合同会社型DAOとは? ~法人格を持ったDAOのビジネスチャンスと有効な適用ケースは~
2024年10月、NEC本社ビルで「web3コミュニティ座談会」が行われた。これは、NECが主催する BluStellar Communitiesの1テーマであるweb3コミュニティの活動の一環として行われたもの。今回のテーマは「DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)」である。2024年4月22日の法改正により、法人格を持った合同会社型DAOの設立が可能となった。これを受け、企業によるDAO活用の可能性は大きく広がることになる。今、DAOはどのような形で実装され、合同会社型DAOの解禁はどのようなビジネスチャンスをもたらそうとしているのだろうか。
当日は野村ホールディングス株式会社、株式会社しずおかフィナンシャル・グループ、TOPPAN株式会社、株式会社Unyteの4社がコミュニティメンバーとして参加。日本DAO協会レップホルダー(Representative holder)を務めるUnyteの上泉雄暉CEOが講演をした後、コミュニティメンバーによる座談会が行われた。ここではその様子をレポートしたい。
新規事業の創出にDAOを活用するケースも増えている
座談会に先立ち、Unyteの上泉 雄暉氏が「合同会社型DAOとは? ~DAO法施行も踏まえた最新ユースケース~」と題して講演を行った。
「DAOとは、メンバーの投票によって意思決定が行われ、誰もが貢献できるオープンな組織のこと。メンバーの貢献量や内容はブロックチェーンに記録され、その貢献度に応じてトークンをリワードとして受け取ることができます。それがDAOという組織の形態だと我々は定義しています」と上泉氏は語る。
DAOを活用すると、どのような効果が得られるのか。上泉氏は大きく2つを挙げる。「1つはトークンによるインセンティブと引き換えに、メンバーに生産活動をしてもらえるため、組織運用のコストを大きく削減できること。もう1つはメンバーの活動がブロックチェーン上に刻まれていくことで、半永久的に一人ひとりの活動経歴を証明できることです」
こうしたメリットが着目され、多くの組織がDAOを取り入れ始めているという。「Unyteが支援した事例で言うと、最近多いのがNFT(Non-Fungible Token:代替できないトークンのこと)系で、NFTを発行するプロジェクトがファンコミュニティをDAOで運用したいというケースです。もう1つは地域創生系で、地域貢献の可視化とインセンティブ付与をDAOで行い、関係人口の拡大につなげたいというケースです。最近は企業内DAOの引き合いも多く、新規事業の立ち上げに当たってDAOを活用するケースも増えています。我々としては、ファンコミュニティや、 組織エンゲージメント向上が見込める領域への活用が最適と考えています」(上泉氏)
同社が支援した事例の1つに、「おさかなだお長崎」がある。これは、「長崎のうまいサカナの未来をつくる」を テーマとし、DAOによって長崎の魚に関するPRや課題解決を行うことを目指したもの。 2024年2月に結成され、メンバー数は100人超。活動に当たってはDAOのガバナンスの仕組みが取り入れられ、複数のDAO運用ツールを利用。自律分散的に14のプロジェクトが走り(2024年9月時点)、DAOメンバーが企画した長崎ツアーや、長崎の魚を使った料理教室、捨てられがちな魚の頭を使ったカレーの商品開発など、多彩な取り組みが行われている。
プロジェクト発足に当たっては、メンバーが長崎の漁業を取り巻く現状を知った上で、課題解決のためのソリューションを提案し、ツールで投票。認定されたプロジェクト計画はツール上に登録され、DAOによって運用される。メンバーが活動するたびにトークンが付与され、トークンと引き換えに様々なリワードが提供される。例えば、長崎の魚に因んだアイテムや体験(例:長崎の魚を出す都内の飲食店でヒレ酒やあら汁が飲める)、貢献を証明するNFTのリワード獲得などができるほか、DAOコミュニティで重要議案を決定する投票にも参加することができる。
4月の法改正で「合同会社DAO」の登記が可能に
続いて、上泉氏は、今年4月22日の法改正により合同会社として登記できるようになった「合同会社型DAO」について解説した。
「これまで、DAOが法人格を持つことは許されておらず、基本的には有志団体として運用されていました。ただし法人格がないと、事故が起きたときにメンバー全員が無限に賠償責任を負わなければならないという潜在的なリスクがあり、資金を集めて事業をやるところまでは踏み込みにくいのが実情でした。こうした課題を解決するために法改正が行われ、合同会社の形でDAOを登記できるようになったというのが現在の状況です。
