『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第2期最終回!
2023年4月9日(日)より放送中だった『機動戦士ガンダム 水星の魔女』2期が遂に最終回を迎えた。ガンダムテレビアニメシリーズ初の女性主人公作品ということでも話題を呼んだ本作。果たして物語はどのような結末を迎えたのだろうか? ネタバレありで早速2期最終回/24話「目一杯の祝福を君に」を含む作品全体の感想、および解説をしていきたい。
以下の内容は、TVアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』2期最終回/24話の内容に関するネタバレを含みます。
データストーム空間でエラン(4号)と再会したスレッタ
宇宙議会連合の放ったレーザー兵器により大破したエアリアルを抱え、スレッタはガンダム・キャリバーンでクワイエット・ゼロへと向かう。停止コードを打ち込みクワイエット・ゼロを停止させたミオリネらの勝利かと思われたが、チュチュらを人質に取ったゴドイにより形勢が逆転する。この期に及んでなおクワイエット・ゼロを起動させようとするプロスペラ。
データストーム空間でスレッタはエラン(4号)と再会するが、ここは物語の流れとしての必然性はあまり感じられないとの感想を抱いた。たとえば、スレッタが唯一動くガンダム・キャリバーンに乗り、単身クワイエット・ゼロまたは宇宙議会連合のレーザー兵器を止めるべく決死の覚悟で出撃したその先で絶望的な危機に瀕する。
その危機をデータストームの先からエラン(4号)が手を差し伸べることによって脱するというような展開であれば素直に熱くなれたが、特にそのような危機が描かれぬままにただ擦れ違ったままだったスレッタとエラン(4号)の関係を決着させるために描かれたシーンに思える。そもそもデータストーム空間に意識を移行させることができる仕組みとはどのようなものなのだろうか。
それはエリクトがデータストームに対して特別に強い耐性を持つが故のイレギュラーということではなかったのだろうか。データストームに対しては並みの耐性しか持たず文字通り命を削ってガンダムに乗っていたエラン(4号)は、その上ガンダム・ファラクト搭乗中に絶命した訳ですらない。ガンダムから降りた後に処刑されたエラン(4号)は一体いつデータストーム空間に意識を移したのだろうか。やはり、データストーム空間で人の意識や肉体の物理的な生死はどうなるのかということについてより詳しい描写がほしかったとの感想だ。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』における命の重さ
筆者が最も気になったのは、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』という作品における‟命の重さ”だ。これまでのガンダムシリーズは基本的に戦争を舞台としており、そこでは当然人々の殺し合いが描かれてきた。その中で、各々のキャラクターが命を賭けてでも守るべきもの、倒すべき敵に対して価値判断を下し、実際に戦う様子から筆者を含む視聴者は正義と暴力の関係について深く考えるきっかけを掴んできた。
だが、物語開始当初は学園を舞台とし、主役機であるガンダム・エアリアルの最初の登場シーンも宇宙を漂うミオリネを保護するという人命救助の場面であった『機動戦士ガンダム 水星の魔女』という作品において、戦争は直接的には描かれてこなかった。もちろん、従来のガンダムシリーズ同様に地球に暮らす人々である‟アーシアン”と宇宙に暮らす人々である‟スペーシアン”の対立は作品を「ガンダム」として成り立たせるための設定として描かれはしたが。
しかし、その対立の直接のきっかけや、メインキャラクターの一人であるシャディクがその破壊を目的としていた‟戦争シェアリング”というシステムについて深掘りされることはなかった。現実世界の戦争は基本的に領土や資源を巡って行われるものだ。初代『機動戦士ガンダム』(1979~1980)においても、地球連邦政府に搾取される宇宙の民であるジオン公国は政治的独立と地球の資源を求めて地球連邦政府に対して独立戦争を挑んだ。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』においては、むしろ資源的な優位に立つのは宇宙に移民したスペーシアンの方だ。パーメットは人類が宇宙に進出することで獲得した資源であり、かつ人類の宇宙進出に欠かせない資源でもある。そうであるならば、そもそもスペーシアンがアーシアンに対して行っていた搾取とは如何なるものなのか。そもそも搾取する程の有用性が地球にあったのか。
そこのところに説得的な作劇が見られぬまま、対立が自明のものとして物語が進行してしまったことで、ソフィやノレアが何故ああもスペーシアンを憎んでいたのかということが充分に伝わってこなかったという感想だ。シャディクの説明によれば、ベネリットグループは戦争シェアリングによる利益によって宇宙規模のシェアを獲得したとのことだが、その戦争シェアリングは国家同士の戦争なのか、それとも企業同士の抗争なのかといった細部は結局明かされずじまいだった。
