自分だけの「オリジナル肩書」をつくって名乗ってみたら、2冊の本を出版できた話

この話、実は今まで親しい友人にもしたことがありません。ただ私自身はかなり強い因果関係があると確信しています。自作のオリジナル肩書「ミニサイトづくり職人」「見守りテックコーディネーター」を名乗ったことが、本の出版につながったのだとーー。

「ミニサイト職人」と名乗ったら、想定外の大きな反響が

それは2009年頃のこと。私は照れくささを必死に封じ込めながら自分にこんなオリジナル肩書をつけてみました。

「ミニサイトづくり職人」です。

当時は今ほどはSNSが盛り上がってはおらず、個人のネット情報発信といえば「ブログ」という時代。私も日記替わりのブログはやっていましたが、どちらかというとかっちり構成された昔ながらの「情報サイト」スタイルを得意としていました。ニッチなテーマに絞り込んだコンパクトサイズのもので、ブログと比べると構成もかっちりとしたウェブサイトです。

ただ世の中的には「個人の情報発信=ブログ」だったため、運営サイトも「ブログ」と言われ、私も「ブロガーのわださん」と紹介されることが多かったのです。「書いているのはブログじゃないし、私はブロガーってわけでもないんだよなあ……でも、じゃあ何と呼べばいいんだ?」そう考えた末「ミニサイト」ということにしたのです。

そして「ブロガー」の替わりに「ミニサイトづくり職人」と名乗ってみたのです。正直「職人」に深い意味はありませんでした。デザイナーというわけでもなく、受託制作イメージが強いウェブサイト制作者ともちょっと違います。個人が1人で企画も制作も運営もやっているスタイルがイメージできる肩書は何かと考えた結果、「職人」に行きついただけなのです。

フリーランス名刺の肩書にも「ミニサイトづくり職人」と付け加えてみました。名前の上に肩書がないと名刺としてのバランスが悪く感じたからです。

ところが、それが大きな転機になりました。「ほー、ミニサイトづくり職人さんですか。初耳です」、「職人という部分に、こだわりを感じますね~」、「ところでミニサイトとはどんなものですか?」と、名刺交換した初対面の方との間で、「ミニサイト」談義が盛り上がるようになったのです。

しどろもどろな説明を何度も繰り返すうち、ブログとの違い、個人が情報発信する価値、テーマ発掘のコツなどを流暢に話せるようにもなりました。そして「自分もニッチなテーマでミニサイトをつくってみたい」「ブログは挫折したけど、それなら続けられるかも」なんていう人が現れ、「ミニサイトづくりワークショップ」というオンラインイベントを主催したりするようになりました。

今思うと、反響が想定外に大きく、「ミニサイトに興味を持ってくれた人の期待に応えるのは“職人”たる自分の使命だ」くらいに感じたのかもしれません。自分でつけた肩書が自分自身を洗脳した感もありました。

そのうちセミナー講師を頼まれるようになり、いつしかミニサイトづくり職人と名乗ることに以前ほどの照れくささは感じなくなっていました。そして知人経由で出版の打診を受け、2007年に日本実業出版社から一冊の本「ミニサイトをつくって儲ける法」を出すことになったのです。

プライベートな経験を生かして「見守りテックコーディネーター」に

自分だけの「オリジナル肩書」をつくって名乗ってみたら、2冊の本を出版できた話

二度目のケースはごく最近です。2021年に父が他界し、足の悪かった母が実家で一人暮らしとなりました。母は認知症の症状で日にちがわからなくなったり、エアコンをつけずに熱中症になってしまうなどトラブルが多発したため、スマートリモコンや人感センサーなどのスマートホーム製品を導入して、遠隔でもスマホアプリから安否確認や室温調整、来客対応ができるようにしたのです。また母が音声だけで家電や照明を操作できるようにもしました。

そんな取り組みや導入した製品を紹介する「実家スマートホーム化情報館」というブログをつくり取組過程を紹介したところ、同世代で同じニーズを抱えた人達に「これは参考になる」と評価してもらえるように。もともとライターの友人が多かったこともあり、新聞や雑誌、Webメディアに取材記事が載ることも増えました。

