すぐそこにある新しい社会への一歩
~6G時代に向けた共創活動から見るワクワクする未来のカタチ~
複数の業界や技術を融合させ、社会課題の解決と価値創造を目指す――。NECではこうした考えのもと、オープンイノベーションの場である「NEC CONNECT Lab」を通じて、共創活動を積極的に推進している。すでに、ライブコンサートを自由な視点で楽しむ技術や、オンラインゲームの新たな体験を実現するプロジェクトなど、先進的な共創活動がはじまっている。ここでは、6G時代に向けた2つのユースケースを具体例とともに、NECが目指す未来社会のビジョンについて紹介したい。
未来社会を創る共創の拠点「NEC CONNECT Lab」
「ライブコンサートやスポーツイベントを自分の好きな場所で、能動的に自由に視点を変えながら楽しむ」「自分の分身となるアバターを操作し、地球の裏側の相手とオンラインゲームで対戦する」――。こんな世界が今、まさに現実になろうとしている。
新しい体験が現実化するのは、エンターテインメント分野だけに限らない。医療も劇的に進化する。専門医のいない地域や災害時でも高品質な医療サービスを受けられるようになるのだ。教育の現場も変わる。自分の興味や能力に合わせてカスタマイズした学習プログラムを、時間や場所の制約を受けず、世界中の人々と交流しながら独自の視点で学べるようになるだろう。
こうした未来社会を実現するには、単一の企業や技術では不十分だ。社会課題の解決や価値創造のための技術やアセットは多岐にわたるからだ。最先端技術に加え、複数の業種や領域の知見やアイデアを組み合わせることが重要になる。
こうした考えのもとNECでは、オープンな共創の場「NEC CONNECT Lab」を開設した。このラボの目的は、相互接続性の検証、ユースケースの実証などをパートナーや顧客企業と共に進めることにある。「さまざまなアセットを持つパートナーと連携し、共創活動を推進。具体的には、さまざまな技術やユースケースの社会受容性を検証し、その社会実装を目指しています」とNECの新井 雅之は語る。
NECにはネットワークをはじめとする各分野に経験豊富な専門家が数多く在籍している。NEC CONNECT Labでは技術や機材の提供だけでなく、この専門家たちが共創に参画する。「NECの技術や知見に、パートナー/お客様のアセットを組み合わせてアイデアを形にすることができます。さらに事業化まで視野に入れて、それを試せる実証の場となっているのです」とNECの芦田 ひかりは説明する。
こうした共創活動の中で、注目したいプロジェクトの1つが「IOWN®️(Innovative Optical and Wireless Network)」の社会実装だ。IOWNとは、光技術を中心とした革新的なネットワーク・情報処理基盤の構想のこと。高速・大容量・低遅延・低消費電力などの特徴を持ち、さまざまなデータや情報を効率的に処理・伝送・活用することが可能になる。
NECはIOWN、OpenROADM、Telecom Infra Projectなどのオープン仕様に対応した製品であるWXシリーズをリリースした。オープンな仕様に基づいているため、多くのパートナーとのエコシステムを形成しやすい。「NEC CONNECT Lab」には、このIOWN APNに対応した機器を常設している。
遠隔地にいながら現地のライブの臨場感と一体感を味わえる
IOWNの社会実装に向け、「NEC CONNECT Lab」では具体的にどのような活動を行っているのか。ここでは、その中から2つの共創活動を紹介したい。
まず1つ目は日本オラクルとの共創による、「自由視点映像の実証」だ。これは視聴者が自分の好きな視点でライブやイベントを楽しめるようにするもの。ステージ上のアーティストの動きを追いかけて、アップで表情をとらえたり、その一挙手一投足を見逃したりしない。そんな自分だけのアングルを楽しめる。