劇中ではエラン(4号)やソフィ、ノレアらガンダムパイロットをはじめスレッタに叩き潰されたテロリストやフォルドの夜明けの少女などキャラクターの衝撃的な死が描かれた。しかし、彼らが「何のために」そうまでして戦ったのかという肝心の目的が充分に描写されなかったために、それは単に死をセンセーショナルなギミックとして用いただけのシーンに見えてしまった。
たとえば初代『機動戦士ガンダム』におけるミハルの死は、初めて作品を観て以来20年以上筆者の心に残り続けている。貧困という形で戦争の犠牲となったミハルが、それでも家族を養うため、自らが生き延びるためにジオン軍のスパイとなり、しかし束の間、偶然出会った連邦軍のカイ・シデンと心を通わせる。そのカイとともにジオン軍のMSを迎撃すべく、手動でミサイルを発射した際に悲劇が起こる。ミサイルの反動に耐え切れなかったミハルの身体は宙を舞い、海へと散った。それを知らぬまま、カイはガンペリーのコクピットからミハルの名を連呼する…
ミハルの死を避けることはできなかったのか。避けることはできない。それが戦争というものだ。幼い筆者の心に、『機動戦士ガンダム』という作品は確かに戦争を憎む気持ちを芽生えさせた。だが、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』におけるキャラクターの死に、そこまで深く人を動揺させる力があったとは思えなかった。それはやはり、登場する勢力やキャラクターが多過ぎた故に対立関係が複雑になり過ぎ、そもそも誰と誰が何を巡って争っているのかすら見え難くなってしまったためではないか。
物語としてキャラクターの死を過度に意味付けることにはもちろん危険性が伴う。その死が有意義なものとして描かれるほどに、逆にそれは死やそれをもたらす戦争への憧れを呼び起こしかねないからだ。しかし、ミハルの死は物語として限りなくドラマティックであり、かつ筆者はそれに触れることで明確に戦争を憎んだ。そのような価値判断の契機として、物語はキャラクターの死を扱うことも可能な筈だ。その意味で、「何のために死んだのか」が曖昧なままに表面上の描写としてのみ死が劇的に描かれた『機動戦士ガンダム 水星の魔女』という作品は、命を軽々しく扱い過ぎだったのではないかとの感想を抱いてしまった。
「ガンダム」の二重性
肝心のガンダムの性能についても謎に包まれていた。「それに乗ったら死ぬ」呪いの機体としてセンセーショナルに描かれる一方で、その‟呪い”は人類の宇宙進出に欠かせないGUND技術の賜物でもあった。『機動戦士ガンダム 水星の魔女』において、ガンダムは当初よりこのように「祝福」と「呪い」という二重性を持つものとして設定されていた。その呪いが祝福へと反転していく物語を期待したが、結局のところ劇中において「ガンダム」が持つ意味が定まらなかったという感想だ。
「ガンダムの呪いを解く」ためのギミックは用意されていた。ガンダムをガンダムたらしめるGUND技術は元は医療用の技術だったし、劇中でも株式会社ガンダムを起ち上げたミオリネはガンダムを原点回帰の医療用途で売り込むことを決めていた。だが、GUND技術が医療にどう役立てられるのかという具体的な描写はされぬまま、物語の主軸はベネリットグループ総裁の座を巡る政争とクワイエット・ゼロを巡る陰謀に移ってしまった。
クワイエット・ゼロおよびガンダム・エアリアルが、ヴァナディース事変以来の過去からの因縁、ガンダムの「呪い」を代表するとすれば、そこに対して新たな力であるガンダム・キャリバーンに乗ったスレッタが何らかの超越的な力を発揮してその機能を停止させ、「新しいガンダム」の力と姿を示すという展開をこそ観たかったというのが正直な感想だ。そうであれば、スレッタはまさに主人公として特権的な活躍をできるし、ガンダムの力が呪いから祝福へと転じる瞬間も描けるだろう。
だが、実際にはそうはならなかった。ガンダムは確かに超越的な力を発揮したが、その力の矛先はクワイエット・ゼロではなく宇宙議会連合のレーザー兵器だったし、これまで特に物語の中で因縁が描かれてこなかった宇宙議会連合の兵器を止めることに物語的な「オチ」は個人的には感じられないという感想を抱いた。面白くなりそうな要素はいくつもあった筈なのに、それらが正面から描かれることがなかったという感想になってしまう。それが不思議であり、またひたすらに残念だ。
設定止まりだった‟水星”と‟学園”
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』では、ガンダム作品としては異例の‟学園”が舞台となった。そこでは生徒が乗るMS同士の‟決闘”が繰り広げられていた。この舞台設定は確かに「新しいガンダム」を予感させるものだった。しかし、蓋を開けてみれば話の主軸は主人公スレッタ・マーキュリーの母であるプロスペラの野望であるクワイエット・ゼロを巡るものとして展開されてしまった。
