【11月4日 東方新報】現在の中国経済は、不動産リスク、地方政府の債務リスクのほか、金融リスクもまた無視できない重要な問題となっている。システム的な金融リスクをどう防止するかは、今後一定期間、金融業務の重要な任務となった。

 危険をはらんだ金融情勢から見て、政府も企業も一般個人にも隠れた金融リスクが存在する。不動産や地方政府の投資プラットフォームの債務問題は、金融機関の資産の価値に直接影響を及ぼし、またシャドーバンクや中小銀行のリスクなど全て重点的に注目すべき範囲である。

 中小銀行のリスクは民衆レベルの財産の安全に関わるだけでなく、金融体系全体の安全に対してさらに大きな影響を与えるからだ。

 資金の不正流用問題で経営破綻を起こした「包商銀行(Baoshang Bank)、不正融資や不良債権膨張で経営破綻した錦州銀行(Bank of Jinzhou)、違法な資金集めや融資などで経営破綻し突然現金引出しと送金を停止し預金者による大きな抗議活動が発生した地元銀行4行による「河南村鎮銀行事件」は、いずれも社会の大きな注目を浴びた。

 中国の中小銀行とは、工商銀行など大手6行·および全国規模の株式会社組織の商業銀行以外の、地方都市商業銀行、農村の信用組合、農村商業銀行、村鎮銀行などの末端レベルの金融機関だ。中小銀行は中国の銀行業界の9割以上を占める。

 これら中小銀行は国内各地の現地経済に密着し、現地事情に詳しく、地方経済建設、零細企業、低所得者層、老齢者層など向けの「普恵金融」「三農(農業、農村、農民)」向けの金融サービスなどで重要な役割を果たしている。

「包商銀行」や「河南村鎮銀行事件」の取り付け騒ぎなど、2019年を境に多くの地方銀行、小規模銀行が内包していたリスクが暴露され始めた。

「預金払い出し停止トラブル」の発生は、銀行の経営規範の欠如やインターネットプラットフォームによる地域をまたぐ資金集めによるリスクの拡大が原因だった。また「村鎮銀行」と現地の監督管理部署双方の腐敗と不正金融の事例も多かった。

 同じく注目すべきは、地方政府の一部が、歪んだ成績追及意識にとらわれ、現地の銀行業務に不適切な干渉を行い、潜在的な負債の増大の原因となったことだ。

 不動産や地方融資プラットフォームと長期にわたって深く結びついた中小銀行は、多くの潜在的債務を抱えており、この構造や機能をうまく転換することができず、リスクを蓄積し続けている。

 総じて中小銀行は、国有銀行や株式会社組織の大銀行に比べ、収益力が弱く、リスク耐性とダメージ修復能力がぜい弱で、しかもハイリスクな組織が多い。中国人民銀行が公表した「22年第4四半期金融機構評価結果」によれば、リスクが高いと評価された銀行は346行で、そのうち地方都市商業銀行16行、農村合作機構(農村商業銀行、農村合作銀行、農村信用社)202行、村鎮銀行112行で、全体の95.4パーセントを占めた。

 中小銀行の資産の質にも問題があり、地方都市商業銀行の不良貸付率は1.90パーセント、農村商業銀行は3.25パーセントで、大手商業銀行の平均レベル1.62パーセントよりも高い。

 中小銀行のリスクは「マクロ的リスク」と「ミクロ的リスク」に分けることができる。

「マクロ的リスク」は、国内においては経済のギアチェンジ(投資と消費の低調、政策金利引き下げ、経済構造転換期における不動産リスク)の加速、対外的には全世界的な経済減速と米国の対中圧力という経済環境の圧力に対応しなければならないことだ。

「ミクロ的リスク」には「四つのぜい弱」があり、リスク増大の原因になっている。

 一つ目は、中小銀行の経営リスクの分散の能力が弱いことだ。中小銀行の役割は地域経済へのサービス提供であり、また「商業銀行法改正案」でも中小銀行は地域を越える進出や業務の総合化が厳格に制限されている。それゆえ、中小銀行の業務範囲は必然的に、地域、業種、顧客が集中化する。経営リスクの分散が容易ではない。

