黄金の拳闘月間まとめ

ここ1ヶ月ほど、ボクシング界では世界タイトルマッチやそれに準じる有力選手の試合が目白押しとなり、われわれファンをおおいに興奮させてくれました。そろそろ一段落したので、この辺でざっくりまとめておきます。

4月16日

大阪府立体育会館で、WBC世界バンタム級王者の山中慎介(帝拳)が、同級7位のディエゴ・サンティリャン(アルゼンチン)を挑戦者に迎えてのV8防衛戦。低い姿勢で死角からの右オーバーハンドを狙う挑戦者を、山中は多彩な角度から繰り出す右のリードで終始圧倒し、6回と7回に必殺のコークスクリュー“神の左”でダウンを奪ってKO勝ち。

前座では辰吉丈一郎の次男、辰吉寿以輝(大阪帝拳)がKO勝ちでデビュー戦を飾るものの、ディフェンス面ではキャリア後半の父親にそっくりな粗さを見せ、未熟さを隠せなかった。

4月22日

大阪府立体育会館において、高山勝成(仲里)と井岡一翔(井岡)のダブル世界戦。
IBF世界ミニマム級王者の高山は、同級9位のファーラン・サックリンJr(タイ)を手数で圧倒したものの、7回に偶然のバッティングでカットした左まぶたの出血が激しくなったため、9回でドクターが試合をストップ。判定による勝利で初防衛に成功。

WBA世界フライ級3位の井岡は、王者フアン・カルロス・レベコ(アルゼンチン)に挑戦し、圧巻のディフェンステクニックを見せたものの攻めの姿勢がほとんど見られず、終始消極的な戦いのまま僅差での判定勝ち。ホームタウン・ディシジョンもささやかれる、後味の悪い三階級制覇となった。

5月1日

大田区総合体育館にて、WBC世界スーパーフェザー級王者の三浦隆司(帝拳)が、同級6位で元IBF世界フェザー級王者のビリー・ディブを挑戦者に迎えたV4防衛戦。足を使う挑戦者をハードパンチャーの王者がじわじわと追いつめ、3回に、ボディの連打でコーナーへ追い込んでから顔面へ渾身の“ボンバーレフト”を炸裂させ、ダウン奪取。立ちあがったものの続行不可能と見たレフェリーが試合をストップし、TKO勝利。

メインイベントでは、WBC世界ミドル級7位の村田諒太(帝拳)が、同級15位のダグラス・アタイデと対戦。手数は少なかったが、5回に右ストレート一発でダウンを奪取。立ちあがったアタイデにさらにワンツーで追撃し、レフェリーストップによりTKO勝ち。一撃必殺の破壊力を存分にアピールし、世界挑戦へ一歩前進。

元2階級制覇王者の八重樫東(大橋)は、3階級制覇に失敗した大みそかの試合から4ヶ月ぶりの再起戦となる、ソンセーンレック・ポスワンジム(タイ)とのスーパーフライ級8回戦。2連続KO負けからの復帰とあってコンディションが心配されたが、前後の素早い出入りを中心としたフットワークと的確なカウンターパンチで、1回と2回にダウンを奪ってのTKO勝ち。世界王座返り咲きへの意欲を見せた。

5月2日(現地時間1日)

米ラスベガスのコスモポリタン・オブ・ラスベガスにて、WBO世界ライト級1位の粟生隆寛(帝拳)が、同級4位のライムンド・ベルトラン(メキシコ)との王座決定戦に挑む。コンビを組んできた田中繊大トレーナーの不在(前日に村田諒太のセコンドについていたため)、ベルトランの体重超過による失格、と悪条件での試合を余儀なくされ、体格差のあるベルトランのパワーに圧倒される。2ラウンドに左を撃ち込もうとした刹那、ベルトランの右カウンターを受けてダウン。立ちあがったものの追撃を受け、レフェリーストップで無念のTKO負け。3階級制覇はならなかった。なおベルトランが体重超過で失格しているため、王座は空位。

5月3日(現地時間2日)

米ラスベガスのMGMグランド・ガーデン・アリーナで、全世界的に大きな注目を集めた、フロイド・メイウェザーJr.(米)対マニー・パッキャオ(フィリピン)のWBA・WBC・WBO世界ウェルター級タイトルマッチが挙行される。

