脱「ゼロリスク信仰」へのススメ
〈情報混乱起きた新型コロナ「レプリコンワクチン」〉非科学的なフェイク情報の原因と影響
2024/10/22
これを見て、「レプリコンワクチン接種者は危険な感染性毒素を呼気から排出する」などの理由で摂種者の立ち入りを禁止する美容院やヨガスタジオが現れ、複数の医療機関までがこれに同調し、SNSはレプリコンワクチンの危険を煽るフェイク情報でにぎわっている。騒動のあまりの拡大に、ワクチン販売元のMeiji Seikaファルマは緊急声明に反論するとともに、新聞各紙の全面広告でフェイク情報に惑わされないよう注意を呼びかけた。このような非科学的な騒動が起こった原因とその影響を考える。
'); document.writeln(''); document.writeln('5種類の新型コロナワクチン
'); document.writeln(''); document.writeln('最初に、現在承認されている5種類の新型コロナワクチンを比較する。ファイザーワクチンは最初に承認されたmRNAワクチンであり、最も多く使われている。2番目に承認されたのがモデルナワクチンだ。これもmRNAワクチンだが、副反応が強く、接種部位が腫れて「モデルナアーム」を引き起こすなどの理由で避ける人がいたことは記憶に新しい。
'); document.writeln(''); document.writeln('3番目の武田ワクチンはmRNAワクチンではなく、米国のバイテク企業ノババックスが開発したスパイクタンパク質であり、遺伝子組換え技術を使って作成された。4番目は国産初の第一三共のmRNAワクチンである。
'); document.writeln(''); document.writeln(''); document.writeln(''); document.writeln('mRNAワクチンは体内でスパイクタンパク質を作る。これはウイルス表面のタンパク質だが、新型コロナウイルスの場合、スパイクタンパク質が人体の細胞表面にあるACE2受容体と結合することでウイルスが細胞内に侵入して感染する。他方、免疫系はこのスパイクタンパク質に対する抗体を作り、ウイルスの細胞侵入を抑えて感染を抑え、重症化を防ぐ。
'); document.writeln(''); document.writeln('もしウイルスを接種すると抗体ができるが感染してしまう。しかしスパイクタンパク質だけを接種すると、感染は起こらずに抗体を作ることができるのだ。武田ワクチンはスパイクタンパク質だけを体内に入れて、抗体を作らせる仕組みだ。
'); document.writeln(''); document.writeln('mRNAは不安定で、すぐに分解されてしまうため、細胞内にも体内にも残らない。だからmRNAワクチンの効果は短い。この欠点を解決したのがレプリコンワクチンである。
'); document.writeln(''); document.writeln('これはmRNAワクチンに自己複製因子を付け加えたもので、体内でmRNAを複製するので、効果が持続する。といっても自己複製効果は長くは続かず、8日目がピークで、その後mRNAは減少する。
'); document.writeln(''); document.writeln('フェイク情報を信じる本能
'); document.writeln(''); document.writeln('レプリコンワクチンに対する誤解が急速に拡大した理由は少なくとも3つある。第1は人間が持つ危険重視の本能であり、危険説と安全説があったときには危険説を信じることで自己の安全を守る。レプリコンワクチンのように新しいものや正体がよく分からないものには不安を感じて避けるのもまた危険回避の本能である(唐木英明、 小島正美 (著)『フェイクを見抜く「危険」情報の読み解き方』ウェッジ)。
'); document.writeln(''); document.writeln('とくにDNAやRNAなど遺伝子関係の用語はよく分からないだけでなく、気持ちが悪いと感じる人もいる。遺伝子組換え食品について「遺伝子が入っているから食べたくない」という意見を何人もの消費者から聞いた。mRNAワクチンに対しても同様の拒否感があるのかもしれない。
'); document.writeln(''); document.writeln('第2は直感で判断するという人間の特性である。レプリコンワクチンの安全性を判断するためには、少なくともDNAとmRNA、ウイルス表面のスパイクタンパク質、エクソゾーム、シェディング、転写と逆転写などの用語を理解する必要があり、安全を直感で判断することはできない。
'); document.writeln(''); document.writeln('他方、危険論者の「このワクチンは危険だから日本以外では承認されていない」、「このワクチンは自己複製型だから永遠に増え続ける」、「接種者から非接種者にワクチンが感染(シェディング)する」などの主張は分かりやすく、危機感に強く訴えるので信じられやすい。判断できないときには、「多くの人が信じていることは正しい」と思う本能もある。こうして、SNSの情報のほとんどが危険論であり、安全論が極めて少ないことは、個人の判断に非常に大きな影響を与える。
