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チンパンジーが配属されてきたら、あなたはどうマネジメントする?

Last updated at Posted at 2025-12-01

予防線を張る

※この記事に登場する人物・団体はすべてフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、この記事は個人が書いたものをそのまま投下しているため、所属組織の見解とは異なる可能性がございます。あらかじめご了承ください。

極端なシナリオ

チンパンジーがあなたのチームに配属されたとき、あなたは何をすべきなのでしょうか。

哺乳綱、霊長目、ヒト科、パン属、チンパンジー。同じくパン属のボノボと並んで、我々、ヒト科ヒト属ホモ・サピエンスに最も近しい種です。

あなたは動物園のスタッフではなく、5 人からなるソフトウェア開発チームを束ねるエンジニアリング・マネージャーです。その開発チームに、チンパンジーが配属される見通しです。このチンパンジーというのは、特定の人物の婉曲表現ではなく、本当の類人猿のチンパンジーです。

採用を決めた社長は、全社会議でこう言っていました。

「パンジくんの握力は、312kg もあります! まだ 16 歳と若いですが、人ならざるこの握力は、当社のビジョンを実現する上で大いに助けになってくれるでしょう!」

名前はパンジくんというらしいです。
我々人間の男の平均的な握力は 45kg 程度だとして、6 倍以上のスコアを叩き出しています。
握力の世界記録保持者はスウェーデン出身のマグナス・サミュエルソン氏と言われており、その記録は 192kg。人類の最高峰と比較してもダブルスコア近い数値を叩き出しています。

握力が必要な状況下では、あなたよりもパンジくんは間違いなく活躍するでしょう。ただ、ソフトウェア開発に握力は不要に思います。

パンジくんの配属は 3 ヶ月後に決まっています。さて、配属先のマネージャーのあなたは何をしますか。

マネジメントが失敗する場合

配属予定のチンパンジーは 16 歳のオスだそうです。

日本では、16 歳であれば労働基準法上、労働者として働くことができます。
18 歳未満は年少者であるので、36 協定による時間外・休日労働をさせることはできません。そもそもチンパンジーが開発業務をすることは困難であることが予想されます。

「社長がよく分からないことを言うのはいつものことですし、まぁ、なんとかなるでしょう。仕事はできないだろうから、放っておけば良いし。マスコットになってもらう感じで、チーム内で交代でお世話しましょう」

あなたは決して怠惰なマネージャーではありません。むしろ、日々のマネジメント業務には熱心でした。
配属までの3ヶ月間、あなたはいつも通り、スプリントプランニングでは完璧なファシリテーションをこなし、ベロシティの安定化に喜びを感じていました。メンバーとの1on1も欠かさず実施し、「最近どう?」「キャリアプランは?」と問いかけ、心理的安全性の確保にも努めているつもりでした。

ただ、「チンパンジーが来る」という前例のない事態については、「さすがに総務部か、人事部(一応ヒト科だし)あたりが準備をしてくれているのでは?」と楽観視し、自分の「通常の」マネジメント業務の範囲外の問題として、意図的に思考から外していました。

ある日の1on1で、メンバーがこう言いました。

「そういえばそろそろパンジくんが来る頃じゃありませんか? 本当に大丈夫なんですか?」

そういえばそんな話があったと思い出し、あなたはメンバーにこう答えました。

「あぁ。何も連絡がないので、その話はなくなったのかもしれないですね」

***

配属初日――。

朝、飼育員がチンパンジーを伴って現れます。体重は 56kg。筋肉隆々。全身に生える黒い体毛。人間よりも明らかに長い腕。眼光は鋭く、こちらを警戒しています。革手袋までした完全防備の飼育員がしっかりとリードを握る中、フロアの入口でチンパンジーが立ち止まりました。

「こちらがパンジくんです! 人の言葉もある程度理解できますし、身の回りのことも自分でできますが、オスの成獣のチンパンジーは、時に凶暴です。ご注意くださいね!」

パンジくんは静かにあなたの顔を見つめ、鼻を鳴らしました。チーム全員が思わず息を飲みます。

「凶暴……?」

動物バラエティ番組のチンパンジーしか知らない開発メンバーたちには、馴染みのないワードです。

飼育員からリードを手渡されたあなたは、部下にリードをそのままたらい回しました。部下はどうすれば良いのかわかりませんでしたが、パンジくんは勝手に椅子を動かして、部下の座席によじ登りました。

