【書評】佐々木俊尚さんの「電子書籍の衝撃」を読んだ

実は読んだことが無かった1冊。2010年4月の発行なのですが、知ったのがつい最近。今更読んでも……と思って、敬遠していました。

電子書籍の衝撃 (ディスカヴァー携書)

電子書籍の衝撃 (ディスカヴァー携書)

posted with amazlet at 12.04.08

佐々木 俊尚

ディスカヴァー・トゥエンティワン

売り上げランキング: 39181

「紀伊國屋書店BookWeb」のレビューを書くためにサイトを調べていてたまたま目にとまり、紙の本は1,155円なのに電子版が630円と非常に安価だったので、試しに購入してみました。1冊まるごと「パソコンのビューワーで読む」という体験をしてみたかったんですよね。そういう体験にふさわしい1冊だったと思います。

ちなみに余談ですが、本書の内容とも関連するので敢えてもう1度言わせて頂きましょう。「紀伊國屋書店BookWeb」が、ソーシャルネットワークサービスでの拡散を考慮している作りになっていないのは、とてももったいないと思います。せめてTweetボタンくらい設置すればいいのに。

さて本書は2年前に書かれた本です。が、こと日本に関して言えば、今読んでも遅くはなかったと感じました。もちろん、本書が書かれた段階ではまだiPadが発売直前だったり、当時は大流行だったケータイ小説が今ではもう廃れてきているといった、状況の変化はあります。

ただ、2年経ってもいまだに海外勢のプラットフォームは日本へ上陸しておらず、かといって国内で電子書籍市場が立ち上がったと言えるような状況には、まだなっていません。つまり、本書で語られている「これからどうなるか?」という予測の多くが、まだこれからどうなるか判らないままになっていると言えるでしょう。

「はじめに」で佐々木俊尚さんは、今後電子書籍が紙の本に代わる社会インフラになるために必要な要素として、次の4つを挙げています。

第一に、電子ブックを読むのに適した機器(デバイス)が普及してくること。

第二に、本を購入し、読むための最適化されたプラットフォームが出現してくること。

第三に、有名作家か無名のアマチュアかという属性が剥ぎ取られ、本がフラット化していくこと。

第四に、電子ブックと読者が素晴らしい出会いの機会をもたらす新しいマッチングモデルが構築されてくること。

正直に言うとボクは、ここで一番目に挙げられている「デバイス」は、優先順位は低いと思っています。ガジェット好きな人は、端末の軽さや電池の持ち、画面の綺麗さや通信速度、読むためのソフト(ビューワー)などにこだわるかもしれません。機器やソフトの作り手も、紙での読書体験に近いものをというところにこだわり、ページめくりの凝ったアニメーションなどを実装したりしていますが、そういった部分はあくまで副次的なものでしょう。

佐々木俊尚さん自身も、第一章でコンテンツを楽しむのに「姿勢」と「距離」が重要だと主張し、メディアの特性を分類して説明してから、こんなことを言っています。

ただ2008年にブームになったケータイ小説は、ケータイの小さな画面で読まれています。(中略)しょせんはメディアとの接触は「慣れ」の部分が大きいということですね。

だったらなぜ、デバイスの話から始めたのだろう?と首を傾げました。最初に「パソコンは、書籍を読むには適していない」と切り捨てる理由が判らない。実際、本書をボクはパソコンの画面で読むのが、全く苦にはなりませんでしたから。

これに続く、Kindleの画期的なところの説明は、非常に同意できるんですね。実際に、他の電子書籍ストアでの購入を自分で体験してみて、最初に必要な「登録」という行為がどれだけ面倒なのかは身に染みていますので。これを最初から不要にしている点や、マルチデバイスで「どこまで読んだか」という情報もすべてのデバイス間で同期している点など、Amazonの慧眼に恐れ入るばかりです。

しかしそれはデバイスの特徴というよりは、次章で語られるプラットフォームの特徴のはず……という思いがなかなか拭えませんでした。しかし第二章まで読み終えたところで、佐々木俊尚さんの狙いがなんとなく判った気がしました。話題になっているKindleやiPadなどのハードウェアの話を冒頭に持ってくることで、ハードウェアにこだわる人たちの興味を引くことができます。しかし、重要なのはハードウェアじゃないんだよ、というパンチを浴びせたかったのかな?と。

音楽配信サービスの話しや、過去に失敗した電子書籍端末の話を挙げ、日本のメーカーがここ最近いかにダメかというパンチを、これでもかこれでもかと繰り出します。そしてその矛先は、第4章で日本の出版社や書店・取次流通などへ向かいます。佐々木俊尚さんが時々Twitterで、「(この本で)いろんな業界を敵に回した」と言ってる意味がよく判ります。

しかし、今できあがっている仕組みが停滞の原因になっているとすれば、そしてその仕組みを構成する人たちが自らを変えようとしない(もしくは変化が遅すぎる)のなら、その仕組みを外から破壊するプレイヤーが必要になってしまうのだと思います。4章の最後の辺りで、佐々木俊尚さんさんのそんな思いが語られています。

既存の流通システムにあぐらをかいて何の努力もしない大手出版社がある一方で、劣化した取次システムに頼ることなく自力で書店をまわり、読者とのネットワークを構築し、良い本をたくさん生み出している志の高い出版社はいまも少なくありません。しかしそうした編集者、そうした出版社は日本の出版業界ではしょせんは少数派であり、「はぐれ者」扱いされてしまっているのが現状なのです。そうした個人や企業がきちんと光を浴び成長していけるようなしくみを、いまや私たちは再構築しなければなりません。そのためには、既存の流通システムをいったん潰してしまって、新たな構造をつくりあげることがいま必要なのではないでしょうか。

時代が大きく動いている時に、それにいつまでも逆らい続けるのは、かえって傷を大きく広げてしまうような行為と言えるでしょう。変革には痛みを伴います。しかし、痛みを伴いながらも時代にあわせて自らを変えていこうと努力をするところは、生き残っていくことができるのではないでしょうか。

恐らくAmazonは、この数ヶ月以内に日本市場へ参入してくると思います。本書から2年。佐々木俊尚さんの強烈なパンチは、その真意が業界の方々に伝わったのでしょうか?いよいよその真価が試される時が来ます。

[追記]

佐々木俊尚さんが、プラットフォームに重要なポイントとして挙げていたのは以下の通り。

・多くの人気書籍をラインアップできている。

・読者が読みたいと思う本、あるいは本人は知らないけど読めばきっと楽しめる本をきちんと送り届けられる。

・そうした本をすぐに、しかも簡単な方法で入手できて、その時々に最適なデバイスを使い、気持ちよい環境で本が楽しめる。

ボクの考えたポイントと、わりと近似かな?

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