こんな作業用BGMサイトが欲しかった

「はたらけミュージック」というウェブサービスを作った。ウェブ研の21個目の制作物である。
 そして、これは僕がずっと欲しかった作業用BGMサイトだ。

 もともと僕自身は、作業用BGMサイトとして「GetWordDoneMusic.com」を使っていた。これは非常にシンプルなサイトで、ボタンを押せばSoundCloudの人気楽曲の中から一定のテンポのエレクトロニカを順次流すというだけのサイトだ。
 なんともシンプルなサイトだが、上手くツボを押さえていた。速めのテンポで刻まれるビートによって、自然と集中状態へと誘われた。

 しかしだ、ツボしか押さえていないため、問題もあった。

 まず第一に、音量の調節が出来ないことに悩まされた。そんなものはデバイス側で調節すればいいと思うかもしれないが、そうはいかなかった。
 デフォルトの音量が大きめなのである。
 iPhone付属のイヤホンや一般的なカナル型イヤホンだと小さな出力でも大きな音になりがちなので、デバイス側で音量を最小にしてもそこそこ大きい音になってしまう。
 もちろん聞けないほどの大きさではない。「曲を聴きたい」という気分ならばちょうどいい音量だ。
 だが求めているのは作業用BGM。やや音量を落として、一種の環境音にしておきたいのだ。最初は特に気にしていなかったが、日常的に使うようになると段々そこにストレスを感じ始めた。

 第二の問題は、エレクトロニカしかないということだ。
「ドッドッドッドッ」とハイテンポな四つ打ちが自らの鼓動とリンクするように感じられ、意識が先鋭化されていく……なんていう経験は何度もあった。しかしその一方で、長時間聞いていると重たく感じることもよくあった。選択肢がエレクトロニカしかないというのは、音量を小さく出来ないのと相まって聞き疲れを助長した。

 第三の問題は、楽曲リストの貧弱さである。
 一見、次から次へと新しい音楽が流れ、新鮮さを失わないサイトだ。
 だが日常的に使ってみると、同じ曲に何度も当たることが珍しくない。そうして大きめの音量で「ドッドッドッドッ」と音圧の高いものが流されると、新鮮さは倦怠感へと変わっていく。

 このように、GetWordDoneMusicはツボを押さえているが、ツボしか押さえておらず、痒いところに手を伸ばしてくれなかった。

 普通はまぁそれはしょうがない、で済む話だ。
 だが日常的に使っていたので僕は痒さに我慢出来なかった。
 そうして「はたらけミュージック」を作ることになったのだ。

 はたらけミュージックの主な機能はGetWordDoneMusic.comとさほど変わらない。
 SoundCloudから人気楽曲を持ってきて順次流すだけである。

 しかし、周辺機能で自分の痒いところにしっかり手が届くようになっている。

 まず音量だ。
 音量を小さく出来るのだ!
 これは1サイトとしては小さな機能だが、GetWordDoneMusicユーザーにとっては偉大な飛躍である。

 そして次に、再生するジャンルをいくらか選択できるようにした。
 デフォルトのプレイリストは3つで、エレクトロニカのリストと、ハイテンポなエレクトロニカのリストに加え、ジャズとクラシックを流すリストを作った。
 それぞれ「のんびり働く」(ジャズ・クラシック)、「普通に働く」(エレクトロニカ)、「バリバリ働く」(ハイテンポなエレクトロニカ)という名前のリストになっている。
 もちろん自分好みのジャンルやテンポを設定して保存することも出来る。気に入った曲をサイト上でお気に入りすることも出来る。
 各種設定や再生履歴、音量などは、ローカルストレージによってログイン等の機能なしでしっかり保存される。

 さらに楽曲のリストも大幅に強化している。
 GetWordDoneMusicではあらかじめ運営者が作ったリストを再生しているのだが、はたらけミュージックではリストの生成をすべて自動化し、常にある程度の新鮮さを保つようにしている。

 それだけではない。
 はたらけミュージックはブラウザの拡張機能によって劇的に利便性が向上する。

 楽曲の再生/停止、進む/戻る、音量調節をブラウザの上部をワンクリックするだけでコントロール出来るのだ。
 開いているタブがはたらけミュージックでなくても、バックグラウンドでちゃんと動いてくれる。
 はたらけミュージックを開いているタブが一つもなくても、拡張機能のボタンを押せばバックグラウンドではたらけミュージックを開いて自動で再生してくれる。もちろん再生するプレイリストや、再生時の音量は前回開いた時のものを維持しているので、はたらけミュージックのタブを一切確認することなく、本当にワンクリックで自分に最適化された作業用BGMを手に入れることが出来るのだ。
 現在拡張機能はGoogle Chrome用だけでなく、Firefox用も制作してある。(Firefox用はもうすぐ公開予定。)

 まだ完全とは言えないが、こうして出来上がったはたらけミュージックは、自分の中では最も理想に近い作業用BGMサイトになった。

 こういうウェブサービスを作ると、本当に作って良かったと思える。
 人気や広告収入なんて最初から度外視している。ただ理想を形にしたかった。

 どんな理想を持っていても、人に語っても、形にしなければ伝えられない。
 そしてその理想がどれほど崇高だろうと素敵だろうと現実的だろうと、形になっていないとそれは「わがまま」と大差ない。

 しかし形にしてしまえばその意味は大きく変わるものだ。

 僕は、こんな作業用BGMサイトが欲しかった。

 ――ウェブ研21号「はたらけミュージック」