【1月10日 AFP】インドで独立系映画監督が搾取・差別される側に置かれた低カースト層を作品に描き、注目されている。

 中心となっているのは南部タミル語の映画界「コリウッド(Kollywood)」の監督で、監督自身、カーストの最下層出身者もいる。

 コリウッドの名は、タミルナド(Tamil Nadu)州チェンナイ(Chennai)にある、映画制作会社が集まるコーダンバッカム(Kodambakkam)地区に由来する。

 広大なインドでは、公用語のヒンディー語のほか、21の言語が憲法で公認されている。映画ではヒンディー語の「ボリウッド(Bollywood)」が有名だが、コリウッドなど少数言語の映画界は目立たない存在だ。

 そんな中、映画館での上映ではなく、インターネット通販サイト、アマゾン(Amazon)で配信された、タミル語の法廷劇『ジャイビーム(Jai Bhim)』が、映画データベースIMDbで10点中9.5点を獲得するなど、高い評価を受けている。

『ジャイビーム』は、窃盗容疑で拘束中に拷問を受け死亡した部族民男性の妻の訴えを受け、正義を求め闘う弁護士の物語で、実話に基づいている。司法による暴力を余さず描いていると称賛されている。弁護士役を演じるのはタミル語映画界のトップスター、スーリヤ(Suriya)だ。

 T・J・ニャナベル(T.J. Gnanavel)監督(42)はAFPに対し「私たちは声を上げたい。社会の沈黙は警察の暴力よりも残酷だ」と述べた。

 主人公のモデルで、後に裁判官になったK・チャンドル(K. Chandru)氏(70)は、作品を見た若者から、取り上げられたような部族民が存在し、差別に直面しているとは知らなかったと告げられたと語った。

 タミルナド州のM・K・スターリン(M.K. Stalin)首相は、作品を見て気が重くなったとし、部族民が福祉や飲料水、電気などを利用できるよう支援すると表明した。

 コリウッドでは、『ジャイビーム』以外にも、低カースト層に焦点を合わせた作品が増えている。

『小石(Pebbles、原題Koozhangal)』は、アルコール依存症の父親と息子を通じて貧困と家父長制度の問題を描いている。今年の米アカデミー賞(Academy Awards)「国際長編映画賞」に、インド代表作品として出品された。

■「覚醒の始まり」

 インドには、カースト制度最下層のダリット(Dalit)がおよそ2億人、社会の周縁に位置付けられる部族民が1億人以上いる。

 しかし、こうした人たちの人生が映画で描かれることはほとんどない。

 ニーラジ・ガイワン(Neeraj Ghaywan)監督は、ボリウッドでは、低カーストは高カーストによる救済を必要とする抑圧された人々として描かれることが多く、似たような役柄になりがちだと指摘する。

 ガイワン氏の初監督作品『マサーン(Masaan)』は、2015年のカンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)で二つの賞を受賞した。

 映画史を専門とするS・セオドア・バスカラン(S. Theodore Baskaran)氏は、『ジャイビーム』のほか、ダリット出身の映画監督による作品が商業的に成功したことは、インド映画の「覚醒の始まり」だと述べた。(c)AFP/Glenda Kwek with Udita Jhunjhunwala