蛍光ペンの交差点

"科学と技術に支えられ、夢を語る人になる"

僕の部屋の窓からは

僕の部屋の窓からは、誰もいないオフィスビルが見える。 どのフロアも配線がむき出しで、間仕切りのパネルや工具が雑然と積み上げられている。初めてこのがらんどうのフロアを見たとき、変化の激しい街だから、そのうち会社が入居するだろうと思って、たまに…

ソファに座る

暗がりの中、誰も居ない居間のソファに座って、自分の感覚に意識を向ける。ふとソファの上に置かれたブランケットが左膝に当たることに気づき、今はいらないと遠くに退かす。こういうことができるようになった。素足の裏に毛の長い絨毯が触れて気になったの…

とてつもなく巨きな岩が、ほんの少しだけ動くこと

人は大抵変わらないと思う。 だけど、時に運命のいたずらで、それが変わってしまうほどのトラウマを体験することもある。それは大地震だったり、テロだったり、戦争だったり、個人を変える大きな力を持っていて、人を変えてしまう。そして人に話せない。話し…

それは最後ではなくて、全ての瞬間だから

日々を過ごすなかで、楽しさは不可欠だと思うようになった。 楽しさは単なるエンタメや娯楽に留まらず、様々な活動につけるある種の胡椒や醤油みたいなもので、いろいろなものに合う。活動によっては楽しさというか「ツラくはない」ぐらいになる。ゲーミフィ…

自分のボイスを捨ててはならない

資本主義の中で正気を保つことは難しい。自分が発している声が自分のものなのか、あるいは資本主義にインストールされたものなのか、分からなくなることがある。 資本主義の核に近づくほどに、いびつな矯正を強いられる。痛みが薄れていくにつれ、それが唯一…

水を飲む

深夜、水を飲みに台所へ向かった。 二階の寝室のドアを抜けて廊下に出ると、明かりが漏れていることに気がついた。起きていることが廊下から分かるということだ。深夜一時に起きている不養生を恥じた。 リビングに続く階段を降りながら、一段ずつ数えてみた…

幸福の定量化:人生、仕事、コミュニティ

知人が「恋愛における好みのパートナー」について、以下の2点を挙げた。 自分が好きになれる程度に見た目が整っていること その他、自分が気にかける多数の変数(一緒にいて落ち着く、話が合う、前向きである、共通の友人が多い etc)の総合点が高いこと こ…

分子より幸せな人生を歩むこと

「人間は人間同士、それこそ君のいう「人間分子の関係、あみ目の法則」で、びっしりとつながり、おたがいに切っても切れない関係をもっていながら、しかも大部分がおたがいにあかの他人だということだ。そして、このあみの目の中で得な位置にいる人と、損な…

『喧嘩稼業』感想:「稼業的」な、あるいは100%全力の問題解決に関して

マンガ『喧嘩』シリーズは、「稼業的」な、つまり、100%全力による問題解決について考えさせられる作品だ。 同作は、問題解決における戦略性と網羅性について考えさせる。戦略性(effectiveness of game plan)とは、一つの解法が他の解法よりも1000倍効率的で…

ぼたもちはどう生きるか

価値観において 評価基準を自身の外部(賞や合格などの結果を含む)に依存することなく、挫折の際にも自身が積み上げてきた過程を誇りと幸せに思える揺るぎなさ・打たれ強さを身に着けたい。これは3年前には既に思っていたことのようだが、その記事にも記録…

知性の行き着く先は、ファンファーレでなければならない

人生の中で、ただ一つ殆どどのような時にでも役に立つ最強の武器があるとしたら、それはなんだろうか。私は、それは「他者を味方につける方法」だと思う。 というのも、人間の一つの特色は、個々人が自分で意思決定する自由で自律的な存在でありながら、それ…

使わない言葉を決める大切さ

実現させたい未来があるときに使うと害になる論法や表現法がある。そのうち最も耳にすることが多いのは、「Aがいいことは当たり前なのに、なぜそんな簡単なことも分からないんだ?」である。組体操がなぜ廃止されないのか、なぜ増税か、なぜ霞が関で働くのか…

運命に告げたさよなら

生きていれば人はいろいろなものにさよならを言うだろう。 子供のころに飼っていたペット、転校していった仲のいい友人、疎遠になった文通相手、ボロボロになったお気に入りの筆箱、長年通った習い事の先生、届かなかった部活動の勝利、お世話になった地域の…

「生存の質」の危機の中で、登場人物になる個人

東京大学は、未だに世界でも有数の研究機関であるとも言えるし、数十年前は考えられなかったぐらい世俗化して堕落した娯楽機関であるとも言える。2つの現象は同時に起こっており、「東京大学」という固有名詞一つでの評判分析はほぼ不可能である。東京大学…

驚きと願いくらい、自分のものにさせてくれ

何十年と生きていく中で次第に変動が収まっていく類のものがある。 一つは信念である。私はOSINTが働くと信じているし、それを実践しながら生きたいと思っている。日々過ぎ去っていく些細な通過物として曖昧に認知しているもの同士の中には、ときに感動と興…