ファイトマネーの総額は350億円ともいわれた世紀のスーパーファイトは、メイウェザーがいつもどおりのディフェンシヴな試合に徹し、パッキャオの強打を封じ込めての判定勝ち。客席からはブーイングも飛び、マイク・タイソンやオスカー・デラ・ホーヤら多くのボクシング関係者がメイウェザーの消極的な姿勢を非難。試合後に肩の負傷を明かしたパッキャオが、彼の勝ちに金を賭けていたファンから集団提訴されるとの情報もあり、リング外での話題ばかりが盛り上がる結果となった。

5月6日

大田区総合体育館において、内山高志と田口良一(ともにワタナベ)のダブル世界戦。
WBA世界ライトフライ級王者の田口は、同級14位のクワンタイ・シスモーゼン(タイ)を迎えた初防衛戦で溌剌としたファイトを披露。8回までに5度のダウンを奪い、TKOで初防衛に成功。

WBA世界スーパーフェザー級王者の内山は、同級7位のジョムトーン・チューワッタナ(タイ)の挑戦を受けたV10戦で、開始直後から重厚なパンチで挑戦者を圧倒。2回に強烈なワンツーをジョムトーンの顔面に撃ち込み、ワンテンポ遅れて大の字にダウンした挑戦者を見たレフェリーが即座に試合をストップ。「KOダイナマイト」内山が貫録の10連続防衛を果たした。

5月9日

神戸市立中央体育館で、元世界2階級制覇王者の長谷川穂積(真正)が、昨年4月に3階級制覇に失敗してから1年ぶりの再起戦。
フェザー級10回戦で、WBCスーパーバンタム級9位、IBF同級12位のオラシオ・ガルシア(メキシコ)と対戦した。

ガルシアは、この前の試合ではガードの上から叩きこんだパンチで相手の手首を骨折させたほどのハードパンチャーで、29戦全勝の24歳というまさに上り坂の選手。大方のファンが穂積劣勢を予想したものの、長谷川は全盛期を思わせる巧みなボディワークとフットワーク、抜群の当て勘によるカウンターでガルシアの強打を制圧。終盤にはややスタミナ切れも見られたが、足を止めての打ち合いでも若いガルシアを圧倒し、3−0で大差の判定勝ちをおさめた。


今後の展望

  • すでに35歳とキャリアも後半の内山は、なるべく時間をおかずにさらなるビッグマッチを期待したいところ。海外ではユリオルキス・ガンボアやニコラス・ウォータースの名が挙がり、そして国内では三浦隆司との統一戦もファンの熱望するところ。
  • 再起した八重樫は、フライ級とスーパーフライ級のどちらで続行するのかが見どころ。体調を考えるとスーパーフライ級のほうがコンディションを整えやすいかもしれないが、同級には同じジムの井上尚弥がいるため、大橋ジムの戦略が注目される。
  • フライ級王者となった井岡だが、かつての亀田に似たTBS的消極路線を続ける限り未来はない。ディフェンスに徹すればローマン・ゴンサレスにも負けない実力はあるだけに、打って出る姿勢を見せてほしい。八重樫との再戦を希望するファンも多いが、井岡本人は消極的なようだ。
  • 村田諒太は、すでにランキング7位に入っているため、ここから上を目指すためにはビッグネームとの対戦が必要不可欠。WBCの現王者ミゲール・コットはアメリカでの人気が高く、試合を組むのも容易でないだけに、本人の実力以上にマネージメントの力が問われるところ。
  • バンタム級では頭一つ以上抜き出た力を持つ山中は、次戦では統一戦が望まれる。一部で対戦が囁かれていた同級の亀田三男は、WBO王座を剥奪されたうえWBA王座決定戦で敗北し無冠となったため、とりあえず対戦忌避に成功したもよう。以前から対戦を熱望していたレオ・サンタ・クルスはフェザー級に転向したし、IBF王者のランディ・カバジェロとも一時期交渉していたものの、負傷により長期離脱。そこで注目されるのが、かつて山中に敗れたもののリベンジに燃える岩佐亮祐(セレス)である。岩佐は、カバジェロの離脱にともなう暫定王者決定戦に挑むことが(その経緯には紆余曲折あったものの)決定しており、戴冠のあかつきには、チャンピオンベルトを引っ提げて山中との統一戦を挑んでくる確率が非常に高い。
  • 長谷川穂積は、本来の持ち味をフルに出すことができたため、これで引退すると言ってもおかしくないし、また世界を狙う資格も充分。4団体時代となって日本人王者も乱立し、黄金時代ともいえるが、その端緒を切り開いたのは間違いなく長谷川の功績である。どんな希望も、どんなワガママも許される権利が、彼にはあるはずだ。