浜松医科大学「子どものこころの発達研究センター」西村倫子特任講師らの研究グループは、 幼児期のスクリーンタイム(テレビやスマートフォンなどのデジタル機器をみている時間の総称)と、子どもの神経発達の関係を解析。
これまで、「幼児期のスクリーンタイムが長いと、子どもの神経発達によくない」というさまざまな研究が存在している。しかし、本当にマイナス要素しか存在しないのだろうか…?
本研究では、コミュニケーション機能の発達に「弱いながらも影響がある」ことを発見した一方で、子どもの「頻繁な外遊び」がスクリーンタイムの望ましくない影響を緩和することを世界で初めて発見した。
今回は研究の第一人者である浜松医科大学子どものこころの発達研究センター西村特任講師に、スマホ育児と子ども発達の関係や、外遊びのプラスの作用について伺った。
西村 倫子さん
浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 特任講師
スマホ育児のデメリットとは
子どものスクリーンタイムが「コミュニケーション機能」に与える影響
── はじめに、西村特任講師が今回の研究をしようと思ったきっかけを教えてください。
西村特任講師:現代社会ではデジタル機器と育児との関係が良くも悪くも注目されています。「スマホ育児」という言葉はよく耳にしますが、その中でスマートフォンを利用する親御さんだけが悪くいわれてしまったり、デジタル機器はよくないと一方的にいわれてしまう環境が気になっていました。
マイナスの影響についても踏まえつつ、それを軽減したりプラスに作用したりする可能性を探してみたいと思い研究を始めました。
── スマートフォンやテレビで見る「映像コンテンツ」と、子どもを引き離すのは難しいですね。今回の研究ではとくにスクリーンタイム(視聴時間の長さ)などがテーマにあがっていましたよね。
西村特任講師:研究では0歳〜4歳ごろまでのスクリーンタイムが、「コミュニケーション機能」「日常生活機能」「社会性」にどのような影響を与えるのか調査しました。
とくに目立ったのは、2歳までのスクリーンタイムが1日1時間を超えていた子どもは、4歳くらいの「コミュニケーション機能」が0.2SD※下がるという結果です。
「日常生活機能」や「社会性」も若干は下がるもののそこまで目立った差はありませんでした。
※SDとは標準偏差を表す単位。IQ(知能指数)の場合、平均が100となり、1SD上がると=115、1SD下がると85となる。-0.2SDだと100が97になるということ。
2歳まではスクリーンタイムよりも、リアルでのコミュニケーションを優先しよう
── 「コミュニケーション機能」に影響があるのですね。今は「知育アプリ」なども出ていますが、そういう内容でも必ず下がってしまうのでしょうか?
西村特任講師:たしかに、言葉や数字を覚えるアプリも出ていますよね。アプリごとに細かく検証することが難しいので、確実とは言えませんが、海外の研究では「2歳まではスマホやテレビの画面越しに情報を得て、学習することが難しい」というデータがあるんです。
この研究では、面白い実験をしていて、子どもに「部屋でおもちゃを隠す場面」をリアルとスクリーン(画面)越しに見せます。それを自分で探してもらって見つけられるかテストしたところ、「実際に隠す場面」を見た直後は見つけられるのに、スクリーン越しだと、おもちゃを見つけられないと判明しました。
大人からすると同じような情報でも、小さなお子さんにとっては違うということです。
こういった理由から、2歳まではスクリーンタイムよりも、リアルでのコミュニケーションを優先すべきではないかなと思います。
コミュニケーション機能、日常生活機能、社会性…、成長の流れに合わせた環境を
──どうしてスクリーンタイムと、リアルな動作とで「コミュニケーション機能」に差が出てしまうのでしょう?
西村特任講師:小さなお子さんは身体と脳が連動して、さまざまなことを学んでいきます。物に触れたり人と会話したりすることで脳に刺激がいくので、スクリーン越しの内容だとそれが機能しにくいようです。
成長の流れとして、まず2歳までに言葉を覚えて、そこからほかの機能も身についていくので、「日常生活機能」や「社会性」よりもコミュニケーション機能に大きく影響しやすいのだと考えられます。
また、子どもにとって「暇なこと」は意外と重要なんです。親が関わってあげられない時、友達がそばにいないとき、ひとりの時間ができますよね? そういった際に、その退屈を埋めるために子どもは、本来想像力を働かせて自分で遊び出すのですが、スマートフォンがあることで考えなくても暇を埋められてしまう。想像の余地を狭める可能性はありそうです。
ただし、2歳までのスクリーンタイムが長くなってしまっても、「外遊び」の時間を増やすことで、このような影響を軽減できることもわかっています。
外遊びの「変化に富む」環境は想像力やコミュニケーション機能の発達によい
── なぜそれらの望ましくない影響を、「外遊び」が軽減できるんですか?