今回の法改正で、(1)合同会社の社員権の NFT化と販売、(2)社員権の募集、(3)DAO型定款による合同会社の登記が可能になりました。通常の合同会社は出資した人が全員で会社を運営しますが、合同会社DAOでは、DAOの社員権NFTを買った人なら誰でも運営に参加できる。それが、合同会社型DAOの仕組みです」
コミュニティマネージャーがリターンをもらえる仕組み作りが重要
Unyte上泉氏の講演の後、参加したweb3コミュニティのメンバー(野村ホールディングス、しずおかフィナンシャル・グループ、TOPPAN)と、web3コミュニティでコミュニティマネージャーを務めるNEC関根 宏を加えての座談会が行われた。1つ目の議論のトピックは「コミュニティマネージャーの役割について」だ。DAOの運用にあたっては、コミュニティマネージャーの役割が重要となるが、負担が大きいのも事実だ。コミュニティをどのようにまとめれば、円滑かつ効率的に運営できるのだろうか。
Unyte:当社のご支援先の中には、コミュニティ活性施策の実施や意見のとりまとめなどのコミュニティマネジメント業務を、専門の会社に委託し運営を行われている事例もあります。「自律分散」といえど、初期はコストをかけてでもコミュニティの活性化を行う必要があるのが実情です。 一定の活動量が生まれた先に、コミュニティマネジメントの様な重要かつ負担の多い役割が、コミュニティ全体に分散され、運用コストが低減していきます。
コミュニティマネージャーの役割は“コミュニケーション機会の提供”です。そもそもコミュニティというのは熱量勝負の面があって、熱心に活動するメンバーがどれだけいるかが成否を握ります。そのため、コミュニティの活動に対する関心や共感を高めていくためには、イベントや交流会をセットし、メンバー同士のコミュニケーションを積極的に促す必要があるわけです。ですので、初期はそういった役割を担う存在としてコミュニティマネージャーは重要であり、誰かがコストをかけてそのポジションを全うする必要があると考えています。
参加メンバー:コミュニティのマネジメントは、やることが多く、かなり大変な仕事なので、負荷に応じてコミュニティマネージャーがリターンをもらえる仕組みを作らないと、DAO自体が広がっていかないような気がします。
Unyte:その通りだと思います。ただ、DAOを持続可能なものにしていくためにも、コミュニティマネージャーはお金ではなく、トークンなどでリワードをもらうべき、というのが当社の考えです。そもそも、DAOの活動を盛り上げるためには、それなりの熱量を持っている人がコミュニティマネージャーを担当するべきだと思います。とはいえ、その人に依存しすぎてもよくないので、コミュニティマネージャーの思いに共感して「一緒にやりたい」と思う人材を育て、その人たちにリワードが提供できるよう、コミュニティ全体として価値を生み出していかなければならない。その意味では、コミュニティとして生産活動をする仕組みがそもそも整っていないと、コミュニティを存続させることは難しいと思います。
福利厚生連携型の“DAO簡単お試しパッケージ”が欲しい
続いてのトピックは「会社組織でDAOを活用するときの最適解とは何か」である。伝統的な日本企業の場合、いきなり社外でDAOをやるというのは難易度が高いものの、社内向けに試行してみて感触がよければ、継続しようという話になることが多いという。企業で試行する段階でベストプラクティスと言えるケースはあるのだろうか。
Unyte:社内向けのDAO活用事例はいろいろあります。ただ、短期的な金銭的利益を狙ってDAOを導入するのは、必ずしも適切ではないように思います。どちらかといえば、「新しいアイデアを出し合って、中長期的に新しいビジネスを作っていこう。ただし、長い道のりになるから皆で少しずつ貢献し合い、貢献履歴を貯めておこう。そして事業が大きくなってきたときに、貢献履歴に応じてメンバーにトークンを配布しよう」といった形でDAOを活用していく方がよいと思います。その意味で、DAOは短期ではなく、中長期で価値を生むための活動に適しているのではないかと思います。
参加メンバー:そうですね。ただ、社員数が多い会社だと、なかなかプロジェクトを超えてコミュニケーションする機会がないので、「DAOによって組織を超えた横のコミュニケーションが生まれた」という事例があると導入しやすいのですが、何かないでしょうか。
