和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2024年12月14日(土)

働く女性の痒いところに手が届く? 「カセット服」が昨年比120%の伸長 スーツやセットアップの進化版として需要増

同色・同素材のカセット服
同色・同素材のカセット服
 コロナ禍、リモートワークの普及によってカジュアル化の一途をたっていたビジネスシーンの服選びに今、大きな変化が訪れている。出社の増加と並行し、同色・同素材のシリーズ服で、セットアップやスーツの進化版とも言われる「カセット服」がアパレル各社から続々登場している。“タイパ”と“コスパ”を叶える「働く女性の強い味方」としてトレンドとなっているのだ。事務服や制服を廃止する企業が増え、オフィスでの女性の服装の自由化が進む中、カセット服は令和のビジネスワードローブの定番となるのか?

【写真】王道のセットアップから休日に使えるカジュアルコーデまで、カセット服コーディネート例

■「仕事にも休日にも着回しできる」、タイパとコスパにマッチするスタイル

 カセット服の“カセット”とは、店舗の陳列を考える際、同じテイストや色、素材などでくくる陳列棚を指すアパレル用語。その言葉から派生した「カセット服」は、同色・同素材の服で、ジャケットにパンツ、ブラウス、ワンピースなど、数あるアイテムの中から好みに合わせて“カセット買い”できるのが特徴だ。

 その魅力は、誰でも簡単にオシャレなコーディネートを叶えられ、組み合わせを変えれば、ビジネスシーンでもプライベートでも活用できること。「忙しい朝、服を選ぶ時間を短縮できる」「仕事にも休日にも着回しできる」と“タイパ”や“コスパ”優先の世の中にマッチする服装として、働く女性を中心に、注目を集めている。

 約4年前に販売をスタートし、今年、売り上げが昨年比120%以上も伸長したという青山商事の企画担当・高井さやさんは、着手のきっかけをこう振り返る。

「スーツ専門店の弊社では、男性に比べて女性はスーツを着る機会がそれほど多くないということから、スーツより、もう少しソフトに着こなせるアイテムを作れないか検討してきました。そして、提案したのが、自宅の洗濯機で洗え、中に着るブラウスも同素材・同色で揃えたカセット服でした」(商品部 レディス商品企画グループ マネジャー 高井さやさん/高=はしごだか、以下同)

■セットアップでは実現できないコーディネートの“幅を広げる”役割に

 しかし、当初のユーザーの反応はというと、決して芳しいものではなかったという。

「やはりジャケットとパンツを作れるくらいのしっかりした素材でブラウスを作るとなると、値段もそれなりに上がってしまいます。弊社が扱っているトップスは3000円から5000円台が中心ですが、それよりも高くなってしまうために、最初は気軽には手にとっていただけない状態でした」

 まだカセット服の概念が世に浸透していないことや、同店を訪れるのはスーツを買う目的の人がほとんどだったこともスタート時の不調には影響していた様子。その反応が変わったのは、コロナ禍が明け、出社回帰の流れが強まる中、「働く女性の強い味方のファッション」として、カセット服が雑誌やSNSで紹介されるようになったことだった。

「“タイパ”を重視する消費スタイルがトレンドワードとなっている中、1分1秒が大事な朝、コーディネートを考えるのがストレスというお客様の声が多いことは販売員からよく聞いていました。カセット服は、スーツのように上下合わせて着られることはもちろん、単品でも着られる汎用性の高さが魅力です。働き方が多様化し、仕事服のコーディネートの選択肢が増えてきている中、カセット服ならその日の予定に合わせて、時短で間違いないコーディネートを手軽に完成させられる。その点が広く紹介され、働く女性のニーズにマッチしたのだと思います」

 本音を言えば、深く考えずに“時短で服を決められること”、“これを着ていれば、おしゃれに見えること”が忙しい朝には何よりも大切。様々な着回しを提案するため、ジャケットやパンツの王道セットアップ以外にも、ジレ、ワンピースなど、あらゆるタイプの同色・同素材の服を用意した。「セットアップだと、どうしても上下一緒に着る感覚がありました。でも、同色同素材の服がジャケット、パンツ2種、ジレ、ワンピースで計5パターンあれば、痒いところに手が届く感覚で、様々なシチュエーションのコーディネートに対応できると考えました」。

■スーツ購入時の約7割がパンツを選ぶ「機能性の面で需要に対応していく」

 近年の女性の仕事服トレンドにおいて、特筆すべきは「パンツの需要が増えていること」。ビジネス・リクルートともに、パンツの需要が高まり、同社でもスーツ購入時の約7割がパンツを選ぶ傾向になっているという。「動きやすさや防寒対策に加え、テーパード、ワイド、ストレートなどデザインのバリエーションがスカートより多いことも人気の理由にあげられます」。

 スカートはパンツと比べて“動きにくさ”が伴う。「スカートの場合、基本的には膝まで隠れる丈でご提案となりますので、実現できるデザインの幅も狭まってしまいます。だからこそ『パンツのほうがラク』というのが世の働く女性の本音になってきている。いかに、この需要に対応していくか。仕事服を作り続けてきた当社だからこそ、機能性の面でできることがあると考えています」。

 使う素材はストレッチ素材で、自宅で洗えること。シワにならないなどの機能は標準装備として考える。加えて、裏地の有無で季節感の調整ができるよう開発段階から対応しているという。

 事務服や制服を廃止する企業が増え、女性の仕事着の自由度が増したからこそ、“おしゃれ”と“機能性”の両立は今後も尽きないテーマとなるだろう。

 “コスパ”と“タイパ”を叶え、その日の予定や気分に合わせて自由な着回しを楽しめるカセット服。高井さんは、「パフォーマンスが高いだけに、引き続き、需要は高まっていくのではないか」と予想する。

 同じ素材で上下を揃えるセットアップスタイルは、19世紀のイギリスのスーツスタイルにルーツをもつといわれている。その後、カジュアルファッションやストリートファッションにも取り入れられ、定番の人気アイテムとなっているが、スーツ同様、トップスとボトムスの2点のみが基本。それに加え、ブラウス、ジレ、ワンピースなど、アイテムが豊富に揃うカセット服はまさにスーツやセットアップの進化版。女性が活躍できる場の広がりとともに、働く女性のクローゼットの中身も進化を遂げていくのかもしれない。

取材・文/河上いつ子

ディッキーズの定番”874”がビジネスパンツとして登場、「仕事で愛用できる一着となっています」
パンツスーツを喪服としてもOK? 葬式・法事の前に抑えておきたいブラックフォーマルの基礎知識
橋本環奈、千鳥と”親子役”で初共演 「洋服の青山」の新CMでスーツを華麗に着こなす
仕事着がカジュアル化する一方で業界が“オーダースーツ”に熱視線、「印象を含めて作り込む」新たな戦略で活路
スーツをめくれば、裏地に“推し”がチラリ…『ラブライブ!』コラボで新規ユーザーを獲得、進化するオーダースーツ
提供:oricon news