爆笑問題・田中は「日本人」を象徴するモンスターなのか


7 日放送の NHK 総合「爆笑問題のニッポンの教養」は『刑事裁判』がテーマでした。爆笑問題と一橋大学大学院の後藤昭教授の 3 人が「裁判員制度」の話題を中心に番組を進行していきます。

ふだんのこの番組で議論の中心になるのは太田光と毎回テーマごとに異なる大学教授の対話です。太田が特攻精神を発揮するときはアツい激論になったりもします。

しかし今回の放送では田中裕二が議論の中心になっていました。稀なことです。このほど法制化された「裁判員制度」が日本人の生活に密着した問題であることの裏返しと言えるのかも知れません。

田中は「裁判員にだけは絶対なりたくない」と全力で主張していました。

そんな田中を太田はいつものように横から罵倒しますが、まったく屈することなく、主張を貫こうとします。

田中といえば「てれびのスキマ」さんの「田中の好きなものはヒットする」エントリが印象に残ってます。たしかに本人の日頃の言動にしろ漏れ伝わってくるエピソードにしろ、やたら小市民的なところがあるのです。

田中裕二こそが「日本人の中の日本人」なんじゃないか、と思うことしきりです。


以下、田中の激しい主張と太田による田中評を抜粋します。



・田中の基調演説

後藤教授「裁判員やりたいですか?」
太田「やりたい」
田中「ぜんぜんやりたくない」
教授「どうして?」
太田「この人はなんにもやりたくない人だから、あんまり参考にならないんですよ」
田中「ぼくはやりたくない」
太田「好奇心ゼロなんですよ」
教授「太田さんは自分は好奇心からやってみたいっていう気がする?」
太田「やってみたいです。死刑!とか言いたいです」
田中「だからそれ(=死刑)を言いたくないです」
教授「死刑を言い渡したくないわけですか?」
田中「いや言い渡したくないというか、まずは…」
太田「イヤなんですよ」
田中「めんどくせーなってのがあります。もしねぼくが…」
太田「なんでもそうですよ。なんでもめんどくさい」
田中「ちょ、ちょっとしゃべらせてください。通知が来て、裁判員になってください、ってきたら、まぁ、仕事休まなきゃいけない、たいへんだろう、まずその事件知らねーしとか、もしかしたらあるかも知れない」
後藤「知らないほうがいいですよ」
田中「まぁね。で、行ったとして、まず一からいろいろこう説明されて、こういう事件で、こういう訴えが来て、とかってそんなのまず、勝手にテレビのニュースでね、『こんなヤツ死刑にしちゃえばいいよ』とか『これは重たいんじゃないか』とか思いますよね? その感覚じゃたぶんダメだろう、っていうところで迷ったり、この人をじゃあ死刑にするかしないかっていうときに、基本的にはぼくは個人的には死刑じゃないほうがいいと思ってる。でもそういうのをちゃんと説明できるかどうかか含めて不安だし、仮にじゃあ『これはまぁ仕方ない死刑だ』ってなったときに、その人の死刑が執行されました、なんてニュースをのちに聞いたら、まぁ後味悪いなとか人を殺してしまったなみたいなことは思うじゃないですか。本当に一庶民として人の生死を自分で決めたくないみたいな。もっと無責任な立場でいたい、っていう人は多いでしょうね、きっとね」
太田「バカです」


・太田「田中は日本人の代表」

太田「先生、(田中を)見くびっちゃいけません。考えたくない、って言ってるんですよ。ぼくは自分の頭で考えたくありません、って言ったんですよ今。これが大半だろうって言ってるんです。そこが日本人です」
教授「本当はね、考えたい」
太田「いやーそれはちょっと」
教授「だったら逆に考える経験をしてもらったらいいじゃないですか」
太田「だから『やれよ』ってことですけれども、大半の日本人の裁判員制度に関しての態度ってのは、自分と関係のないことに、見たくないし参加したくないし考えたくない。なるべくなら関わり合いたくない。だからいつまで経ったって、憲法改正問題にしたって国の重要なものすごい問題にしたって、口に出して言うのめんどうだから、誰も言わない、っていうのがほとんどなんですよ。田中はその代表です」