Unyte:例えば、新規事業を創出するため、社内コミュニケーションにチャットなどを活用していた企業が、DAOを活用して、「価値ある情報を提供した人に、より多くのトークンを付与する」仕組みを構築した事例もあります。
もちろん新規事業についてディスカッションしても、実現までたどり着くケースはそう多くありません。しかし、検討過程における貢献を可視化しておくことで、メンバーのモチベーション向上が図れる、という点において、DAOの仕組みを採用する価値はあると考えています。
NEC:「まず社内でDAOをやって価値を見出す」という手法は相当ニーズがあると思います。ところで、「新規事業の検討過程での貢献度合いを見る」とおっしゃいましたが、具体的にはどのように測るのでしょうか。
Unyte:例えば、皆でアイデアを出し合い、投票して、一番よいアイデアを出した人にトークンを与えるといった方法もあります。この場合は、アイデアの実行しやすさや効果を見極めながら、フェーズごとに評価ポイントを変えていくことになると思います。
参加メンバー:そのやり方は有効だと思いますが、社内向けに試行することを考えると、評価や導入に関わる部分をいろいろと考慮すべきかもしれません。例えばある大手企業が、カフェテリアのメニュー開発にDAOを活用した事例がありますよね。この時、各部署が提案したメニューの中から投票で選び、リワードも与える仕組みを導入したことで、社内コミュニケーションが活性化したと聞いています。社内でDAOを試行するなら、人事評価や給与でインセンティブを与えるのは色々とハードルが高いので、福利厚生などで付与する方がやりやすいのではないでしょうか。またトライする際にも、サービスをSaaS型でパッケージ化した「DAO簡単お試しパッケージ」のようなものがあれば、伝統的な日本の企業も興味を持つのではないかと思います。
マンション管理組合のDAO化で“タダ働き感”を解消へ
座談会の最後のトピックは「マンション管理組合へのDAOの有効性」だ。マンションでは住民自身が管理組合を組成するケースが多い。しかしそうした時に「管理費の値上げに向けた審議」など、理事になった住民には面倒事が多くなる。管理組合の活動は何のインセンティブもないので、モチベーションが上がらない。こうした際にDAOは有効的なアプローチとなり得るのだろうか。
参加メンバー:例えば、管理組合の仕事をDAO化して、理事会の人たちにインセンティブとしてリワードを配るというのはいかがですか。付帯施設があるマンションなら、理事に施設の利用券を優先的に配るといいかもしれません。管理組合の仕事で貢献している人が、マンションのサービスの優先利用や管理費の割引をしてもらえるなら、“タダ働き感”が解消されてモチベーションアップにもつながるのではないでしょうか。
参加メンバー:あとは将来的には、コスト削減にも寄与しそうです。管理組合では理事会の内容を紙に記録して各戸に配布するので、どうしても紙代がかさみます。それなら、ペーパーレスにして印刷費用を浮かせばいいわけですが、法的には紙で残さないといけないらしい。でも、将来的にそういう規制がなくなれば、ブロックチェーンに記録を保管して、紙はなくせますよね。
NEC:確かに「DAOを導入すれば管理組合の印刷代がゼロになります」というコスト訴求ができそうですね。それから、管理組合の仕事をDAO化するのであれば、マンション管理士組合と連携してDAOを運営してもらうのも手かもしれません。理事会の活動も、プロジェクトとしてお金が回る仕組みにしないときついですから。
参加メンバー:中古マンションを購入しようと思っていろいろ調べたことがあるんですが、大規模改修の記録がきちんと残っているマンションと、残ってないマンションがあるんです。記録がないと管理の状況が分からないので、購入をためらってしまいますよね。マンションの資産価値を維持するという意味でも、大規模改修の記録をデジタル化してブロックチェーンに残すことはとても重要だと思います。
予定の時間はあっという間に過ぎ去り、モデレーターを務めたNECの関根がこの日の座談会を最後にこう総括した。「今日のお話の中で、改めてDAOの様々な可能性を感じました。序盤に出てきたDAOの簡単お試しパッケージはユースケースを考える人を増やすためにも有効であるように感じました。また、終盤に出てきたマンション管理組合の話のような、まずはわかりやすい効果としてコスト削減が見込めるケースへの適用は、DAO社会実装に向け、重要なユースケースになりうると感じました。今回も有意義な話し合いができたと思います。今後もこうしたコミュニティ活動を通して、議論の深堀や参加メンバー間の関係性強化に繋げるお手伝いをしていきたいと思います。ありがとうございました」