花王がヘアケア事業の変革を進めている。4月に発売した「melt(メルト)」を皮切りに、11月には「THE ANSWER(ジアンサー)」を発売するなど高価格帯ブランドを相次いで投入。また既存のボリュームゾーンであるマス向けブランド「Essential(エッセンシャル)」などもそれぞれリニューアルした。
「melt」の9月までの実績は計画比の約2.7倍と好調である上に、マスブランド(1400円未満)に属する「Essential」もブランド計で前年比1.2倍、10~20代でトップシェアを獲得。「melt」と「Essential」の好調もあり、花王のヘアケアのマーケットシェアは直近半期で9年ぶりに前年プラスに転じた。
ブランド刷新にあたっては、「機能」軸による各ブランドのポジショニングをやめ、消費者の「感情」を軸に区別するようにした。プロモーションにおいても各ブランドの「感情」に合うクリエイティブを採用。そこで活躍したのがインパクトある縦型動画が魅力のTikTokだ。
一連のリニューアルの取り組みと手応え、プロモーション施策とTikTokの活用について、花王ブランドマネジャーの野原聡氏と、TikTok for Business Japanの川村美乃氏に聞いた。
「感情」を軸に置きヘアケア事業を刷新
野原:花王のヘアケア事業は現在、大きな変革の途上にあります。まず、高価格帯のハイプレミアム市場に本格参入するため、今年4月に新ブランド「melt(メルト)」を発売。続いて、11月に「THE ANSWER(ジアンサー)」を発売し、来年にはさらなる新ブランドの発売も予定しています。加えて、マス向けの既存ブランドである「Essential(エッセンシャル)」「Segreta(セグレタ)」もリブランディングを行い、来年には「merit(メリット)」も刷新予定。この6ブランドに、ハイプレミアムの「ines(イネス)」を加えたのが、当社のヘアケアの新しいラインナップです。
4月の発売後、「melt」は9月までの出荷本数が計画比2.7倍に達し、リニューアルした「Essential」も前年比1.2倍を記録するなど、大きな手応えが得られています。
これまで当社はマス層に向けた商品をメインに展開してきたため、単価が1400円を超える「ハイプレミアム」が占める割合はたったの1%でした。しかし、ヘアケア市場の中ではハイプレミアムが伸長しており、今年は10%増で1300億円を超える規模になると予想されています。この流れを受けて、花王も新ブランドの投入でハイプレミアムを拡大し、ポートフォリオの多様化を目指しています。
花王の野原聡氏。ヘアケア商品のブランドマネジャーを務める
各ブランドのポジショニングを考える上で軸としたのは、感情です。花王はもともと、商品開発力を強みとしてきた「モノづくり」の会社です。そのためブランドを機能軸で分類する傾向にあったのですが、その慣例を大きく転換しました。なぜなら、ヘアケア商品においては生活者の機能ニーズにそこまで大きな差がないことが調査で分かったからです。
一方で特にハイプレミアムの購買層には、その商品を使うことによる高揚感や安らぎなど、自分の気持ちをどう動かしてくれるかにニーズがあることが分かりました。そのため、生活者に選ばれシェアを伸ばすには、デザインや香りなどの感性に訴える部分がうまく受け入れられることが重要であると考え、感情にゴールを置いた上で、それに必要な機能をデザインしていくことにしたのです。
感情を軸にプロモーションしていくときに、生活の中に溶け込んでいるSNSやデジタルプラットフォームの活用でどれだけ成功できるかも重要だと考えていました。そこで、大いに活用しているのがTikTokです。
TikTokは感情に訴えるプラットフォーム
川村:TikTok上でビューティーは特に人気のコンテンツジャンルのひとつで、日本にローンチした当初から今もずっと成長し続けています。ありがたいことに企業様のご出稿も増えていて、様々な商品のプロモーションに関わる機会がありますが、ヘアケアは競合も多く、機能だけでコミュニケーションを差別化することが難しい段階に入っていると感じていました。
そのため、野原さんから感情軸のブランド開発やマーケティングのお話を伺った時はとても腹落ちしたと同時に、TikTokは直感的に人の心を動かすことが得意なプラットフォームなので、きっと大きくお役に立てると思いました。
TikTok for Business Japanの川村美乃氏。ビューティー/ラグジュアリー業種のインダストリーマネージャー
野原:ヘアケアブランドの体験をつくるポイントは、商品体系やパッケージ、店頭、そしてUGC (ユーザー生成コンテンツ)など商品の興味に関わるコミュニケーションとほぼ決まっています。特に若い人とのタッチポイントでは、SNSやデジタルプラットフォームが非常に重要な役割を果たします。販売店の関心は従来であればテレビの出稿量でしたが、今はデジタルでどのように仕掛けるのかのほうが商談には有効です。
川村:デジタルの中でも、どのプラットフォームを使うかなど具体的な戦術はどのように決めていきますか?