座席には MacBook と、高価そうなマウスが置かれています。パンジくんはマウスが気になったため、右手で持ち上げます。涼しげな顔で、手を軽く握っているだけに見えますが、プラスチックが軋む音が、あたりに鳴り響きます。

税込1万円を超える高級デバイスが、ただの燃えないゴミへと分別されるまで、1秒とかかりませんでした。

パンジくんは真っ二つになったマウスの中身を確認すると、興味を失ったのか、後ろに放り投げました。プラスチックと基盤の残骸が、タイルカーペットに無惨に散らばります。

静まり返るオフィス。あなたは乾いた笑みを浮かべ、心理的安全性に配慮しながら、こう言いました。

「ま、まぁ……初日ですから、そんなこともありますよね」

まずいかもしれない。開発メンバーたちの背中に冷や汗がつたいました。

***

たった数日で、さまざまな問題が発生しました。

  • パンジくんは人間の言葉を理解しているように見えるが、指示に従う気はない
  • 警戒心が強く、チームメンバーが近くを通ると、大音量で鳴き叫び、威嚇する
  • 食事にこだわりがあり、昼食に用意されたバナナが気に入らず、自分のウンコを投げつける事件が発生

パンジくんの存在によって、開発メンバーは全く仕事に集中できなくなりました。

ある日、決定的な事件が起きます。

パンジくんの横暴を見かねたメンバーがパンジくんを注意したその時、パンジくんがメンバーに襲いかかったのです。メンバーは流血していますが、パンジくんの怒りは収まる気配を見せません。

メンバーの一人が 110 番しました。

『事件です! オフィスでチンパンジーが暴れています!』

1人のメンバーが、パンジくんに噛まれて悲鳴を上げました。プログラマにとって命の指を噛み切られました。また、別の2名も怪我を負いながらパンジくんを止めようとしていますが、チンパンジーの力は強く、動きも早く、取り押さえることができません。

ショッキングな光景を、マネージャーのあなたはただ見ていることしかできませんでした。

警察が到着して、パンジくんを射殺しました。

***

5人の部下のうち、1人が大怪我を理由に休職し、2人が PTSD を負いました。その恐ろしい出来事が起きたあと、メンバーは相次いで退職し、チームは崩壊し、アプリケーション開発が止まりました。

あとから分かったのですが、パンジくんの飼い主は、膨大な金額を会社に出資してくれていた投資家でした。パンジくんが命を落としたことにより、社長は罵声を浴びせられ、融資は停止しました。

さらに、メディアでこのショッキングな出来事は盛んに報道され、ペットのチンパンジーのずさんな管理体制が明らかになった会社は炎上しました。

やがて会社は資金繰りに窮して倒産し、あなたは職を失いました。マネジメント大失敗です。

あなたはどうすればよかったのでしょうか?

マネジメントが成功する場合

『パンジくんの握力は、312kg もあります! まだ 16 歳と若いですが、人ならざるこの握力は、当社のビジョンを実現する上で大いに助けになってくれるでしょう!』

社長、ご乱心――?

全社会議で社長が意味のわからない発言をして、パンジくんの配属が決まったその日。チンパンジーの上司となるあなたは、まず配属を決めた社長に話を聞きに行きました。

社長は笑顔で答えました。

「これは全社会議では言えなかったのですが、パンジくんは、我が社の最大の出資者である一条さんのペットです。一条さんは多忙すぎて面倒が見られないらしく、『幸せな生活をさせてあげてほしい』と相談があり、当社で責任を持つことにしました」

「なるほど? つまりパンジくんにとって十分な環境を探せば良いということで、必ずしも当社で飼う必要はないということですか?」

「いえ、基本的に当社が責任を持って飼います。一条さんは月々 5000 万の追加投資を約束してくれていますが、この中にパンジくんの飼育費も含まれていると思ってください。もっとも私自身も、パンジくんという異色の存在が、会社にとって良いシナジーをもたらしてくれることを期待しています。当社の中で若くて頭の切れる君なら、パンジくんの持つバリューを最大限発揮してくれると信じて、パンジくんの配属先を形式上、君の部署にさせてもらいました」

