と速度規制を調べた。その結果、車道の幅が13メートル未満の小、中規模、かつ速度規制が30キロまたは40キロ以下の交差点で事故が集中していた。道幅が13メートル以上の大きい交差点よりも、小、中規模の交差点でより注意が必要だということがデータからうかがえる。
交通事故は毎日、日本のどこかで起きている。いつ、どこで、どんな状況で事故に遭遇するのか。分析でみえた特徴をまとめた。
2019年、20年に発生した人身事故は全国で67万9968件、死亡事故は5908件だった。事故は大阪(5万5622件)、東京(5万5345件)、愛知(5万5166件)と都市部に集中。それに比例して死亡事故も大阪(251人)、東京(284人)、愛知(302人)で多かった。ただ、事故件数に占める死亡事故の割合を見ると、福井県(3.51%)がトップ。鳥取(3.41%)、島根(2.59%)と地方が続いた。
その答えは、事故の当事者データの中にありそうだ。事故件数に占める65歳以上の割合を調べてみると、死亡事故の割合が高い県では高齢者の割合も高かった。地域の高齢化に加え、高齢になっても車以外の移動手段が乏しいことなどが要因として考えられる。
交通事故の発生時間を月ごとに調べてみると、人身事故の多くは交通量が多い日中に起きていた。2年間で起きた人身事故約68万件のうち、日中の発生は約43万件と6割以上。死亡事故に限ると、帰宅時間と重なる午後5~6時頃の夕暮れ時、特に11~1月の冬場に集中していた。
交通事故の調査・分析をする「交通事故総合分析センター」(東京)によると、この時間帯は「人」対「車両」の事故で歩行者が死亡するケースが多いという。その中でも多いのが、車の右から歩行者が横断して事故にあう割合だ。「明るい午後6時台」では年齢に関係なく約40~50%の事故が「右から横断」だったが、「夕暮れの午後6時台」「暗い午後6時台」になると、年齢が上がるほどその割合が高くなる傾向があるという。ではなぜ「右から横断」の事故率が上がるのか。分析センターによると、夕暮れ時には横断しようとする歩行者が車との距離を誤認するケースが多くなると考えられるという。
歩行者が道路を横断しようとする時、近づいてくる車までの距離や速度、自分の歩く速さなどを考えて「渡る」か「待つ」かの判断をする。その時、歩行者の右から車が近づいてくるときに比べて、左から近づいてくるときの方が、歩行者が横断し終わるまでの距離が長い。歩行者と車との距離も遠く、判断を誤まりがちなのだという。さらに、高齢になるほど歩く速度が遅くなっていることを自覚していなかったり、暗くなるほど車との距離や車の速度がつかみにくくなったりして、正しい判断がしにくくなっている可能性がある。
人身交通事故は車や歩行者が行き交う交差点で起こりがちなイメージがあるが、交差点以外の「単路」での事故の方が、実は少しだけ多い。2019年、20年を合わせると全体の半数ほどの約34万件が単路での事故だった。
単路での事故件数を押し上げているのが、追突事故の多さだ。すべての人身事故のうち、どちらの年も「出合い頭」や「右・左折時の衝突」などに比べて、「追突」の割合が最も多かった。19年は12.6万件(33%)、20年は9.6万件(31%)。運転席に座る時は、交差点以外でもよそ見などをしないように気を引き締める必要がある。
プレミアムA No.18みえない交差点