「こうした自由視点映像の実現には、高速で安定した回線と高速・低遅延・高い電力効率などの高いデータ管理機能が不可欠です。これらIOWNとOracle Cloud Infrastructureの組み合わせによってエンターテインメント体験を革新することを考えています。クラウドで回線遅延や通信品質のモニタリングやデータ管理を行うことで、実際に事象が発生する現場にデータ処理機能を実装する必要がなくなるなどのメリットもあります」と日本オラクルの清水 優衣氏は話す。
デモ環境にはライブ会場を模したミニステージをつくり、ステージ前面に小型カメラを設置。カメラのアングルはゲームコントローラで左右に動かすことができ、ステージ上の人形の動きを追いかける。カメラとリモート会場想定のモニターはIOWN APN経由で接続。カメラで撮影した映像データを約120km離れた場所に伝送し、折り返してモニターに表示させることで約240kmの伝送環境を構築している。
ミニステージはもう1つある。こちらはカメラとモニターが擬似インターネットでつながっているもの。IOWN APNと擬似インターネット経由の違いを体感するためだ。
実際に2つを操作してみると、その差は歴然だ。IOWN APNの方は、ミニステージ上を移動する人形の動きに合わせて、滑らかにアングルを変えることができる。人形が動き出して、コントローラを操作すれば、すぐに視点が移動する。人形が急に止まったり、動き出したりしても、視点が付いていく。体感ではほぼリアルタイムに近く、遅延はほとんど感じない。
これに比べると擬似インターネット経由の方は、コントローラを操作してからのアングルの移動にタイムラグがある。人形の動きに合わせてコントローラを左に動かしても、カメラの動きが追い付かず、人形は既に別の場所に移動してしまっている。急に止まったり、動き出したりといった人形の動きにも付いていけない。体験した際のタイムラグは、IOWN APNの方は0.5秒だが、擬似インターネット経由の方は約2秒の遅延があった。実際に体験してみると、この差は数字以上に大きく感じる。
なぜ日本オラクルはこうした実証に取り組んでいるのか。今回の共創活動にかかわったプロジェクトメンバーが所属する「ソーシャル・デザイン推進本部」は、社会課題の解決や未来志向の価値創出に向け複数企業との共創活動を推進している。そのテーマのひとつが「誰もが楽しさや感動を共有できるインクルーシブな社会の実現」だ。
「ハンディキャップがあって会場に行けない人でも、会場にいる人と同じように熱気や感動、一体感を味わえる。そんな誰もが諦めない社会を創りたい。その第一歩として、エンターテインメント分野で自由視点映像の実現に取り組んでいるのです。NECもインクルーシブな視点を大切にしています。そこに共感し、今回の共創がスタートしたのです」と清水氏は振り返る。
ネットワークに関するNECの技術力や知見も大きな魅力だったという。「実証においてもさまざまなアドバイスや提案を受けられるし、気付きを得ることもできました。私たちは自由視点映像を制御するアプリケーションの開発やデータ利活用にリソースを注力し、強みを発揮できる。これも共創の大きなメリットですね」と清水氏は評価する。
今後はデータの収集・解析を加速するとともに、操作性やUIを改善。社会受容性を検証するため、国内イベントなどでこのデモ環境を体験してもらうことも視野に入れている。
最先端の通信技術を活用して新たな顧客体験の創出を目指す
2つ目はソニーとの共創だ。ここでは「5G環境での低遅延技術検証」が進められている。
その目的は、超高速・高品質なネットワークで快適な顧客体験を提供すること。例えばオンラインゲームにおいて無線通信は有線通信に比べて安定性が低く、動きや反応が遅くなったり、画面がフリーズしてしまったりすることがある。この課題を解消する新たな無線ネットワークの実現を目指しているわけだ。