'); document.writeln(''); document.writeln('第3は、信頼できる人の意見を受け入れるが、信頼できない人の意見は拒否するという本能だ。安全を主張するワクチン販売企業や厚生労働省への信頼度は、危険を主張する学会やSNSよりずっと低いのだろう。こうして多くの人が危険情報を信じて、国民的誤解ができつつある。
'); document.writeln(''); document.writeln('ワクチンへの不安
'); document.writeln(''); document.writeln('レプリコンワクチンに反対する理由は3つに分類できる。1番目は昔からある根強いワクチン一般に対する不安、2番目は新たに出てきたmRNAワクチンに対する不安、3番目がさらに新しいレプリコンワクチンに対する不安である。
'); document.writeln(''); document.writeln('ワクチンに対する不安の原因はもちろん副反応である。どんなワクチンにもある副反応というデメリットと、感染防止というメリットをはかりにかけて、メリットが大きい場合だけ利用するのが原則だ。しかしそこに付きまとうのが、接種した人の実感の違いという問題である。
'); document.writeln(''); document.writeln('ほとんどのワクチンは健康な人が予防のために接種する。副反応が出た人は自身でそれを明確に認識して、被害者として声を上げる。他方、感染しなかった人は、それがワクチンのおかげなのか、接種しなくても感染しなかったのか分からない。だからワクチンの効果を確信を持って主張する人はほとんどいない。
'); document.writeln(''); document.writeln('その結果、巷に流れるのは被害者の声だけになり、ワクチン反対論が強くなる。これはすべてのワクチンに共通する問題であり、「ワクチンの悲劇」と呼んでいる。
'); document.writeln(''); document.writeln('次はmRNAワクチンへの不安だ。生物の遺伝情報を記録するDNAから、タンパク質を作る情報をコピーしたものがmRNAだ。この仕組みを利用して、スパイクタンパク質を作るmRNAを新型コロナワクチンとして実用化したのだ。
'); document.writeln(''); document.writeln('その技術開発に功績があったカリコ博士とワイスマン博士が23年のノーベル生理学・医学賞を受賞したことは記憶に新しい。ところがmRNAワクチンに対する偽情報はモデルナワクチンの接種が始まったときから流された。例えば不妊を引き起こす、ワクチン接種者が未接種者に病気を伝染させる、マイクロチップが埋め込まれていて摂取した人を追跡し管理するなどの陰謀論である。
'); document.writeln(''); document.writeln('mRNAワクチンは接種した人のDNAを変化させて恐ろしい健康被害を起こすなどのフェイク情報もあった。DNAは細胞内の核に含まれるが、mRNAワクチンは核に入ることはない。だからDNAを変化させることはないという基本的な知識が広がっていないためだろう。
'); document.writeln(''); document.writeln('レプリコンワクチンのシェディング
'); document.writeln(''); document.writeln('次はレプリコンワクチンに対する不安だ。これはmRNAワクチンの一種なので、mRNAワクチンと同様の荒唐無稽なフェイク情報が広がっている。他方、レプリコンワクチンだけのフェイク情報としてもっとも広く信じられているのは「シェディング」である。日本看護倫理学会の緊急声明は『レプリコンワクチンが「自己複製するmRNA」であるために、レプリコンワクチン自体が接種者から非接種者に感染(シェディング)するのではないかとの懸念があります』と述べている。
'); document.writeln(''); document.writeln('7月5日の武見敬三厚労相(当時)の会見で、一人の記者が日本看護倫理学会と同じ質問をした 。この記者はフェイク情報に精通しているようで、それらをまとめて、「ワクチン接種者の細胞内でmRNAが増殖してスパイクタンパク質を生成し、それらがエクソゾームという小さな袋に入って細胞から放出され、呼気を経由して他人に感染するシェディングという現象が起こるのではないかという懸念がSNS上などで多く見られる」として、見解を求めた。武見氏は、「シェディングという現象は存在しない」と切り捨てた。もちろん、そんなことが起これば、ワクチンを接種しなくても、摂種した人の近くにいるだけで免疫効果が得られる夢のような方法だが、それは幻想にすぎない。
'); document.writeln(''); document.writeln('ところがこの記者は納得せず、7月26日の記者会見で再び誤解に基づく質問を行った。厚労省文書に「増殖型組換えウイルスワクチンは新生児、妊婦及び免疫抑制状態の患者等への伝播リスクが高いことが想定されるため、ウイルス排出については、慎重に評価すべき」との記述がある。増殖型組換えウイルスワクチンというのはレプリコンワクチンに相当する。これについて大臣が知らないのは問題だ。そんな質問だった。
