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チェキの人気とAIを考える

AI and instant camera

2023.11.02

Updated by Mayumi Tanimoto on November 2, 2023, 12:00 pm JST

前回は、AIは単独ツールとして意外と普及していないと書きましたが、面倒くさいという他にAIが普及しないもう一つの理由として、現在のAIが出力するアウトプットが画一的で人間が求める個性がない、ということがいえます。

例えば絵の世界で、いわゆるAIが作ったイラストの典型例のようなものが溢れています。しかし、ユーザーというのは多少デッサンのずれがあったり、非対称なものに特別な感情を抱いたりするので、いくらAIが様々なコンテンツを提供できるようになっても、人間が書いたものほどは感動を感じないようです。

いかにもAI絵という感じのイラストはさほど人気がなく、相変わらず昔ながらの絵師の作品や漫画の単行本が人気です。ファンは絵師に付いています。

週刊誌にはAI美女のヌードが掲載されていますが、これも画一的で、それほど人気があるわけでもありません。やはり読者は、お気に入りのグラビアアイドルに行ってしまう。ヌードは単なる写真ではなく、モデルの性格や暮らしなど、想像を巡らせる要素から成り立っている作品です。AI美女にはその付随する部分がないので、感動がないのです。

これは、Spotifyや動画サイトで様々な音楽を無料で聞くことができるようになったのにもかかわらず、人々は相変わらずコンサートやイベントに出かけ、かつてよりもはるかに高額なチケットを購入するようになったことと似ています。

欧州のヘビーメタルのコンサートの場合、例えば コンサートのチケットは、動画サイトが普及していなかった頃に比べると値段が3倍から4倍になっています。音楽フェスのチケットも高騰していて、欧州の場合は一日券が3-4万円です。それでも他の消費を犠牲にして行く若い人が大勢います。

音楽自体は、動画サイトや配信サブスクでいくらでも聴くことができますが、実際に求めるのはリアルな体験であって、当日のアクシデントやミュージシャンのちょっとしたミスと言った「個性」、これらに対して高い 費用を払っても期待するファンが大量にいるわけです。

これは日本でインスタントカメラのフィルムが売り切れている現象も同じです。ミレニアム世代を中心に、若い人は スマホや デジタルカメラがあるにも関わらず、わざわざアナログなインスタントカメラを購入し、 旅行先でかなり高価なインスタントカメラのフィルムを購入しているのです。

日本人だけではなく、香港やマレーシア、アメリカ、欧州の人も同じです。購入者 曰く、インスタントカメラはデジカメと違って 何回も取り直せるわけではなく、失敗する場合もあって不完全だが、「その瞬間を記録する」という緊張感があるというのです。つまりここにも、不完全性や アナログ的な歪みを求める心理が反映されています。

「食」の世界においても、世界では食料の生産が効率化され様々なファストフードが生まれました。しかしながら、相変わらず レストランに行く人は多いのです。AIが作り出すコンテンツは冷凍食品やファストフードのようなものです。画一化 されていて、ある程度味は保証されているが食としての楽しみとして得られるものは多くはありません。

今後 、AIが生み出すコンテンツというのは、動画サイトやサブスクの音楽のような経路をたどっていく可能性が高いのではないでしょうか。流し聞きするような軽い目的で使われたり、ちょっとしたチラシにはAIが作ったイラストを使うことはあっても、思い入れがあるイラストはプロに依頼する、というような。

システム開発の上流工程も、AIが生み出したテンプレートを当てはめるだけではユニークなものはできません。そこにユニークな戦略性はないからです。ビジネスの本質は他社との差異化だと考えると、AIが普及するからこそ、個性的な創造性を発揮できるビジネスや人の価値が高まっていくのでしょう。

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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