PHOTO ARCHIVES
142 中国(広東省)
ここに紹介する写真は、2012年1月に広東省を一週間ほど旅行した際に撮影したものである。
中国南部に位置し、1990年代まで外国領だった香港とマカオに接する広東省は、深圳市などが早くから経済特区となることで、鄧小平による中国の改革開放政策の先端を走った地域(珠江デルタ)である。特に、小さな農村から一息に大都市へと成長した深圳は、中国のなかでもっとも中国らしくない都市だと言えるだろう。街の中心軸に位置する蓮花山公園には鄧小平の彫像が立ち、円環状の都市構造のど真ん中に毛沢東の肖像画や石像が配される北京や成都(四川省)とは対照的である。
もともと広東省には、穏やかな気候的条件と中央政府からの距離的条件を背景に生まれた、優れた近現代の建築物が多く残されている。嶺南派と呼ばれる林克明や夏昌世らの建築家が、その中心的役割を担ってきたが、現在の広東省では、磯崎新の《深圳文化中心》やOMAの《深圳証券取引所》、ザハ・ハディドの《広州オペラハウス》など、中国国外の建築事務所の手になる大規模プロジェクトが際立つ。こうした開放的な土壌のなかで、現在注目すべき国内の建築家は都市実践(URBANUS)だろう。清華大学建築系出身の劉暁都らがアメリカで1999年に設立した都市実践は、深圳という高速に成長する都市に根付き、オフィスビルや都市公園を数多く手がけている。また、広州に建設された土楼公社は、中国のヴァナキュラー建築である「土楼」の閉鎖・堅牢性を、流動化する都市社会への抵抗の建築的タイプとして新たにとらえ直す興味深いプロジェクトである。農村に始まった新中国の急速な都市化状況を反映する、今日の中国建築家の問題意識を見て取ることができるだろう。
→ 「公開の原則と著作権について」
pic 佐藤総合計画+北京市建築設計研究院《深圳湾体育センター》
pic 華南理工大学建築設計研究院《広州国際バトミントントレーニングセンター》
pic 華南理工大学建築設計研究院《華南理工大学逸夫科学館》
前の記事:143 中国(浙江省)
次の記事:141 香港
Photo Archives|五十嵐太郎