MP-hard (Measuring is practically hard) な問題

コンピューターサイエンスの分野には、NP-hard(エヌピー・ハード)と呼ばれる問題群が存在する。雑に言えばその問題集合に含まれる問題にはある種の困難性が付きまとい、扱う対象の数が増えるに連れてすぐにまともに計算が追いつかなくなるというものだ。宇…

最善xのなかみ:不完全情報と柔軟性、行動指針と一貫性

肯定側と否定側に分かれて第三者に互いの主張の正当性を納得させる競技ディベートにおいて、もっとも鍵となるのは周到な準備だと言われる。たとえ私たちがAという行動の良さをいくら熱弁したとしても、世界70億人に過去200年間に渡って実験した結果、Aが悪影…

東大に落ちた18歳のきみへ

やあ。落ち込んだ顔をしているね、きみ。 無理もないだろう、高校からずっと目指してきた第一志望の大学に、現役不合格というかたちで拒絶されたんだ。合格掲示板に並んでいた、君より前の受験番号たちはやけに番号の間が狭かったから、いきなり自分の番号も…

苗を植え続け、踏みつけない

「そんなことも知らないの?」とは、特に自分の専門分野や社会的に常識とされることについて問われた際、つい使ってしまいたくなる言葉だ。実際、危機感を煽ったり、火をつける目的では有効に働くこともあるのだろう。しかし、このような印象を与えたくがな…

記憶と幸せ

ブログを書くことにまつわる楽しみの一つは、読み返すことにある。自分がはじめてブログを付けたのはもう10年以上前のことになるが、人間の脳は10年も前の自分の思考過程を、その波形を変えずに保持するような仕組みを生体内には備えていない。活字はそ…

絵具と砂鉄と星座:グローバル化と人との距離感

朱に交われば赤くなるという言葉があるように、人間関係は絵具のようであるとも考えられる。一度混ざってしまうとその影響を取り除くことは難しく、特に深い黒が一度入ってしまうと戻すのは不可能に近いという、不可逆的な性質を持つと考えることは何ら不思…

効率的な情報の摂取について(1):recallをrecallしない調査戦略

日々接する情報は多すぎる上に、まだ増加している。そのような情報過多(information overload)の問題に対して、precisionとrecallという2つの概念を参考に戦略を立ててみよう。 (画像:英Wikipediaの"Precision and Recall"より転載) Precisionとrecallは、…

時々休んで語らいながら、それでも遠くへ歩いていこう

自分の中には異なる2つの主義(principles、行動の指針)がある。長期間の存在を確認した。「なんでもいいから成果だけ手に入ればいい」(outcome goal) という主義と、それが崩れたときに現れる「積み上げてきたことを出し切って運命に委ねたい」(process goa…

計算と走る

およそ基礎と言われる単元の学習を終えると、第二言語学習者は「英語を学ぶのではない、英語で学ぶのだ」などの助言を受けることが多い。この一文が興味深いのは、自然言語において日陰者と思われがちな助詞(particles)が主役となって、あらゆる学習者が十数…

文字と「跡」、あるいはデータと呼ばれるもの

文字は「今、ここ」を離れて行なう観察のゲーム・チェンジャーだった。そして今現代に起きていることはデータによる二次革命である。映画においては続編は前作より低評価になることが常だが、果たして技術においてはどうだろうか。 私たちは、文字で現象をほ…

泉に近いところへ:信号と感受性

「泉に近いところへ行きたい」という渇望を自覚したのは、オンラインの講義動画を丸ビルの喫茶店で視聴していたときだったと思う。東京が源泉になっているような現地組織に、あまり出会うことができていなかった。ましてや、自分が興味のある活動分野の源泉…

21世紀を生きてみて:生産性と仲良くする

歯磨きのような思考で述べたように、同じ話を何度も何度も何度も何度も何度も考えることには時に大切な意義がある。今回の話は、内容的には2年前に書いた專攻分野が決まらない高校生への計算機科学のすすめを一般化したものになる。 私はこれまで、多くの人…

学ぶことは楽しいことではない:学び続けるスキルとは何か

私は、一般に吹聴される「学ぶことは本来、楽しいことだ」という主張は誤っていると思っている。 たとえば英語を始めたとする。最初は英会話にせよニュース購読にせよ、新鮮な気持ちで読めるから楽しいと感じるだろう。だが活動がパターン化していく中で、あ…

自信を失った時の癖

人生で群を抜いて不安だったときと言えば、浪人で予備校にフルタイムで通っていたときだろう。合格最低点に0.4点だけ足りず始まった浪人生活。次の失敗は、どのような理由があったとしても存在してはいけなかった。 授業を終えるとよくそのことが頭を過ぎっ…

パンドラと希望の箱

考えてみれば過去には風変わりなコミュニティにも所属していたように思う。 しかしどの場所にも希望はあった。 災厄が全て解き放たれたあとに、希望だけが中に残されたパンドラの箱という寓話がある*1。 パンドラの箱の通俗的な解釈は「だから、人類に希望は…