「さすがにオフィスで飼うわけではありませんよね?」

「当社とのシナジーを期待しているので、オフィスが理想的であると思っています」

むちゃくちゃですが、どうも社長はオフィスでチンパンジーを飼いたいらしいです。あなたは深く息をつき、言いました。

「分かりました。ただ、開発チームだけで手に負える案件ではありません。全社的なプロジェクトとしてリソースを動かす権限を頂きたいです。……ところで、握力でビジョンの実現がどうとか言っていたのは?」

「あれは冗談に決まっているでしょう」

笑いながら言う社長に殺意が湧いてきましたが、笑顔で押し殺しました。
チンパンジーがオフィスに来ることも冗談であって欲しかった。

***

自分と部下だけでは課題の解決が難しいと感じたあなたは、ただちにエスカレーションを行い、総務部、法務部、人事部、その他志願者などからなる部門横断のパンジくん対策チームを結成しました。
法務部の担当者に、有識者を求めて動物園に行き飼育員への聞き取りを行かせたり、法的な問題がないかを調査させたりしました。そして Web 上に公開されている飼育のための PDF 情報を参照するなどして、以下のような知識をチーム内で共有することができました。

  • 成獣オスのチンパンジーの行動特性
  • 飼育するのに必要な設備
  • 特定動物(法律で指定されている危険な動物)の取り扱いに関する法律・条例
  • 猛獣をオフィスに置く法的リスク、噛まれた時の労災の判断

調査の初期の段階で、16歳オスのチンパンジーの凶暴性や、オフィス内で放し飼いをした時のリスクに気づくことができました。「危険ですが、本当に飼いますか」と、猛獣と言って差し支えのない生物の飼育を再度社長に確認しましたが、社長は「飼う」の一点張りでした。幸いなことに、継続して専門的な知識を得るために動物園と顧問契約を結ぶことができました。顧問契約は人事部の担当者が行ってくれました。

並行して総務部を中心に、複数の会議室を完全に潰して飼育室に転用するプロジェクトを開始。施工管理業者にも依頼して以下のような準備を進めます。

  • 特定動物の飼育要件を満たすため、会議室の壁面ガラスを分厚いアクリル板に置き換え
  • 会議室に元からあったエアコンを転用しつつ加湿管理もできる仕組みを導入
  • 遊具の設置(遊具自体はオーナーの投資家側から譲り受けることができた)
  • 飼育専用カメラを 24 時間稼働。監視体制を構築

パンジくんお迎えのため会議室が使えなくなり、社員は会議のための別の手段を取らざるを得なくなりました。

幸いなことに、この会社は過去にリモートワークを実践していたことがあったため、社内システムを担当する部署に VPN アカウントの発行を依頼し、即座にリモートワークに切り替えることができそうです。

許可を取った後、全社員に向けて Slack で通達します。

@channel 【重要】○ 月 × 日より、チンパンジーのパンジくんが当社に在籍しますが、新しい環境に慣れていただくまで担当者以外の接触を原則禁止とします。

パンジくんお迎えに伴ってオフィスを改装するため、リモートワークが可能な社員は原則リモートでの出社をお願いします。
パンジくん来社後も、パンジくんが環境に慣れるまでストレスを与えないよう、むやみに出社したり観察したりしないようお願いします。

チンパンジーが来るという前例のない事態に対して着々と準備が進んでいきます。準備が進む中、ふと冷静になって、「本当にこの判断で良かったのか」「まだなにか準備し足りないところはないか」とマネージャーのあなたは不安に思うこともありましたが、チンパンジーが来ることは確定しているのでとにかくベストを尽くすしかありません。これだけ頑張って無理だったのならば、どう考えても社長が悪いです。

***

着任当日、パンジくんは会議室を改造したケージに入りました。飼育員が慣れるまで付き添い、パンジくんは静かに周囲を観察していました。

最初はパンジくんは警戒心が非常に強く、スーパーで買ってきた安いバナナにキレ散らかしてウンコを投げ、鳴き叫ぶこともあったのですが、飼育担当の社員が熱心に世話をするのを見て、やがて心を開いてくれるようになりました。幸いなことにパンジくんは非常に賢く、すぐにトイレを覚えてくれたため環境の管理は非常に楽でした。また、多くの社員はリモートワークを行っていたため、パンジくんの鳴き声に集中を乱されることもありませんでした。