・太田「田中はモンスター」

太田「世の中で起きてることに対する自分の意見を持たない人なんです!」
田中「(太田の主張が)強いねー」
太田「強いか?」
教授「持とうとしない人が中にはいる、と」
太田「この人がその代表なんですよ」
教授「代表してくれているじゃない? 代表を演じている」
太田「いつの間にか生きている、生き方で、こういうモンスターが日本中に出来上がったんです」
教授「じゃあいいじゃん、田中さんを説得できれば」
太田「できないんです。僕は 20 年かけてます。できないんです!」


・友達の殴り合いのケンカにも平然

太田「こいつは大学のときにふたり友達が目の前で殴り合ってる真ん中で、肉まん食ってたヤツなんです。ずーっと肉まん食ってました。傍観者です」
田中「こいつらがケンカしてるわけで、コイツはコイツに言いたいことあって、コイツはコイツに言いたいことあって、ケンカしてるわけだから、俺がそこに入ることじゃねぇ」
太田「止めもしない。殴りあってるのに。しかも肉まん食ってる。食うのをやめなかった」
教授「そのほうが、ヘタにね、第三者が口出ししないほうが収まる場合もある」
田中「まぁ収めたいからでもないんだけどね」
太田「つまりそこに関わり合いたくないっていう人です」
教授「まぁそれは人生観いろいろあるかも知れないけど」


・「関係のないことには関わりたくない」

教授「田中さんはね、自分には関係のないことだから関わりたくない、っていう気がしますか?」
田中「そうですね、関係ないことだからって…」
教授「そこはすごく重要なポイントだと思うんです。自分に関係あることだと思えるかどうか。たとえば、なんで死刑を科すことができるかといえば、刑法に死刑を処す、って書いてあるからですよね。(※「死刑は法律に基づいたもの」→「法律をつくるのは議員」→「議員は私たちが選ぶ」というような見解ののち) 死刑を執行するってことについて、“なにがしかはみんな責任を持っている”ってことです」
田中「ものすごい間接的にはね。まぁね。それは理屈ではそうでしょう。間接的には」


・「経験したくもない」

教授「死刑を科すべきでない、と思う可能性が高いじゃないですか。とすれば、そっち(無罪)に意見を言って投票すればいいだけですね。それで結局多数決で負けて死刑になってしまっても、自分としてはするべきことをした、ってこれは誇りにできることだと思うんですよね。自分の思想をもとに一貫して行動したわけですから。それは立派に責任を果たしたってことじゃないですか?」
田中「そのときにそう思えたらもちろん良いんですけど。それが無いほうが…その経験があって本当にいいのかどうか」


・総論として

教授「どうですか田中さん、やってみようかという気にはなりましたか?」
田中「多少はね、ちょっと安心したところは、あのー、みんなでまず『話し合い』をわかりやすくして、っていうのがあると、違うかな。いきなり法廷! っていうイメージがやっぱどうしてもあるから、それがあると随分いいですよね」


後藤教授が「裁判員制度を導入するメリット」をやんわりと説いていきながら、田中も少しづつ承伏されていく、という流れになってはいましたが、田中の「めんどくさい」精神は不変であるように思われます。自分の意見を持たず、他人に関わり合いになりたくない。太田が 20 年説得しても変わらないというのです。

2009 年 5 月に NHK がおこなった世論調査によると、「裁判員として裁判に参加したいか」との問いに対して、「参加したい」が 26% 、「参加したくない」が 72% との結果が出たようです。

田中の小さな主張は「日本人」の縮図のようでした。善きにつけ悪しきにつけ。