野原:認知から購買までのどのファネルにどのプラットフォームを使うのか、また、そのプラットフォームとビューティーとの親和性はどうかといったことを考えていきます。その中でTikTokは、商品の認知から購入意向までフルファネルで使いやすい、珍しいプラットフォームです。
加えて、TikTokはユーザーが受動的にコンテンツを視聴する傾向にあるので、目に飛び込んできた情報を受け入れやすい状態にあるという点も、フルファネルで使いやすいポイントだと考えています。エンタメ感もあるので、テレビと似たイメージもありますね。
没入感ある視聴環境とコミュニティが態度変容を促す
川村:TopView(起動画面広告)を含めてTikTokで配信いただきましたね。TikTokの起動画面広告はフルスクリーン・デフォルトサウンドオンで始まるのですが、クリエイティブが本当にきれいに見えます。特に開いた瞬間からサウンドが鳴るプラットフォームは珍しく、没入感ある視聴環境で一気にブランドの世界観に引き込むことができるのはTikTokの強みだと考えています。
TopView(起動画面広告)のクリエイティブ。左がEssential、右がmelt
野原:そうですね。TopViewはプロモーションを一気に加速させる上で非常に重要だと考えています。今では、TopViewを軸にメディアプラン全体を設計するほどです。また、生炭酸シャンプーを謳っている「melt」は、炭酸の弾ける音も大事にして体験をつくりたいと思っていて、動画クリエイティブでも音にこだわって制作しました。TikTokは音がよく聞かれるプラットフォームなので、それが伝えられるのもいいなと思っていました。KPIの達成度合いも良かったですね。
一方でTikTokクリエイターやインフルエンサーの力も欠かせません。発売やリニューアル後にすぐに成果が出たのは、商品開発時から彼らや彼女らを巻き込んでいったこともあったと思います。
TikTokでは私たちが制作したブランド広告を走らせてから、TikTokクリエイターとタイアップした動画でもう一度山をつくることによって、ブランドイメージと商品の中身の両方を訴求することができました。
Essentialのフルファネル施策の例。meltにおいても同様のスキームを採用した
川村:スポットで施策を行うだけでなく、公式アカウントをハブとして「Always-on(*1)」のコミュニケーションを展開いただいている点も素晴らしいと思います。TikTokは単に動画を見る場所ではなくコミュニティなので、そのコミュニティとの距離を縮めておくとスポット施策の効果も高まります。「Essential」に関するTikTokのUGC投稿数は、3年前と比べて10倍以上に増えています。
※1)Always-on:年間を通して定常的にTikTokを活用する戦略
野原:TikTokのコミュニティの規模も大きくなっていると思います。「Essential」のリブランディング施策の効果検証(Kantar Japan調べ) では、TikTokはデジタルプラットフォームで最も大きくターゲット(18~34歳女性)へのリーチを獲得できており、テレビとのインクリメンタルリーチ(*2) も最も大きく取れていることが分かりました。
※2)インクリメンタルリーチ:テレビによるリーチに対して追加で得られたリーチ
川村:定性面でも、TikTokユーザーの「Essential」への認識がどんどんポジティブに変わっているのを感じています。TikTok上で「Essential使ってる!」「Essentialおすすめ!」といった発話が増えているのは、まさしく花王様の活動の賜物です。また、新発売だった「melt」についても早くもコミュニティの中でポジティブな評判が形成されていて、好循環が生まれているように思います。
野原:早い段階で川村さんに打ち合わせやクリエイティブ制作に入っていただき、アドバイスをもらうというのもポイントです。実際に開発過程からスピード感を大事にしており、従来の「リレー型」から各部門から人材を集め「スクラム型」のチーム体制を構築しています。
ヘアケアは参入が増えていて、このマーケットで成功するのは簡単なことではありません。中身と世界観がしっかりしている商品が成長していくと信じているので、大きな変化をいとわずに進めていきたいですね。
2025年にはハイプレミアム第3弾を発売しますし、マスブランド「merit(メリット)」のリブランディングも控えています。引き続き感情を起点としながら、花王の資産であるヘアケア研究100年の知見を活かして、事業の変革を続けていきます。
川村:TikTokのマーケティング活用も深まってきており、単一商品のTikTok売れを目指すだけでなく、事業全体を成長させるパートナーとしてお役に立てるようになってきた手応えを感じています。
短期のみならず中長期でビジネスインパクトを生むために、これからも花王様と一緒にコミュニケーションの研究を続けていきたいです。
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