パンジくん対応チームの責任者となっているあなたは、飼育をしてくれている社員の、本来の業務に対しても配慮し、同時に特殊な業務の対応に対して手当をつけるよう社長に進言しました。なにせ相手は生き物です。会社が休みの土日もお世話が必要になります。社長はそれを快く承認しました。パンジくんのオーナーから貰っている融資額は月 5000 万です。晴れやかな気持ちで承認できます。

飼育担当の社員を通じて、パンジくんは徐々に他の社員とも信頼関係を構築できるようになりました。

パンジくんは 16 歳のオスなので、適度な距離感は大切にしないといけませんが、パンジくんと特に関係が良好なあなたの部下は、ケージのすぐ前で MacBook を開いて開発業務をできるくらいになりました。

パンジくんが MacBook を興味深げに眺めていたので、彼は試しにケージ越しにマウスを手渡してみました。
マウスを手渡されると、パンジくんは興味を持ってじっと観察し、ゆっくりと圧力をかけて粉砕しました。

この出来事に目をつけた広報部は、会社の知名度向上にパンジくんを起用しようと思い立ちました。パンジくんのオーナーに許可を取った後、マウス粉砕は動画化され、SNS の広報アカウントを通じてネット上に投下されました。

***

『会社の開発部門にチンパンジーが所属している!?』

ネットで派手にバズりました。粉砕されたマウスの型番は底面にケーブルを繋がないと充電できない仕様がしばしば話題になっていたので、「マウスが充電しながら使えない欠陥を即座に見抜いて握りつぶすなんて、このチンパンジーはスティーブ・ジョブスの意思を受け継いでいる」などともてはやされ、特にガジェット界隈で話題になりました。

会社は、その話題性に気づいたマスメディアからの取材を申し込まれました。

「チンパンジーがエンジニアチームに在籍している企業があると聞き、ぜひ取材させて頂きたく存じます」

***

「……種を超えて、未来を切り拓くのが我々のミッションです。パンジくんは従業員であると同時に、我々の価値観に揺さぶりをかけるメンターなのです」

本当は投資家のペットを代わりに飼っているだけですが、社長はそれっぽいことを言って、メディアの取材にうまく対応しています。

「少子高齢化でこれからどんどん人的リソースが減っていく現代社会の中で、多様な働き方、多様なスキル、多様なバックグラウンドを持つ人々との協業を、私達は実現する必要があります。もし、人から見て最も近縁なチンパンジーとともに働くことさえ可能であれば、つまり私たちは、あらゆる人と協業できる可能性を証明したことになるのではないだろうか? そのような仮説と信念のもと、私はパンジくんとともに働いていく決意を致しました」

社長はオフィスでチンパンジーを飼う経営判断をした狂人ではありますが、パフォーマンスは超一流です。
この取材は多様な働き方を認める文脈の中で、大きな話題となりました。
チンパンジーを迎えるために即座にリモートワークに移行するなど、アグレッシブで柔軟な施策をとる会社として、会社は知名度を向上させることができました。

さらにその熱が冷めないうちに、広報部はパンジくんの部屋をライブ配信する企画を立ち上げて実行、多くの視聴者を獲得。パンジくんは、動画プラットフォームの月間収益で 100 万円を稼ぐほどになりました。

パンジくんが単体で稼ぐ金額自体は、飼育にかかる人件費、電気料金、工事費、餌代、動物園との顧問契約料などを考えるとトントンどころか若干マイナスになる程度でしたが、会社は広告宣伝費を浮かせつつプレゼンスを向上させることができ、事業に貢献することができました。

「株式会社〇〇? ああ、知ってますよ! チンパンジーと仕事してる会社ですよね! 一回話を聞いてみたいと思っていたんですよ!」

そして、無茶振りをしてきた社長はあなたが果たした役割をしっかりと評価してくれました。

「チームの生産性を下げることなく、投資を継続させることができ、さらには当社の知名度が向上できたのは、あなたの初動が果たした役割はとても大きい! 大変な功績だ!」

自分の部署にチンパンジーが配属される。その破壊的な激流をあなたはうまく乗りこなし、最大の成果を創出することに成功しました。

HAPPY END!

