8月に配信された『LIGHTHOUSE』(Netflix)がネット上で話題となっている。オードリー・若林正恭と星野源による「トーク×音楽」を軸とした同番組は、過去の音楽トークバラエティーと何が違い、何が特別なのか。今の時代と非常にマッチした『LIGHTHOUSE』の魅力について考える。(ライター・鈴木旭)
今年8月22日からNetflixで配信されている『LIGHTHOUSE』。これが期待以上に面白かった。
※以下、番組内容に触れています。
同番組は、シンガーソングライター・星野源とオードリー・若林正恭が、2022年10月から2023年5月まで毎回収録場所を変えて顔を合わせ、各々の直近の「悩み」を持ち寄り対談するというもの。
最後は、タイトルにちなんで2人が灯台(LIGHTHOUSE)を訪れ、別々の方向へと一歩踏み出すシーンがあり、そうした構成を含めて秀逸なコンセプトだ。加えて、その対談の中で感じた思いを、毎回星野が歌としてアウトプットしていく。
エピソード4では、2021年に『星野源のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)内で披露された「Pop Virus feat. MC. waka」と同様、若林がラップするコラボ曲も見られ、単なる“企画モノ”に収まらない落とし込みとなっている。
悩みに関するトークは多岐に渡ったが、とくにエピソード3で星野が「(筆者注:今の若林を見ていると)一言で言うと、飽きたんじゃないかなと思って」と口にしてからの展開が印象的だった。
若林は、星野の言葉を受けて「今涙出そうなんですけど、(筆者注:『飽きた』って)誰にも言えなかった」と感慨深げに頷く。どうやら2019年に『オードリーのオールナイトニッポン 10周年全国ツアーin日本武道館』を終えたこともあり、「全部やった」感覚があったようだ。しかし、そんな若林の気持ちとは関係なく、レギュラー番組の収録はやってくる。
バラエティーの世界で責任ある立場となり、周りには信頼できるスタッフや家族もいて、若手時代にたどった茨道からすれば「今が幸せ」という状況も理解している。それだけに若林は、自分がワクワクしていない状況に違和感を抱けない、抱いてはいけないと感じていたようだ。
実は星野も、家族や手放せないスタッフがいる中で同じように悩んだ1年(2022年。収録は同年12月25日)だったらしく、この収録の少し前に自分自身の気持ちを整理できたと語っている。
「ドーパミンって興奮物質だと思ってたんですよ。でも、(筆者注:最近読んだ本によると)そうじゃなくて期待物質なんですって。だから、『この後どうなるんだろう』で出るんですよ。その量に慣れると、もっと欲しくなる。もっと期待感のある場所じゃないといけなくなる。それは期待物質であって、それは未来への物質であると。
そうじゃなくて“今の幸せ”の物質っていうのは、セロトニンだったりとかそういうものがあって。そういうところをバランス良く充実させていったほうがいいんじゃないかと。すごくそれでめちゃくちゃ楽になったんですよ。
それがはっきり分かれることによって、例えば今までずっと1人暮らししてきたけど、家族と過ごすことの嬉しさとか楽しさみたいなことに慣れてなかったけど、ちょっとずつ慣れてきてそれを楽しめるようになってきているから。そっちをもっと感じれるようにしていくと、そこ(筆者注:未来への期待)に依存しなくて済むようになる」
若林は、この収録後に来年2月に予定する『オードリーのオールナイトニッポン in 東京ドーム』の開催を決心したという。
今いる居場所をキープしながら、同時にワクワクする出来事に向かい始めた。つまり、星野との対談によって、まさに「飽きた」状態から抜け出したのだ。そのドキュメンタリー性も含め、かつてない特異な番組だと感じた。
これまでの音楽バラエティーでもっとも異質だった番組と言えば、1992年と1993年の正月に放送された特番『タモリの音楽ステーション』(テレビ朝日系)が思い浮かぶ。
司会のタモリ(1992年は山田邦子も司会を務めた)が各アーティストを相手にトークし、歌や楽器演奏を披露する、という大枠はいわば、今も続く『ミュージックステーション』だ。しかし、5時間の正月特番とあって、レアなタモリの楽器演奏や、ほろ酔いとなったタモリとアーティストの“極上のおふざけ”に胸躍らせたのを覚えている。
とくに、タモリと井上陽水、玉置浩二の3人によるトーク&即興のパフォーマンスは目を見張るものがあった。『音楽ステーション』は、タモリとプロのミュージシャンによる“高度な遊び”に凄みがあった点で特殊だったように思う。
また、2017年に放送された『スカパー! FM579』内のスペシャル番組『スズコウ★ナイト』(BSスカパー!2019年の第3弾まで放送されている)も味わい深いものがあった。
進行役は、音楽好きのピース・又吉直樹とシンガーソングライターの吉澤嘉代子。東京・蒲田にある居酒屋「スズコウ」を舞台とし、向井秀徳、前野健太、フジファブリック・山内総一郎を招いてトークや弾き語りを繰り広げる番組だ。
同業者でありながら、あまり接点のなかった者同士が又吉を通じて徐々に打ち解けていく。控えめな口調ながら、又吉がトークを回す姿がとても新鮮だった。
2020年、2022年の特番を経て、今年4月からレギュラー放送されている『まつもtoなかい』(フジテレビ系)も「トーク×音楽」をメインとする番組だ。
基本的には、意外なタレント同士がトークを繰り広げ、司会のダウンタウン・松本人志と中居正広がその間に入って現場を盛り上げる役割を果たす。後半では、毎回ではないものの別枠でミュージシャンが登場しパフォーマンスを披露する。この割合からも、トークに軸を寄せた番組という印象が強い。
振り返ってみると、これらの稀有な番組の存在はありつつも、かねてテレビの音楽トークバラエティーは「豪華なアーティストが多数登場する」「毎回ゲストが変わる」という新鮮さが強みだったように思う。
それに対して『LIGHTHOUSE』は、場所と悩みのディテールを変えて「ゆっくりと移り行く2人を深掘りする」というところに焦点を当てている。「トーク×音楽」を中心とした番組が何周も回った今、従来の“新鮮さ”を追い求めるような構成は、それ自体が新鮮さに欠けるとも言える。
『LIGHTHOUSE』の企画・演出・プロデュースを手掛けた佐久間宣行は、ドッキリやロケ企画の「やらせ」が叩かれるようになったタイミングでゲストと本音で語り合う『あちこちオードリー』(テレビ東京系)を立ち上げた。
アクシデントのように時代にフィットする作品が生まれることはあるが、彼の場合は世の潮流を察知する中でトップランナー2人をじっくりと掘り下げる企画に行きついたように思えてならない。
いずれにしろ、「トーク×音楽」を軸とするバラエティーで、『LIGHTHOUSE』ほどタレント個人の内面がエンタメとして結実した番組はほかにないのではないだろうか。