小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


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プロジェクト・カンガルーの破綻

 銀行が巨額ボーナスを支払うべきかどうかで論争が続いている。いくつかの大手銀行は税金による支援を受けている。例えばロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)の場合、70%近くが実質政府所有(財務省が管理)になっていると言う。政府が口をはさみたくなるのも当然だ。不景気感が強いため、国民も黙ってはいない。

 銀行側の言い訳は「それ相当のボーナスを払わないと、ライバル社に移ってしまう」。しかし、移り先のライバルはもういない、という説もある。ボーナス制度自体が悪いという説もあるが、「今回に限りダメ」というのが本当だろう。国民の税金がそのまま巨額ボーナスになってしまう構図が見えてしまうのがつらい。契約でボーナスの支払いが既に決まっているという説明もあるが、貰った人が「自分からこれを戻す、いらないという」ことも可能ではないのだろうか?米国で、オバマ大統領が米銀行のボーナスに上限を定めたという報道もあって、ボーナス支払いの件はここ英国でまだ熱い議論となっている。

 話は変わって、BBC(商業部門のBBCワールドワイド)とITV,チャンネル4が協力して開始しようとした、ビデオ・オン・デマンド(VOD)サービス「カンガルー」だが、2月4日の競争(防止)委員会の判断で、お流れになった。理由はVOD市場の競争を阻害するからである。

http://www.competition-commission.org.uk/press_rel/2009/feb/pdf/05-09.pdf

 2年前から取り組んできたプロジェクトの頓挫に各社は失望を隠さなかった。

 しかし、この3社以外の企業にすれば、これで例えばBBCと手を組んで動画サービスを提供できるなら、大きなチャンスが訪れたとも言える。

 プロジェクトはこれまでに2500万ポンド約33億円)の費用を計画段階で使ってきたという(「エンダース・アナリシス」社の推定)。

 ITVは自社サイトITVコムにもっと力を入れるようだ。既にテレビ放映と同時にネットでも番組が見られるようになっている。カンガルーでオンライン収益を上げる予定だったので、これは見直しとなる。

 チャンネル4は4ODに集中するが、資金難に悩むチャンネル4にとって、また一つ資金源が減ったことにもなる。

 BBCワールドワイドは、BBCの国内向けオンデマンドサービス、アイ・プレイヤーの商業版開発を狙っており、カンガルーを通じてやろうとしていたけれど、ダメになった。BBCの新規事業が「公益に適うかどうか」を判断するBBCトラストの承認が受けられれば、アイプレイヤーの国際版のサービスを開始できるのだが。

 他に目されているのはアイプレイヤーの技術を他局とシェアする動きで、これはプロジェクト・マーキーと呼ばれているそうだ。BBCとBT,ITVのジョイント・ベンチャー、プロジェクト・キャンバスもある。

 プロジェクトカンガルーがダメになったので、このプロジェクト推進に関わっていた50人の人員が仕事を失うことになった。

 ガーディアンのデジタル部門のトップ、エミリー・ベルは、カンガルーの停止で、例えば米国のオンデマンドービス「HULU」のようなネットワーク・サイトに英国のテレビ局が番組を配信することになれば、収入は米国の会社に流れ、英国の放送業界にとって良いニュースではない、と述べる。

http://www.guardian.co.uk/media/organgrinder/2009/feb/04/killing-kangaroo-analogue-thinking

 プロジェクト・カンガルーの過去記事

 http://ukmedia.exblog.jp/10256716

 
by polimediauk | 2009-02-10 20:24 | 放送業界