何が言いたかったのか

2つのシナリオを見てあなたは何を思ったのでしょうか。

「リアリティのある話じゃない!」

そう。私もそこはもうちょっとどうにかできたら良かったのですが、私の実力ではこれが限界でした。社会的な動物であるチンパンジーを一頭だけで飼うのはチンパンジーにとって良くないだろとか、投資家がペットを飼えなくなった時に投資先に任せるなんて普通ないだろとか、飼育設備も自治体の許可もないのに特定動物を移動するのは動物愛護管理法違反だろとか、ちょっとご都合主義なところは多いと思います。

でも私は、チームを破壊する大問題が向こうからやってきてしまった時に、何をするのがマネージャーの仕事なのかを、みなさんに考えてもらいたかったのです。その上で、パンジくんは良い役割を果たしてくれたように思います。事実は小説よりも奇なり。現実世界にはパンジくんよりも取り扱いが難しく、取り扱いを間違えた時のダメージが大きい問題がきっとあることでしょう。

「チンパンジーが悪い!」

チンパンジーに言ってもしょうがないです。だってチンパンジーですから。

「いきなり相談なくチンパンジーを配属させる社長が悪い!」

それはそうかもしれません。ですが、単純な良い/悪いの視点だけで見て欲しくはありません。
上記のシナリオでは、あなたが何もしない場合に部下が傷つき、チームが壊れ、会社が潰れ、職を失うという事実があります。そこに良いも悪いもありません。
問題を解決するためにあなたが動くことで、それを防ぐことができるかもしれない。会社という組織の中で、この問題解決のために一体誰がリーダーシップを発揮できるのか? それを一度考えてみて欲しいのです。

「もしこのパンジくん対応の仕事がマネージャーのキャパシティを超えてしまったら?」

「月 100 時間の残業をしてもパンジくんお迎えの準備が終わらない!」……実際にありそうなのがリアルの辛いところです。
そんな状況を頻繁に強要する会社であったらさすがに辞めるしかありません。ただ、3ヶ月後の受け入れは無理だとアラートを上げたり、扱う問題が大きすぎると社長に突き返したり、お迎え中止を目指したり、部下とチンパンジーが鉢合わせしないようチンパンジーを閉じ込める、受け入れ準備が整うまで投資家に待ってもらう、チームメンバーだけでも安全のためにリモートワークさせるなどの別の対策は取れるはずです。健康を害しない範囲で、できることが多少はあるはずです。問題を解決するために取り組むことが大事と私は言いたいだけで、世知辛いことに、問題を本当に解決できるかは対応する人々の力量次第です。
時には頑張らないといけない場面も仕事では多々ありますが、健康は犠牲にはしないでください。健康が一番大事です。

「こんなのマネージャーの仕事じゃない!」

本当にそうでしょうか?

「マネジメントが成功する場合」では、エンジニアリングマネージャーが、普通やらないような仕事をしていました。スクラムイベントを運営して開発プロセスを改善するわけでもない、1on1 をするわけでもない、後輩の技術指導をするわけでもない、ワークフローの承認作業をするわけでもない。

ただひたすらチンパンジーをお迎えするために奔走しただけです。パンジくん対応チームの責任者になり、チンパンジーについて学び、会議室を潰して飼育ケージを作るよう依頼し、パンジくんにみんなの仕事を邪魔させないよう、パンジくんにストレスをかけないよう、全社のリモートワーク移行を主導しました。

「マネジメントが失敗する場合」のマネージャーは、普通のマネージャーがやるような仕事を、ただただまっすぐに行っていただけでした。逆に「マネジメントが成功する場合」のマネージャーは、パンジくんの対応のために一時的に開発チームでの働きをすべて休止していた可能性があります。けれども結果として、前者は会社が潰れ、後者は会社の知名度向上に貢献しています。後者については、ここまでうまくいかないのが現実であるとしても、前者のマネージャーのチームが壊れてしまうのには納得感がありませんか。

もしチームや組織を破壊しうる問題が現れたときでも、「その対応は自分の仕事じゃない」と無視し、1on1や承認作業などの「マネージャーがよくやる仕事」だけを行うマネージャーがいるとしたら、その人は部下から支持されるでしょうか。そのチームは健全に機能していると言えるのでしょうか。

マネージャーの仕事とは、なんだと思いますか?