その中の1人が新聞コラム内で使った「見守りテック」というネーミングが気に入り、私自身も関連記事を執筆する際の肩書を「見守りテックコーディネーター」としました。

個人として取り組んでいるだけなのにちょっと背伸びしすぎかなとは思ったのですが、ブログを通じての情報発信は精力的にやってきましたし、問い合わせフォームから寄せられる相談や質問にも無償で答えていました。ITを使って、離れて暮らす高齢の親の安否確認やサポートができるということを、もっと多くの人に知ってほしい──そんな思いも募っていたので、肩書をつけることで、より積極的な啓蒙アクションができるかもという期待もありました。

そして意を決してSNSで宣言してみたのです。「見守りテックコーディネーターとして、『見守りテック』を広めたい」。

すると、知人の編集者さんから打診がきました。そのテーマで本を出してみませんか?と。その本が2023年11月に日経BPから出版された「親が心配な人の見守りテック」です。

ここまで読んでこう思った方も多いでしょう。「なんだ、肩書をつけただけで本を出したわけじゃないじゃないか」と。ワークショップ開催やセミナー講師もしているし、もともとライターとして編集者とつながりもある。そしてずっと以前に別テーマで本を出していて、ミニサイト本や見守りテック本が初めての出版というわけでもありません。

ただ、以前出した本は、本業の関連でした。また「ミニサイト」「見守りテック」以外にも、自分は「ビアガーデン」「日帰り温泉」「小型バイク沿岸ツーリング」「素掘りトンネル」などさまざまなテーマでサイトを立ち上げ情報発信しているのですが、他のテーマでは書籍出版のお声がけなどはありません。テーマ特化型サイト運営者として多少の認知度はありますが、そこ止まりです。

ミニサイトや見守りテックという領域では、自分自身に肩書をつけたおかげで、サイト運営にとどまらない展開を果たせたのだと思っています。

目指したいことを肩書にする

自分だけの「オリジナル肩書」をつくって名乗ってみたら、2冊の本を出版できた話

もちろん「本を出すこと」がゴールだとは思っていませんし、最近は紙の本が読まれなくなってきています。個人的にも、電子書籍以外はあまり買わなくなっているので、何も出版社から紙の本を出さなくても、自力でAmazonのKindle本を出せばそれで充分という考え方もあります。

ただやはり、テーマによっては「紙の本」が大きな威力を発揮します。見守りテックがまさにそれで、本を出したことで介護業界の方々からの問い合わせも増えており、セミナー講師なども頼まれるようになりました。

サイト運営者仲間でも、運営サイトのプロフィールページで自分に肩書を設定したら、急に雑誌やテレビからの取材件数が増えたという人もいました。確かに肩書があるほうがオーソリティとして信頼されやすいというのはあるでしょう。

何かはまっていることや真剣に取り組んでいることがあり、それをもっと広めたい、今後の副業の軸にしたい、あるいはライフワークにしたいという思いがあるなら、何か肩書をつけてみることには意味がありそうです。

問題はどんな肩書をつけるか、です。実績もないのに張ったりだけの肩書をつけたって意味がないばかりか、場合によっては「なんか怪しい」「あつかましい性格の人だ」と逆に信頼を失う可能性もあります。

ただ、実績はつくれます。何も「仕事として取り組んでいる」だけが実績ではないからです。例えば自分は「見守りテックコーディネーター」を名乗りましたが、別にコーディネーターとして仕事を請け負って報酬をもらっているわけではありません。サイトを通じて情報発信し、フォームやSNSで寄せられる相談に答えているだけです。でもそれだってコーディネーターだと思うのです。

「まだ肩書として名乗るには実力不足すぎる」と思うなら、目指したい肩書の後ろに修行中の身であることを示すフレーズを追加してみましょう。例えば「○○○(見習い)」「○○○目指して修練中」など。これなら、抵抗感も多少緩和されるのではないでしょうか。

そして気付くはずです。頭の中で漠然と「将来こんなことしたいなあ」と考えているだけなのと、それに名前をつけて肩書として掲げた時の、自分自身のマインドやモチベーションの違いに。きっと何らかの変化があると思うのです。自分にオリジナル肩書をつけるという行為は、自分の目指すもの、やりたいことの「見える化」なのです。

オリジナル肩書で自分を追い込む

モチベーションが上がるだけではありません。肩書は、自分を追い込む役割も担ってくれます。とりわけ、肩書に対してまだ実力や実績、認知度がビハインドしている時、自分自身が肩書に少々気後れを感じている時にはより有効に働きます。「この肩書にふさわしいパフォーマンスをしなくては」と思うからです。