 これは中西部と東北地区の中小銀行の経営が困難で、上海市を中心とする長江デルタ地域の中小銀行は業績が安定していることによく表れている。

 二つ目は、「造血能力(業績拡充能力)」の弱さだ。最近国有銀行や大型商業銀行の中小銀行の営業領域への進出が目立つ。例えば大手行の零細企業向け優遇ローンの20年年末実績と23年6月末とを比較すると、31.7パーセントから39.1パーセントに増加している。その反面、地方都市商業銀行の実績は14.5パーセントから13.5パーセントに、農村金融機構では33.9パーセントから28.7パーセントに、それぞれ減少している。

 このほか、中小銀行の「規模のメリット」がぜい弱なことも問題だ。特に22年以降の資産拡張能力が大型商業銀行に比べ見劣りが目立つ。また大型商業銀行がデジタル化やプラットフォーム型経営を通じて低コスト資金を大量に集めているのに対し、中小銀行ではこれは簡単ではない。
 
 さらに、非上場の中小銀行が資本を補充しようとするには、劣後債などの「二級資本債」や地方政府の公益的事業のための「専用債券」などの手段に限られる。しかし、この分野にもまた大手行の進出が見られ、中小銀行の債券発行コスト上昇につながっている。

 三つ目は、リスク管理能力が弱いこと。リスク管理に関わる人材、技術、手段が不足し、リスク予知や判別能力が劣っている。また一部の中小銀行は利益追求のため、本来の預貸業務から離れて業務を拡大し、銀行間の短期負債に依存した投資業務などに手を出し、流動性リスクを高めている。

 四つ目は、経営規範順守の能力が劣ること。「三会一層」(株主総会、取締役会、監査役会と高級管理職層)の経営管理は形骸化し、株主構成は不均衡で、株主の監督不行き届きで、問題が噴出している。

 では、中小銀行のリスクをどのように解消したら良いのだろうか。

 昨年、中国人民銀行(People's Bank of China、中央銀行)が「地方金融監督管理条例」を公布、中央機関の金融監督をベースとした中小銀行リスク解消のための政策を明らかにした。

 その原則は、市場の自主的な力と行政的な力とのバランスをとった分類的な措置だ。

 具体的には、「最終貸付人措置(流動的な支援)」「預金保証措置」「行政による経営管理措置」の3種類の行政措置と、「自己救済措置」「同業相互救済措置」の2種類の市場の自主的措置に分けられる。

 流動的な債権債務リスクの発生時にまだ自己対処能力が見込める銀行には、出来る限り自己解決を求め、行政は適時適量の支援を行う。回復が見込めず財務状況が悪化し続ける銀行は市場から排除し、市場影響が大きい銀行に対しては行政介入による解決を図る。

 このほか、合併や再編の推進にも力を入れる。合併や再編に際してはその目的を明確にし、リスクの解決が目的の場合は不良資産の処理に重点を置く。また業容発展が目的の場合は、新しい銀行のための特色ある発展戦略を策定する。

 中央銀行の政策は「扶優限劣(優良行を扶助し、劣悪行に制限を加える)」の原則で、優良な中小銀行の業績拡充能力と抗リスク能力を高めることだ。中小銀行の合理的な収益幅と利息レベルを保持した上で、彼らが地方経済、中小企業、現地住民へのサービス戦略、特色化と差別化の発展戦略を鼓舞しなければならない。

 中国経済の最大の特徴は「多重的な二元構造」である。都市と農村、沿海と内陸、北方と南方などがそれだ。そしてそれは、異なる金融ニーズに対する異なる金融体系を必要とし、中小銀行の価値と発展空間は長期に存在するということを意味する。

 中小銀行が現場や顧客と密接に連絡をとるオフラインの非標準的(個別的)なサービスモデルの推進が求められている。

 また中小銀行が資本を補充するためのチャネルの拡充も必要だ。それには持続可能な資本補充のメカニズムの構築がカギとなる。

 さらに、中小銀行の経営規範の順守能力を強化し、株主構造の最適化を図らなければならない。中小銀行の株主の「加重責任制」の推進を模索する必要がある。これは銀行の主要な株主に対して、出資限度内で有限責任を負う原則を超えて、出資限度以上の「非有限責任」を要求するということだ。

 優良な中小銀行に対しては、さらに多くの政策支援や監督管理上の優遇措置を与えることも検討に値する。差別化した監督管理と科学的で多元的な評価体系の確立が必要だ。

 差別化された特色ある中小銀行に対しては、革新的な金融新商品や資格申請に優先待遇を与え、また預金準備率や中央銀行への貸出申請などの際の優遇も検討の必要がある。(c)東方新報/AFPBB News