西村特任講師:すべての仕組みが明らかになっているわけではありませんが、理由はいくつか考えられます。
まず、スマートフォンや室内で遊んでいる場合、子どもにとってイレギュラーなことが起こりにくいのです。決まったルールやおもちゃで遊ぶことが多いわけですね。
逆に、外ではおもちゃ以外の目に入る草花や虫で遊んでみようとしたり、近くにいる子が突然その遊びに参加してきたりと、刺激が多い。室内と比べて「変化に富む」ことが、想像力やコミュニケーション機能の発達によい影響を与えるのだと思います。
また、現代社会は親も子も寝るのが遅い傾向にあります。外が暗くなっても、夜家の中は電気が煌々としていますよね。そうすると自律神経が整いにくいのです。
外でたくさん遊んで疲れると、日照時間が終わった時には自然と眠くなります。朝と夜の切り替えを身につけることで、神経にもよい影響があると思います。自律神経が整うことで、子どもの機嫌も安定しやすくなるといわれていますね。
── なるほど!発達のためには外遊びは多角的なメリットがあるのですね!ちなみに、毎日外で遊ぶのと、週末時間がとれた際にだけ遊ぶのとでは効果は変わりますか?
西村特任講師:先ほど自律神経のお話もしましたが、「習慣化」することが大事なので、毎日遊ぶのが望ましいです。ただ、ご両親ともに働く家庭も増える中で、実際には難しいことが多いのではないでしょうか。
もちろん週末に目一杯遊んであげることはまったく無駄にはなりません。ぜひ時間が取れたときにしっかり関わってあげてください。
子どもの発達を見ながら親子の関わり方を工夫する
親も子もスマートフォンとの「上手な付き合い方」がポイント
── 子どもにはどのようにスマートフォンを使わせてあげるのがよいでしょうか?
西村特任講師:スマートフォンや映像コンテンツを一切遮断するのは難しいと思います。なので、親も子も「うまく付き合う方法」を身につけるのが大切です。
たとえば、子どもが映像を見たりゲームで遊んだりしているときには、親からも話しかけたり、一緒に楽しんだりするとよいでしょう。コミュニケーションがあるのとないのでは、スクリーンタイムの影響も変わってきます。
また、小さいころは「ペアレンタルコントロール」などで親が調整する方が多いと思いますが、もう少し大きくなったら話し合った上でルールを決めるのがおすすめです。
コンテンツの内容を子どもが選べるようになったときに、「これは暴力的だからやめよう」「自分にプラスになることを見よう」と自分で考えられることが大切なんです。そうなっていくために親は、他律から自律を意識して関わっていきたいですね。
── 本日はありがとうございました。西村特任講師が今後取り組まれる研究について教えてください。
西村特任講師:今回のスクリーンタイムの研究でも、「発達のどの段階で影響が大きいのか」や「外遊びの頻度や時間はどう影響するのか」など、まだ明らかになっていない部分はたくさんあるので、掘り下げて研究していきたいと考えています。
また、私にとってずっと研究テーマになっているのが、子どもが赤ちゃんから育っていく過程で、言葉をどう獲得して、行動がどのようになって、社会性をどう身につけていくかということです。0才から小学校中学生…と親御さんやお子さんと定期的に会って状況を伺うことで、調査しています。
子どもの発達を丁寧に追うことで、たとえば「思春期には不登校になりやすいのはなぜか」とか「いじめをしてしまうのはどんな心境からか」といった課題にアプローチできればと思っているんです。
スマホ育児が悪いとか親御さんの躾が悪いとかそういった画一的な価値観ではなく、たとえば「スマートフォンやゲームが居場所になっている」ならそれは認めた上で、親子にとってよりよいコミュニケーションを取るにはどうしたらよいかを考えていきたいですね。
研究を通して、難しさを抱えた人にも寄り添えるような結果につなげていけたらと思っています。
Wellulu編集後記
親にとっても子どもにとっても、スマートフォンや映像コンテンツは手放せないものになっていますよね。
先生のお話で、とくに印象的だったのは「暇な時間が想像力を育む」ということ。子どもはもちろん、大人にも当てはまるのではないかとハッとさせられました。
親子でスクリーンタイムのルールを決めたり、外出の時間を大事にしたりすることで、子どもとよりよいコミュニケーションを取っていければと思います。
本記事のリリース情報
・スクリーンタイムと子どもの発達についてWelluluのインタビュー記事が掲載されました!
・スクリーンタイムと子どもの発達についてWelluluのインタビュー記事が掲載されました
2016年にPhDを取得(大阪大学大学院連合小児発達学研究科)。小児発達学博士。2015年大阪大学大学院特任研究員、2016年浜松医科大学子どものこころの発達研究センター特任助教を経て、2019年より現職。2014年より公益社団法人子どもの発達科学研究所の特任研究員を兼任。