例えば自分であれば、同じオンラインセミナー登壇でも、「離れて暮らす親の見守りにスマートホーム機器を活用した体験を持つ和田さん」として紹介されるのと、「見守りテックコーディネーターとして活躍する和田さん」として話をするのでは、プレッシャーも違います。準備していく資料の分量やクオリティだって変わります。前者なら自分の体験談だけで十分ですが、後者の場合は違います。「専門的に研究している人」としてより期待されるので、自分自身が体験した範囲だけでなく、直近のトレンドや業界の最新ニュースなども調べてまとめて紹介するようになります。

今の実力・実績と、目指したい自分の間にちょっと距離がある場合、その差分を埋めていく努力が必要になりますが、オリジナル肩書を名乗って活動することで周囲からの期待プレッシャーも感じるようになり、結果、目指すレベルへの到達が加速する効果も期待できます。

ニッチジャンルなら「第一人者」だって夢ではない

自分だけの「オリジナル肩書」をつくって名乗ってみたら、2冊の本を出版できた話

私は今53歳です。フリーランスなので定年はありませんが、仮に定年を60歳としたら残り7年、65歳なら12年です。社会人生活全体から考えたら、残り期間のほうがはるかに短くなりました。

「今さら新しいことを始めても」という気持ちもあります。時間の問題だけではありません。50代に突入してから気力も記憶力も衰えを感じているからです。実際、昨年プログラミングの学習を始めましたが、なかなか学習内容が頭に入らず、3歩進んでは2歩下がる情けない状況の繰り返しです。

ただ「見守りテック」というニッチなジャンルであれば、自分自身の体験をベースにこれからも情報収集やレビュー記事作成などを通じて、誰かの役に立つ情報を発信していけるかなと思えますし、実務経験ゼロの初心者プログラマーでも、「スマートホーム製品を使った見守り」「認知症サポート」「単身者の安否確認」といった自身の経験とプログラミングスキルを掛けあわせたアプリ開発なら、誰かに役立つちょっとしたものがつくれるかもしれません。

ニッチジャンルであれば、短期間でも第一人者になれる可能性は十分あります。そしてそのニッチジャンルは、何もゼロから創造していく必要はないのです。2つあるいは3つ、得意な事や好きな事、経験したこと、自身の環境などを掛け合わせてつくることができるのです。

情報発信の蓄積で足場を固める

……と言われても、やっぱり何から始めればいいかわからないと困惑した方。オススメはやはり、ネットでの情報発信です。

インスタで1つ新しいアカウントをつくり、そこに毎日コツコツ投稿してゆくのもありです。スキマ時間を使ってできるでしょう。もちろんショート動画などを活用するのもありです。もう少しまとまった量の情報を発信するということなら、「note(ノート)」を使ってもいいですし、YouTube動画だって難しいことはありません。

始めると、いろいろハードルも見えてきます。たとえば、初心者にも理解しやすい文章がなかなか書けないといった悩みもあるでしょう。文章を書き始めるとつい長くなってしまいすぐ離脱されちゃうなんて方も。動画に格好いいタイトル画像をつけたいけど、自分にはそのセンスがないなど。

そんなあなたの強力なサポート役になってくれるのが、今を時めく「生成AI」です。長い文章を要約して、読みやすい記事にしたててくれるのはAIが得意とすることですし、どんなことを書きたいのか骨子を渡して肉付けして下書きをつくってもらうこともできます。逆に構成案を考えてもらうこともできます。「Canva(キャンバ)」のAI画像生成機能を活用すれば、格好いいイメージ通りのヘッダー画像(タイトル画像)だって簡単につくれます。

もちろんAIに全部委ねちゃえと言っているわけではありません。書きたいこと、つくりたい図表は頭の中にあるんだけど、それをうまく文章にまとめられない、見やすく整理するスキルが今ひとつという方であれば、その手助けをAIにお願いすればいいのです。

そんな点でも、今は本当にチャンスなんです。自分ならではの「視点」を武器に、苦手な部分や時間がかかる作業はAIの力を借りて、短時間で効率的なアウトプットができるからです。そして本記事のテーマでもある「オリジナルの肩書」をつけることで、なりたい自分を可視化して、そこに到達するまでのスピードを加速する。ぜひ試してみてください。

あ、そうそう。ひとつアドバイスが。いいオリジナル肩書が思いつかないという時には、ぜひ生成AIに相談してみてください。きっといろいろな提案をしてくれると思うし、壁打ち役にもなってくれますよ。

(文・和田亜希子

presented by paiza

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