その上、結局のところクワイエット・ゼロを用いてプロスペラが実現したかった世界が如何なるものであったのかは、最後まで明瞭に描かれることはなかった。データストーム空間の中でしか生きられない娘のエリクトのために世界中をデータストームで覆うということがどうやらその目的だったようだが、そこまでせずともエリクトはガンダム・エアリアルを既に自らの身体として動かせるようになっていた。それでは何が足りなかったのだろうか。どちらにせよ、既にエリクトの肉体は失われている。
クワイエット・ゼロ以前/以後で世界がどのように変質するのか、人類はそれによって如何なるデメリットを被るのかということが明確に描かれないままでは、結局のところ視聴者は「これは何を巡る戦いなのか」という肝心の目的をはっきりと掴むことができない。それでは、いくら迫力のある戦闘シーンが描かれようとも物語に没入することができず、自分とは無関係な他人事として物語と距離を保ってしまうのではないか。
最初からストーリーの主軸をクワイエット・ゼロを巡るものとするつもりだったなら、何故敢えて舞台を学園に設定したのだろうか。タイトルにある”水星”が単に主人公であるスレッタが「水星から転校してきた」という文字設定に止まり劇中で一切水星が描写されることがなかったことも腑に落ちない。タイトルというのは普通その作品を象徴する何かしらの要素が込められるものであるので、水星を描かないのであれば単にタイトルに「水星」を冠することをしなければよかったのではないだろうか。
水星が単に文字設定でしかないなら、それは「金星の魔女」でも「木星の魔女」でも変わらないということになる。そんな中で仰々しく「地球の魔女」としてガンダムに乗る敵パイロットが出て来たところで、そもそも”水星”も”魔女”も劇中での意味付けがはっきりしなかったのでいまいち盛り上がり切れなかったところも残念だ。
“魔女”はガンダムパイロットを指し、そしてガンダムは表向きは水星でしか造ることのできない高性能MSのことだとしたら、そのガンダムが地球にも存在したということにはインパクトがある。しかし、「ガンダムの謎」を匂わせるだけ匂わせた挙句、その意味付けをはっきりと描かなかったために、地球にガンダムがあったことにも特段の衝撃は感じられなかった。「水星からの転校生」と同じ単なる文字設定レベルで「地球のガンダム/魔女」は受け取られてしまった。
ガンダムに女性主人公が乗る道を開いた功績
全体の感想としては、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』という作品では「これは何の話なのか」というメインストーリーが描かれなかった印象だ。学園で決闘したことも特にスレッタ自身の何かを変えた訳ではなく、ガンダム・エアリアル改修型でテロリストを潰してさえ笑顔を見せた様子からは底知れぬ闇が感じられたが、特にそれがプロスペラの直接的な洗脳によるものという風には描かれなかった。
各話ごとにストーリーを盛り上げる衝撃的な展開を与えてはいたが、振り返ってみた時にそれが何らかの”全体”として物語を構成しているようには見えない。限られた尺の中でメインストーリーに絞って描写するということではなく、詰め込まれたキャラクターや設定を活かしきれていなかったように思えてしまう。そもそも全24話というのは最初に決められていた筈なので、そこで中心として描くべきテーマは設定されるべきだったのではないだろうか。
せっかく‟初の女性主人公”として鳴り物入りで始まったシリーズなのだ。そこは正面から「女性主人公」のドラマを描いて欲しかった。中盤まで、明らかに主人公はグエルだった。そこまでドラマから置き去りにされたスレッタが、クライマックスでいきなり超越的な力を発揮しても、それは物語の最終回として主人公を活躍させる必要があるからという風に見えてしまう。それまでに如何なる過程を辿ったかということこそが、主人公の最後の決断や行為に説得力をもたらすのではないだろうか。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』に抱いた「新しいガンダム」への期待は正直外れてしまったが、これも一つの実験であったのだろう。少なくとも、今作によってガンダムが女性主人公を描く道が開けた。『機動戦士ガンダム 水星の魔女』に続く第2、第3の女性主人公、あるいはまた異なる属性を持つ主人公がガンダムに乗り、世界を拡げてくれることを期待したい。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』Season2は、バンダイチャンネル、ガンダムファンクラブ、dアニメストア、アニメタイムズ他各種配信サイトで配信中。
2期12話/24話はAmazonプライムビデオ他で配信中。
1期はAmazonプライムビデオ他で配信中。
Blu-rayはvol.1〜4が発売中。
2期1話/13話のネタバレ感想&解説はこちらから。
2期2話/14話のネタバレ感想&解説はこちらから。
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