1970年代以降日本は他の先進諸国同様、グローバル化の進行に合わせてさまざまな政策において小さな政府を志向してきました。新自由主義の常態化は、建築家の職能も市場に解放し、そして都市が縮小・減退し、空間、建築、物質の余剰が増加していくと考えられている近年において、改めて建築家の職能が問われているでしょう。 そうしたなかで、前時代的な大文字のアーキテクトでもなく、大きな運動や主義としてまとまるわけでもない、漸進的に社会改良を志向する新たな建築家像が見えつつあります。
本特集では、そうした建築家の多種多様な実践(=社会実装)を「漸進主義(グラデュアリズム)」と総称することで、一帯の運動として連帯する可能性を考えたいと思います。そして建築的実践にとどまらず、社会改良的なデザイン実践の世界的な立ち上がりを見出しながら、ゼロ年代、東日本大震災を経たポスト平成の時代における建築家のアイデンティティを模索します。
中島直人氏(都市計画研究者、東京大学工学部都市工学科准教授)、秋吉浩気氏(メタアーキテクト、VUILD)、中村健太郎氏(建築理論家、モクチン企画)、谷繁玲央氏(東京大学大学院)による座談、谷繁玲央氏による論考、アルべナ・ヤネヴァ氏(建築理論家)の論考(翻訳)を掲載しています。