明日を読む
米IT見本市に見る日本の復権
2025年2-3月号
世界最大の情報技術見本市「CES 2025」が1月上旬、米ラスベガスで開かれた。今年は4500社・団体以上が出展、世界約160カ国から14万人以上が会場を訪れた。昨年は閉鎖されていたメイン会場の南ホールが復活するなどコロナ禍前の賑わいを完全に取り戻した。コロナ禍で出展を見送ってきた日本企業も多数復活し、日本勢の躍進がうかがわれた。
CESは「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー」の略だが、最近は自動車やドローンなど家電以外の展示が増えたため、主催の全米民生技術協会(CTA)は「シーイーエス」と呼ばせている。初日の開幕基調講演では注目すべき技術分野が発表され、今年は「AI(人工知能)」「自動運転車」「ヘルステック」「持続可能性」の4つが挙げられた。昨年はウクライナ情勢などを踏まえ「安全保障」があったが、「ヘルステック」に置き換えられた。
日本からはソニーやパナソニックなどの家電大手のほか、ホンダやスズキ、クボタといった自動車・機械メーカーなどが出展した。2021年から出展を取りやめているトヨタ自動車も豊田章男会長が5年ぶりに記者会見し、2020年のCESで発表した近未来都市計画「Woven City」について「今秋から入居を開始する」と表明した。日立製作所もコロナ禍後に初めてブースを設け、AI技術などを披露した。
CESの注目分野であるモビリティ技術で今回話題を呼んだのがCES初出展のスズキだ。同社は豪ベンチャー企業のApplied Electric Vehicles社と組んで、同社の「ジムニー」のラダーフレーム(台車)を使った搬送用電気自動運転車を発表した。台車の上部を自由に変えられる仕組みで、工場や農場、採掘場など様々な用途の搬送に使える。スズキは米小型電動車ベンチャーのGlydways社にも出資しており、バス型の小型電気自動運転車も発表した。
日本メーカーの自動運転車はトヨタが2018年に発表した「e-Pallete」が話題となったが、東京五輪で選手の送迎に使われたものの、商用化には至っていない。スズキは今年8月から日本とオーストラリアで自動搬送車を100台発売し、来年には400台販売する計画だ。自動搬送車はフランスや中国などの企業が先行していたが、小型車に強いスズキの参入により、日本企業の存在感が増すことになりそうだ。
新たに注目分野に挙げられたヘルステックでも日本企業の活躍が目立った。キリンホールディングスは減塩用電子スプーン「エレキソルト スプーン」を出展し「CESイノベーションアワード」を受賞。微弱な電流を流すことで塩味を強く感じられるようにした。化粧品のコーセーは人間の顔にプロジェクションマッピングすることで手軽にメイク体験ができるMR(複合現実)技術で同様に表彰を受けた。
主催のCTAは各国のイノベーション力を評価した「Global Innovation Scorecard」というランキングを発表している。ダイバーシティの推進やベンチャー企業の育成などイノベーションを起こすのにどれだけ注力しているかを表す。前回の2023年の発表では日本は24位だったのが、今年は17位へと浮上。こうした評価からも日本の復権が読み取れる。
CESの売り物には出展料を安く抑えスタートアップ企業を集めた「Eureka Park(ユーレカパーク)」という会場がある。大企業は本来は出展できないが、実は3年ほど前から韓国の有力企業が自ら支援している新興企業を集め、ブースを設けるようになった。サムスン電子は「C-Lab」、LG電子は「NOVA」、現代自動車は「ZERO1NE」という名称で、それぞれベンチャー育成に力を注いでいる。
日本の大手企業も今年は韓国企業に負けじとユーレカパーク内の日本ブースに名を連ねるところが増えた。NTTドコモは人間拡張技術の「FEEL TECH」ブランドで出展し、TBSテレビは放送技術を展示。キヤノンは従来のメイン会場への出展を取りやめ、米国の子会社が独自にユーレカパークに出展し、環境やスポーツなどの最新技術を展示した。
家電時代のCESは日本企業が花形だったが、デジタル時代の今は米国や韓国、中国勢などが主役となっている。ようやく日本企業がカムバックした今こそ、日本が持てる技術を世界に示し、日本の復権をアピールしてほしいと思う。