'); document.writeln(''); document.writeln('これに対して武見氏は、レプリコンワクチンはmRNAだが、増殖型組換えウイルスワクチンはウイルスであり、全くの別物であること、そしてレプリコンワクチンの臨床試験においてシェディングと呼ばれる事象は生じていないと答えた。記者は少なくとも自分の誤解には気が付いたと思うが、シェディングが起こらないことについて納得したのかは分からない。
'); document.writeln(''); document.writeln('海外では承認していないワクチン
'); document.writeln(''); document.writeln('日本看護倫理学会は、開発国である米国や治験を行ったベトナムでレプリコンワクチンが認可されていないことは、何らかの安全上の懸念があるのではないかとも主張している。これに対してMeiji Seikaファルマ社は、豪州の企業が欧州医薬品庁に承認申請を行い、米国などでも申請の準備が進んでいると反論している。海外で承認していないのではなく、承認の競争で日本が1着になり、各国は日本を追いかけているということなのだ。
'); document.writeln(''); document.writeln('このやり取りを見て筆者は、かつての民主党政権時代に、次世代スパコン開発者の「世界一を取ることで国民に夢を与える」という説明に対して、「仕分け人」の議員が「2位じゃダメなんでしょうか?」と発言したことを思い出した。mRNAワクチンを最初に発売したファイザー社に対して世界各国から供給依頼が行われ、21年7月に菅義偉首相(当時)が同社のブーラ最高経営責任者(CEO)と会談し、ワクチンの安定的な供給を依頼している。1位の企業は人々の健康維持に大きな貢献をするとともに、大きな収益を上げることが出来たのだ。
'); document.writeln(''); document.writeln('当時の日本では、なぜ国産ワクチンが開発されないのかが大きな問題になった。ところがレプリコンワクチンでやっと日本が1位になると、今度は2番目がいいという。目先のリスクを回避することしか念頭になくなるのが人間の本能だが、少なくとも学会は大所高所からの論理的な判断をすべきではなかったのだろうか。
'); document.writeln(''); document.writeln('ワクチンのメリットとデメリット
'); document.writeln(''); document.writeln('新型コロナワクチンの効果について厚労省は、2023/24シーズンで用いられたオミクロン株対応1価ワクチン(XBB.1系統)は入院を約40~70%程度予防したと述べている。その詳細は、国内では60 歳以上の入院予防効果が44.7%。海外では60歳以上の入院予防効果が70.7%、集中治療室ICU入室予防効果が 73.3%。18歳以上の入院予防効果が62%、救急受診予防効果が58%などである。
'); document.writeln(''); document.writeln('他方、新型コロナワクチンの副反応について厚労省は21年2月から24年6月10日までの3年4カ月の認定件数を7458件、死亡認定を618件と発表している 。これに比べて、新型コロナワクチン接種が始まる前の1977年から22年の46年間の認定者数は3522人、死亡認定は151人である。摂種した人数が分からないので、1977年から22年の副反応の確率は分からない。
'); document.writeln(''); document.writeln('新型コロナワクチンの接種者は、4回の接種が行われた23年4月の時点で4億3619万3341人だった 。この数字から計算すると、副作用が起こる割合は100万人当たり17人、死亡者は100万人当たり1.4人になる。インフルエンザワクチンによる副反応は100万人当たり4.9人、重篤報告は1.6人なので 、新型コロナワクチンの副反応の確率は確かにインフルエンザワクチンより高い。レプリコンワクチンの副反応情報はまだないが、従来のmRNAワクチンと同様の数字になるのではないかと考えられる。
'); document.writeln(''); document.writeln('それでは今後の接種は誰が受けるのだろうか。公費による希望者全員接種は3月で終了し、10月から新しい方式が始まった。それが定期接種(B類)である。
'); document.writeln(''); document.writeln('対象は65歳以上の高齢者と、60~64歳で心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される人などである。さらにワクチンの効果と副反応を理解のうえ、自分の意思と責任で接種を希望する人に限る。
'); document.writeln(''); document.writeln('主に子どもが受ける定期予防接種A類と異なり、積極的な接種勧奨は行っていない。新型コロナワクチンの接種費用は高額で1万5300円だが、8300円を国が負担し、残りの7000円を自治体と接種を受ける人が負担する。自己負担額は地域に異なるが、筆者の居住地区では2500円である。