マネージャーの仕事とは

「マネジメント」のマネージ(manage)するとは、管理することではなく、なんとかすることだ、とよく言われます。manage to do とは、「何とかして~する」「どうにか~する」という意味です。

マネジメントの父と言われる P.F.ドラッカーはマネジメントを「組織として成果を上げさせるための、道具、機能、機関」(P.F.ドラッカー『明日を支配するもの』p45)と定義しています。

マネージャーの仕事は、組織として成果を出すことです。会議のファシリテーション・1on1・心理的安全性・部下の教育・評価さえも、そのための手段に過ぎませんし、必ずしもすべての状況下で最適な手段とも言い切れません。誤解のないように言っておくと、それらの「手段」はとても大切で効果的なものだと私は考えています。その手段の効果について知り、現状に照らし合わせた上で使うことこそが重要で、手段と目的を決して取り違えてはいけないと言いたいのです。

例えば、チンパンジーにウンコを投げられてメンバーが逃げ惑い、開発できていないのが明らかなのに、「開発のベロシティ計測がしたい。チーム内で開発のベロシティがより計測しやすい新サービスの導入を進めていきます」とマネージャーが決定するのは、目的に対して正しい手段を取れていない状態です。「それは大事かもしれんけど、少なくとも今じゃないだろ!」って思いますよね。

手段に振り回されてはいけません。どんなにファシリがうまかったとしても、どんなに迅速に承認作業をしてくれたとしても、すべてを破壊するチンパンジーを放置してしまえば、マネージャーとしては失格です。なぜならばチンパンジーを放置した場合、開発メンバーは開発に集中できなくなり、大怪我を負い、自分の開発チームは組織として全く機能しなくなり、成果を上げられないためです。

補足すると、ここでいうチンパンジーはトラブルの婉曲表現であって、常に人物を指すものではありません。取り扱うべき問題全般を指します。もしかしたら、あなたの開発チームにおけるチンパンジーは、低スペックな開発PCかもしれませんし、レガシーな社内システムかもしれませんし、積み上がった技術負債かもしれませんし、要件のすべてをひっくり返そうとする顧客かもしれません。

チンパンジーがすべてを破壊する状況下では、マネージャーがチンパンジーのコントロールを主導し、他のメンバーが開発に集中できる環境を整え、チームとして成果を出せる状況を作らなくてはいけません。マネージャーにはそれをするだけの権限や給料が必要ですし、同時に、マネージャーがたった一人で 1 から 10 まで何もかもをする必要もありません。仕事を適切に分割して他の部署や部下の協力を仰ぐのもありです。

組織として成果を出す責任を果たすために、会社から頂いている給料分くらいは、マネージャーができることはなんでもやらないといけません。「何とかして成果を出す」のがマネージャーの仕事なのです。

あなたは、組織のためのマネジメントをできていますか? 定型作業や承認作業をこなすだけのマシーンになってはいませんか? 組織を破壊するチンパンジーから目を背けてはいませんか?

おわりに

この記事は、私が過去に所属していた企業でマネージャーをやってみたときに考えたことを出力したポエムです。極端な状況が向こうからやってきたときに、マネージャーとして何をしないといけないんだっけ、というのを考えた思考実験のようなものです。今はマネジメント業から離れたので、逆に好き勝手書けました。「おらチンパンジー来たぞ対応しろよ」と部下に言われる可能性がないので気楽なものです。

もし、このポエムを読んで気を悪くした方がいたらごめんなさい。誰かを傷つけたり、刺したりする意図は本当に全くありません。読み方によっては「このチンパンジー/マネージャーは俺のことを指しているのでは」と思う人がいるかも分からないですが、このフィクションの内容は特定の個人や状況を意識したものではありません。ダサいかもしれませんが、最後にもう一度だけ予防線を張らせてください。
あとはオフィスで猛獣を飼うことは普通に安全配慮義務違反になり得ます。良い子は決してチンパンジーをオフィスで飼おうとしないでください。

ということで、今回の記事を締めくくりたいと思います。あなたの今後のマネジメントに幸があらんことを!

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