「その一環としてローカル5Gや通信事業者の5G回線とIOWN APNを組み合わせた環境を構築し、新たな無線ネットワークの技術的探索を進めています」とソニーの後藤 満氏は説明する。
用途としては、要求がシビアなeスポーツ大会を念頭に置いているという。大会には賞金が掛かり、プロも参加する。わずかな遅延が勝負を左右しかねない。こうしたことからeスポーツ大会は有線ネットワーク環境で会場を設営する。参加者は会場に集まり、同じ環境・条件のもとで勝負に挑むわけだ。
しかし、有線ネットワークを配した会場設営は大変な手間がかかる。「無線通信でeスポーツ大会を開催できれば、設営の手間が大幅に軽減され、より短期間で大会を開催できるでしょう。有線ネットワークの手配が困難だった場所も候補地となるため、競技会場の選択肢も広がります」と後藤氏は期待を寄せる。
何十人、何百人が参加する環境で、低遅延・高品質かつ公平・公正な環境を実現する。その技術的探索は道半ばだが、IOWNを活用すれば、eスポーツ大会の多拠点同時開催も可能になると考えているという。eスポーツの活性化と市場の拡大につながるだろう。
ただし、この共創活動で目指しているのは、新たなゲーム体験だけではない。超リッチな映像コンテンツの伝送手段としても期待が持てる。
「IOWNを活用すれば、4K/8Kといった高精細な映像コンテンツもボトルネックなくスピーディに伝送できるでしょう。5G/6Gなどの無線技術も活用すれば回線の手配や工事の手間もかかりません。現場で撮影した映像をすぐにその場でスタジオに伝送できるので、記録媒体を運ぶ作業も不要になります。映像送受のリアルタイム性が高まり、仕事の効率や生産性も向上するでしょう。今後もNECと共に検証を進め、クリエイターのイノベーションに貢献するサービス開発につなげたい」と後藤氏は意気込みを語る。
事業化まで視野に入れ、産学の連携を拡大していく
紹介した2つの共創活動も含め、NECでは今後もIOWNの機能や性能を検証し、パートナーと共に社会実装に向けて準備を進めていく考えだ。その際に大きな強みになるのが、NECが持つアセットである。例えば、ネットワーク領域なら、海底ケーブルや海中通信、さらに衛星通信や衛星間通信まで、海底から宇宙まで網羅している。
これらを活用することで、文字通り、世界中どこでも、高品質なネットワークの恩恵を受けられる。IOWNを活用したビジネスやサービスを世界中にスケールしていけるわけだ。また、ネットワーク以外でも、AIやデジタルツインなど幅広い最先端技術も提供している。「事業化についてもパートナーと連携し、市場からの要請や需要見通しの時間軸に合わせて推進していきます」と芦田は語る。
今後は現行のパートナーとの連携をさらに深めるとともに、新たなパートナーを募集し、活動の輪を広げていく予定だ。もちろん、共創パートナーは大手企業ばかりではない。「情報と通信技術により安全・安心・効率・公平な社会を実現するというNECの想いに共感し、手を携えてビジネスの創出や拡大に取り組む企業であれば、規模は問いません。中堅・中小企業やスタートアップとも、共創していきたい」と新井は期待を寄せる。
こうした企業間の共創に加えて、産学の共創にも取り組んでいる。東京大学とはBeyond 5Gの実現に向けて「キャンパステストベッド」を構築し、技術検証を推進。大阪大学とは生活空間の場で研究開発を実施する「リビングラボ」手法を用い、高齢者向け住宅においてデジタルツインの社会実装に向けた検証を進めている。
こうした活動を通じ、社会課題の解決を牽引する人材の育成にも力を入れている。「多岐にわたる社会課題の本質をとらえ、その解決を図るためには、幅広い業種・領域の知見や人脈が必要です。産業の枠を超えた共創は、そのためにも不可欠の取り組みなのです」と新井は主張する。
今後もNECは多くのパートナーと共に社会課題の解決と新たなビジネスの創生に取り組み、サステナブルな社会の実現に貢献していく考えだ。
※「IOWN®」は、日本電信電話株式会社の商標又は登録商標です。