'); document.writeln(''); document.writeln('定期接種対象外の65歳以下の人が希望する場合は、1万5300円を全額自己負担すれば接種できる。しかしワクチンの効果と副反応を理解したうえで、高額の料金を支払って接種する人はどれだけいるだろうか。
'); document.writeln(''); document.writeln('日本看護倫理学会の責任
'); document.writeln(''); document.writeln('今回の出来事で筆者は日本看護倫理学会の名前を初めて知った。日本看護系大学協議会に所属しているが、主要な学会が参加する日本学術会議協力学術研究団体には所属していない。その学会が明らかなフェイク情報を緊急声明として理事長名で発信した意図は理解できないが、理解できることはその判断の根拠がお粗末であることだ。
'); document.writeln(''); document.writeln('マッキンタイアは科学否定論者に共通する特徴について述べている。それは、①都合がいい証拠だけを取り上げる、②陰謀論への傾倒、③偽物の専門家への依存、④非論理的な推論などである(リー・マッキンタイア (著)『エビデンスを嫌う人たち: 科学否定論者は何を考え、どう説得できるのか? 』国書刊行会)。
'); document.writeln(''); document.writeln('日本看護倫理学会の、レプリコンワクチンは日本以外の国で承認されていないのは安全性に問題がある、ワクチン自体が接種者から非接種者に感染(シェディング)する、ワクチンがヒトのDNAを変化させるという主張は非論理的な推論そのものであるとともに、都合がいい証拠だけを取り上げ、偽物の専門家に依存している。さらに声明全体からは「国は国民の健康より企業の収益を重視している」という陰謀論の影を感じるのは筆者だけだろうか。
'); document.writeln(''); document.writeln('緊急声明に対して学会には多くの批判の声が届いているようだが、なかには事務局や理事会メンバーに危害を加える内容のメッセージがあったとして学会は理事名簿を非公開にした。フェイク情報を流して社会に混乱を起こした学会の責任は大きいが、それはあくまで冷静な議論で解決すべき問題であり、過激な行動で得るものは何もない。
'); document.writeln(''); document.writeln('最も重要なことは学会が理事の名前を隠すことではなく、説明責任を果たすことである。極めて残念なことに、この原稿を書いている10月20日の時点で、学会は多くの批判に対して一切答えていない。
'); document.writeln(''); document.writeln('騒動を乗り越えて
'); document.writeln(''); document.writeln('10月1日から高齢者の定期接種が始まった。筆者は国産ワクチン応援のためにレプリコンワクチンを接種しようと考えて、医療機関合計10カ所に問い合わせたところ、すべてがファイザーワクチンだけで、レプリコンワクチンを取り扱う予定はないという。その理由は尋ねなかったが、容易に想像できる。
'); document.writeln(''); document.writeln('Meiji Seikaファルマの小林大吉郎社長は、レプリコンワクチンを導入した医療機関に対して誹謗中傷や脅迫が寄せられ、ワクチンの供給に支障が出ていることを明らかにした。そして批判を繰り返す団体を名誉毀損で提訴する方針を示した。
'); document.writeln(''); document.writeln('22年11月時点で、各社のワクチンの市場占有率はファイザーが76.62%、モデルナが23.28%、武田が0.07%だった。この状況は現在も大きくは変わっていないだろう。
'); document.writeln(''); document.writeln('ファイザーとモデルナの2種類で全体の99.9%を占めるということは、この2つがブランド化していることを示す。これに加えて、ワクチン接種者の数が急速に減っている。これだけでも新たに開発された国産ワクチンの前途は厳しいところを、レプリコンワクチンはいわれのないフェイク情報のためにさらに厳しい状況に追い込まれている。
'); document.writeln(''); document.writeln('そんな中で、モデルナ社が神奈川県藤沢市にmRNAワクチンなどの製造拠点を設置して、感染症の大流行が起きた際には迅速に対応する方針を発表した。新型コロナが突然起こったように、次の感染症がいつかは必ずやってくる。
'); document.writeln(''); document.writeln('その時のために、ワクチンを迅速に開発して供給する体制が必要だが、それを海外企業に任せるのではなく、国内企業が行うべきことは新型コロナ騒動の大きな教訓である。そのためにも、無責任なフェイク情報に惑わされることなく、国産ワクチンの普及にぜひ協力していただきたい。
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