(12)「正」 城に向かって進軍する
「ただしい」という意味の「正」という漢字、足に関係ある文字だと思えますか? でも「止」が「足」を意味するもともとの字であることを知って、もう一度、この「正」を見てください。
「一」と「止」が合わさった字形ですね。さらに古代文字を見てほしいのですが、これは「一」と「止」ではなく、「□」と「止」を合体させたものになっています。
「□」は耳口の「口」でもなく、また神への祈(いの)りの祝詞(のりと)をいれる器「サイ」でもありません。この古代文字の「□」は城壁(じょうへき)で囲われた都市を意味しています。「止」は足ですから、城(□)に向かって軍隊が進軍する意味の文字が「正」です。
この「正」がもっぱら「ただしい」の意味に使われだしたので、さらに「彳(ぎょうにんべん)」が加えられて「征(せい)」という字が作られました。「彳」は十字路の左半分を表す字形で道を行くことです。今では「征服」など、敵を倒す意味の字には「征」が使われています。さらに「征」には征服した土地の民から「税金を取り立てる」という意味もあります。
また「政」という字も「止」の関連文字です。「正」は進軍して敵を征服すること。旁(つくり)の「攵(ぼく)」は元の形は「攴(ぼく)」です。「攴」は「ト」と「又(また)」を合わせた字形。「ト」は木の枝のこと。「又」は繰(く)り返し説明していますが、手のことです。ですから「攴」は手で木の枝を持って、相手をたたくことです。
つまり「政」とは征服した土地の人たちを木の枝でたたいて、税金を取り立てることが第一の意味でした。それをつかさどる役目の長官を「正」といいました。今でも警察官や検察官の長を「警視正」「検事正」というのは、そのなごりです。
もう1つ、進軍する意味の「止」の関連文字を紹介(しょうかい)しましょう。それは「武」です。「武」は「戈(ほこ)」と「止」を合わせた字形。戈を持って進軍することです。(共同通信編集委員 小山鉄郎)