デイリースターのデイリーファトワ
月曜日から製作中だった6面紙面を、英ジャーナリスト組合の緊急会議の後で、差し替えることに決定したのだ。この紙面は、「デイリー・ファトワ」というテーマで作られたもので、イスラム教を茶化すような内容だった。ファトワとは「イスラム法の解釈・適用をめぐって, 権威ある法学者が提出する意見」(ヤフー辞書)。
ガーディアン、プレス・ガゼット、インディペンデント紙の報道から何が起きたかを拾ってみる。
このページは、「もしイスラム教のシャリア法が施行されていたら、デイリースターはどうなるか」という仮定の下で作られた、冗談・ジョークが狙いだった。
内容は、大衆紙ザ・サンでは、3ページ目に,毎回半裸の女性のピンナップ写真がつき、これを「ページ・スリーPage 3」とも略して言われるが、これをもじった形の「ページ・スリー、ブルカ女性スペシャル」と題して、全身と顔の全面をおおうニカブを来た女性の姿があったという。
また、「旗を燃やして、車を当てよう」という、読者参加のコーナー、ブッシュ米大統領の顔写真には、「不信心者には死」というキャプションがついた。また、社説のコーナーは空白になっており、「検閲」のスタンプがついて、「神は偉大」という文句もあった。面の上部には、「ニュースなし、ゴシップなしは楽しくない」という文章がついた。
破棄された問題の面の最終判と思われる紙面構成は、プレスガゼット紙の最新号に掲載されるようだ。(今見たところ、まだウエブ上にはなかった。)
この紙面ができあがり、今まさに印刷工場に送られようとしたところ、英ジャーナリスト組合のメンバーたちが、デイリースターがあるビルの9階の食堂で緊急会議を開催。25分ほどで、この紙面は「意図的にイスラム教徒を侮辱する」ものだ、とする決議に合意した。
この決議は、「私たち組合支部は、この紙面に侮辱されたと感じた狂信者たちが暴力的及び危険な報復行為に及ぶ紙面構成になっていることに懸念を感じている。編集スタッフを大きな危険にさらす可能性もある。経営陣がこの紙面をすぐに取り去ることを要求する」。
この決議後、問題の紙面はデイリースターのコンピューターから削除されたという。
インディペンデント紙にスタッフの一人が語ったところによると、「編集局のあるビルが攻撃される可能性があった。外でデイリースターを燃やす可能性もあると思った。新聞販売店で新聞を販売する多くの人がパキスタン系(のイスラム教徒)であり、紙面内容に侮辱を感じる可能性もあった。スタッフの身の安全と、スター紙の将来を考えた」という。
組合の決議が出た時点で、既に編集長は社を出ていたが、夜のデスクなどとの相談で、もともとの紙面を掲載しない決定がなされたという。代わりに別の内容に差し替えた。スタッフの一部には、記事の差し替えは、表現の自由に反する、と抵抗した人もいるという。(インディペンデント紙)
水曜日の時点で、ジャーナリスト組合のトップ、ジェレミー・ディア氏は、「ひどい、無責任なアイデアだった。メンバーが勇気を持って抵抗したことは幸運だった」、と述べている。(プレスガゼット紙)
「組合の規定は、社会の中の差別と憎悪を増やすような余計な素材を使うことを非難している。デイリースター紙には、賢明にそして責任を持って行動することを望む」。(メディアガーディアン)
在英ムスリム・ニューズ紙のアーマド・ベルシ氏は、インディペンデントに対し、「もしこの紙面が印刷されていたら、デンマーク風刺画のような反応があっただろうと思う。世界の英国大使館の前でデモも起きたかもしれない」。
ジャーナリスト組合のバリー・フィッツパトリック氏によると、通常、組合が新聞の編集内容に関してこのような形で介入することはないが、今回は、常識を超えていた、という。「こんな紙面がジョークとして受け取られるだろう、と思うのは馬鹿げている」。
ここまで読んで、デンマーク(の一部)、ドイツ、フランスとは温度差の異なる英国のメディア状況があるように感じた。つまり、大雑把な言い方だが、表現の自由を声高に叫ばないところだ。(もちろん、デイリースターの意図は、笑い・茶化す・販売数を増やしたい、であって、表現の自由のためではないことは、英国に住んでいる人ならば、ピンとくる、という点もあるのだが。)